アスリート、文化人、経営者など各界のトップランナーによる、人生の特別講義を提供するイベント「Climbers(クライマーズ)」。その第8弾が、2025年5月8日、9日の2日間にわたって開催され、ビジネスパーソンを大いに熱狂させた。今回、テレビプロデューサー佐久間宣行さんとミックスグリーン代表取締役の林士平さんによる特別講義を一部抜粋して掲載。すべての講義を聴くことができるアーカイブ配信はこちら。※2025年5月12日〜5月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内下の「無料視聴登録はこちら」より。

ヒット作の生み出し方
佐久間 林さんは「少年ジャンプ+」の編集部員として、『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』など、大ヒット作を手がけられています。現在、最も注目を集める漫画編集者ですが、ご自身では成功した秘訣をどう分析されていますか?
林 成功という結果はほとんど運だと思っております。でも、仕事をしてきた「量」だけは胸が張れます。20年前に集英社に入社した頃、上司によく「働き過ぎ」と言われました。「お前が死んだら俺らの首が飛ぶ」みたいな感じで。じゃあ、タイムカードを切らなきゃいいだろうと思って、これは「自分の趣味」って思いながら、めちゃくちゃ働いていたんです。
佐久間 そうなんですよね。若い頃に自分にエンジンかける時期をつくっておかなければ、抜き出ることはできないと思います。
林 漫画の編集者は人と会って、人を育てるということをやっていかないとどうにもなりませんから。
佐久間 僕が勤めていたテレビ東京は弱小のテレビ局。フジテレビや日本テレビにはまったく敵わず、ダウンタウンやウッチャンナンチャンといったスターは使えない。だから、発掘していく作業が必要。ライブハウスに行きまくって、おぎやはぎや劇団ひとり、バナナマンを見つけてきた。彼らを売り出せば、一緒に大きくなれるかもと思っていました。林さんは、売れる作家をどうやってつくっていくのでしょうか。
林 よく漫画家から「どうしたら生き残れますか」と聞かれます。僕は「毎回、神回をつくることですね」と答えます。もちろん毎回神回というのは無理ですけど、でも神回を目指して継続していかないとダメなんです。不倫ネタや暴力系といった刺激的なテーマは、話題になりやすい。でも、根本的な「面白さ」がないと読者は遠ざかっていきます。作者に一時的なバズりを期待するのではなく、積み重ねていく力を養ってもらわないといけないなと思っています。
藤本タツキの「捨てる勇気」
佐久間 『チェンソーマン』の藤本タツキ先生は、最初から天才だったのですか?
林 お会いした当初は、普通の新人さんとそんなに変わらない印象でした。他の人よりも、ネームを切る本数が多い人(作品数を多く描く人)だなっていうくらいで。でも、捨てる勇気をもった人だと感じていた。捨てることができるかどうかって、とても重要なことなんです。
佐久間 捨てる勇気とは?
林 何ヵ月も何年もかけて描いた作品は、なかなか捨てられないじゃないですか。愛着が湧いて、絶対に世に出したいと思うから。でも、そこに固執していても前には進めない。藤本さんの場合、「この作品はちょっと…」って伝えると、「わかりました。じゃあ、これもう描くのやめます」と決断できる。捨てられる勇気も才能ですね。
佐久間 なるほど。編集者の意見を聞きながら、ダメなものは捨てて、新しい作品を常に生み出し続けていく。スーパースターになるにはそれしかないんでしょうね。
林 諦めずに継続する。それだけだと思います。漫画家という仕事は、お金がなくて生活はギリギリ。しかも作品はボツ続きというストレスを抱えている。それでも描き続けられた人が成功を収められるんです。
佐久間 お笑い芸人の世界も同じです。芸人もいろいろな模索や試行錯誤を繰り返した結果、最初の芸風で売れることがある。でも、それって最初の芸風ではないんですよ。もがいた時期を経たから、芸に重みが加わっている。視聴者に、そうした重みや苦しみは意外なほど敏感に伝わるものです。
林 その通りですね。だから、苦労を続けた漫画家が売れてくれると、「本当に良かった」と心から思える。
佐久間 林さんが成功をつかめた最大の理由は、作家へのリスペクトだと思う。上司に働き過ぎと言われながらも、作品のために時間を割いてくれる。運ではなくて、自分の手でヒット作を引き寄せているんです。
▶︎▶︎佐久間宣行さんと林士平さんの講義全文を動画でチェック。
2025年5月12日〜5月30日18時までの無料限定公開。申し込みは画面内下の「無料視聴登録はこちら」より。
佐久間宣行/Nobuyuki Sakuma
1975年福島県生まれ。2021年にテレビ東京を退社し、現在はフリー。「ゴッドタン」「あちこちオードリー」YouTube「NobrockTV」ラジオ「佐久間宣行のANN0」Netflix「トークサバイバー」「LIGHTHOUSE」DMMTV「インシデンツ」など多方面で活躍。著作に『佐久間宣行のずるい仕事術』『ごきげんになる技術』『その悩み佐久間さんに聞いてみよう』。
林士平/Shihei Lin
ミックスグリーン代表取締役・『少年ジャンプ+』編集部員。連載中の担当作品は『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『幼稚園WARS』『ケントゥリア』『おぼろとまち』『クニゲイ~大國大学藝術学部映画学科~』『ヤッターラ』『良太は弟を殺した』『セイレーンは君に歌わない』『こころの一番暗い部屋』。過去立上げ作品は『青の祓魔師』『この音とまれ!』『ルックバック』他多数。