放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「美術系の学校に通っているのですが、お金がなくて展覧会にも自由に行けず、写真集や図録を買うのも躊躇してしまいます。自己投資をするお金がない人はどうしたらいいでしょうか?」という相談をいただきました。
これは、芸人学校の講師という職業柄、よく同じような相談や質問をされますね。
とくにこの4~5年で、お金の悩みを抱えている若者が増えてきたように感じています。
そこで今回は、「自己投資をして勉強したいけどお金がない人たち」に向けて、かつて貧乏作家だった僕の経験をふまえて思考のツボをシェアしていきたいと思います。
「お金がない」ときが「最もクリエイティブになれる」とき
まず僕は、「お金がない」ことで悩んでいる生徒たちに、「お金がないときが最もクリエイティブになれるときだよ」と言って励ましています。
若手芸人は実生活でも金欠ですが、舞台でネタをやるにもコント番組のセットのような美術は使えず、ほぼパイプイスと学校机のみでコントを創らなければなりません。
僕はそんな生徒らに、
- 映画『カメラを止めるな!』は、わずか300万円の制作費だったからこそ、「1カットの長回しで撮影する」という画期的な手法にたどり着いたこと
- 人気ドラマ『孤独のグルメ』は、他局の3分の1の予算とも言われるテレビ東京の深夜枠だったからこそ、「リアルな実店舗×フィクション」という新鮮なシナリオを編み出したこと
……などの事例を挙げていき、“アイデアというのは「何かしらの制限」があってこそ生まれるもの”という視点を共有していきます。
すると生徒らは、以前よりも意欲的にネタに挑戦してくれるのですが、これがかなり面白いし、同じイスと机のみを使ったコントでも、設定や切り口が無限に出てくるんです。
お金にゆとりのない若手なので、衣装も小道具もチープなのですが、そこには次世代のお笑いの匂いがするクリエイティビティが確実にあるんですね。
この「お金がないとき=クリエイティブになれるとき」は、芸人界だけの話ではありません。
絵の具を買うお金にも苦労しながら名画を描いたゴッホやセザンヌ。あかぎれの手で炊事洗濯をしていた母の姿を思い、家電メーカー(パナソニック)を興した松下幸之助さんなど、芸術やビジネスをはじめ、あらゆる分野でも同じことが言えます。
「お金がない」は、心が満たされないことも多々ありますが、その満たされていない心の隙間にこそ、何かを始める、ひらめく、あなただけの種が埋まっているとも言えるのではないでしょうか。
社会人は「自己投資」より「自己透視」
続いては、僕が20代のころに実践していて、とても有用だったハックをシェアしてみましょう。
「自己投資をするべき」「自分磨きをするべき」という風潮に流されやすい人は、SNSなどで目にする“他人の正解をインストールしがち”になります。
自分さがしのために海外に出かけたり、流行りの資格を取りたくなったり、推しがススメる株を買ったりと、“正解は、自分の「外側」にあるはずだ”という視点になっていきます。
しかし、SNS上にいる、成功者やキラキラ輝いている人たちが見せつけてくる自己投資は、確固たる収入があっての「正解」。
海外で見聞を広めたり、高いジムに通ったり、投資を始めたり、彼らをマネしようとすると、必ず「お金がない!」というマインドになっていきます。
僕の場合は、社会に出て、すぐに番組企画や舞台脚本を書かなければならなかったので、「自分の強みは何だろう?」と、“自分の「内側」にある正解”に向かっていく、絞り出していく視点になりました。
いまになって思えば、この“外側に向いた「自己投資」でなく、自分の内側を透かして見つめてみる「自己透視」”が、その後の活動の背骨になってくれたと感じています。
社会に出るということは“家族や学校生活と一度ラインを引いて「独り立ちする」ということ”。
そんなときこそ、「外側」ではなく「内側」、つまり自分と丁寧に向き合う、内省の好機とも言えるのではないでしょうか。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。