放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「新社会人です。初めて取り組む仕事ばかりで、分からないことだらけなのですが、上司に『何からどう聞いたらいいのか?』が分からないんです。初歩的なことを聞いたらガッカリされそうですし……。一体どうすればいいですか?」という相談をいただきました。
上司や先輩は「分からないことがあったら聞いてね」と言うけど、初めての仕事はハテナだらけで、そもそも何を聞いたらいいのかが分からない。
そんな若手も、育成に悩むメンター(指導者)も増える季節ですよね。まさに僕も、同じように不安な顔をしている新入生たちに囲まれている真っ最中です。
そこで今回は、『何を聞いたらいいのかが分からない人たちへのアドバイス』を、メンター側の視点からほぐしていきたいと思います。
「分かったフリ」をやめて「分からないフリ(・・)」を入れる
まず、指導役の多くは、若手にミニトラップを仕掛けるのが好きです。
「このタスクには、どれくらいのリソースが必要だろう?」「5名アサインしたけど、バッファを持たせるべきかな?」
などと、嫌がらせでなく反応をチェックして、育成レベルを見極めていきます。
僕も吉本NSCで、あえて「舞台の上手(客席から見て右側)に立って」や「そのイスをわらって(片づけて)くれる?」などの芸人用語をつかい、反応を確かめることがあります。
すると、必ずいるのは「分かったフリ」をして行動する若手。そのほとんどが必ず「しなくてもよかった失敗」に行きつきます。
そして、浮かんだ疑問を「分かったフリで突破するクセ」がついている若手は、半年経っても、一年が過ぎても、同じ失敗をルーティン化していくんです。
なので僕は、生徒らにこう伝えています。
「新人は“新しいことを覚えていく人”なんだから、分かったフリをするのはやめて“知らないので教えてほしい”というアクションを起こそう。漫才の「フリとオチ」の「フリ」のように、相手に“分かっていないというフリ”を差し向けることが大切なんだよ」と。
でも、分からないことだらけだから、初歩的なことまで聞いちゃうと、レベルが低いヤツと思われるのでは……? と心配な方もいるでしょう。
大丈夫です。メンターは“一度にすべてを伝えると頭がパンパンになる”ことを知っているので、要点をかいつまんで伝えて“新人からの「質問待ち」をしてる”ことが多いからです。
ですので、どんどん初歩的なことから質問してみてください。もしも、嫌な顔をする人がいたら、それはあなたでなく、メンター側に問題があるので、どうかご安心を。
売れっ子になった芸人に共通していたマジックワード
芸人の卵を15年育成していると、売れていく芸人さんの共通点に気づくことが多々あります。
その一つが“「分からないこと」に対する「すり合わせ力」”です。
僕の授業では、ネタを見たあとに講評(ダメ出し)をするのですが、大部分の生徒は、じっと黙って聴き、相づちを打って終了。
彼らは、指摘されたダメ出しを家に持ち帰り、それを加味しながら新ネタを練り直していきます。
しかし、令和ロマン、コットン西村、レインボー実方、ナイチンゲールダンスといった現在メディアで活躍している生徒たちは、ちょっと違いました。
- ○「さっき“本題に入るまでが長い”とおっしゃったのは、ツカミと導入部分の長さを半分にするくらいの理解で合っていますか?」
- ○「前回、指摘された“ボケとツッコミの台詞のバランスの悪さ”を改善して、今日は6:4にしてみたんですが、この理解で合っていますか?」
そう、ただ持ち帰るのではなく“なるべく現場で解像度を上げる「すり合わせ力」に秀でていた”という点なんですね。
彼らが知っていたのは、「この理解で合っていますか?」というマジックワードの有用性。
すぐに実践できるフレーズなので、ぜひマネして、現場で上司に言ってみてください。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。