放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「私の同僚に、口を開けば『上司ガチャにハズレた』とか『俺は親ガチャにハズレたから……』と、自分の環境が恵まれていないことを愚痴る人たちがいます。一緒に働いているとげんなりするのですが、桝本さんならどんな声をかけますか?」という相談をいただきました。
約5年前に「親ガチャ」という言葉がトレンド化し、今では、上司ガチャ、隣人ガチャ、配達員ガチャ、医師ガチャ……など、本家のカプセルトイばりに増殖中です。
社会トレンドの写し鏡である若手芸人のネタでも、「〇〇ガチャ」をテーマにした漫才は多いので、すっかり現代若者に定着した思考と言えるでしょう。
そこで今回は、「〇〇ガチャにハズレた……」と嘆きがちな若者に向けて、心の交通整理をしていきたいと思います。
〇〇ガチャは、あなたの「思考ガチャ」から出たハズレ
まず「親ガチャ」ですが、僕ら昭和世代も「自分の不遇を、親や出自のせいにしたい」という感情はありました。
僕の家も裕福でなく、震度3の地震のときに、周辺の家はビクともしていないのに、我が家だけひび割れたほどのボロ家でしたし、恥ずかしいので友達を家に呼んだ記憶もありません。
しかし、親のせいにするという発想はなく、「それを言ったらおしまいだ」という自制がありました。
5年前に登場した「親ガチャ」は、みんなが感じていたけど言えなかったことを表した「SNS上の言葉遊び」のレベルでした。
よくないのは、「言わないでいいこと」だったものを「言って当然の権利」に上書きし、言い訳の盾や、他者を攻撃する武器につかう若者が増えたことです。
なので僕は、吉本NSC生たちにこう伝えています。
「〇〇ガチャって発想は、君たちの頭の中にある、思考のガチャから出たハズレなんだよ」と。
私たちの日々の行動・反応・思考は、頭のなかにある「ガチャガチャ」から出てきます。
- なに食べよう?→□□町のカレーが美味しいらしい
- 誰に頼もう?→新人はハラスメントになるからよそう
- 電話が鳴った→詐欺かもしれない、出ないでおこう
~など、日々集めた知見が、ガチャのように頭から出てくるんです。
正しくニュースや情報をとらえ、アップデートしている人は「有益なカプセル」が出やすくなり、いかがわしいインフルエンサーの言説や情報を仕入れている人は「どす黒いカプセル」が出やすくなるわけですね。
冷静に考えれば、昔から、親どうしの格差はあったし、迷惑な隣人はいたし、横柄な配達員もいたはず。「よく考えると〇〇ガチャは、いま声高に叫ぶことではなく、昔からあるごく当たり前のことじゃないか?」と認識をアップデートし、有益なカプセルとして頭に置いておくことが大切なんですね。
「上司ガチャ失敗」こそが「成功のもと」
次に「上司ガチャ」ですが、これを言ってしまうビジネスパーソンは、非常にもったいないと思います。
なぜなら、上司の能力がイマイチなほど、あなたのチャンスが拡大するからです。
仕事はすべて“早く試せるポジションの人が勝つ”ように設計されています。
例えば、お笑い界もそう。NSCには新しい設定や切り口のネタを考えつく生徒がいますが、そのほとんどが、すでに舞台に出ている先輩たちによって先取りされていきます。
テレビ局でも、目新しい企画を発想する若手社員がいますが、より高いポジションの上司に似たような番組をやられて、泣く泣く企画を引っこめるケースも少なくありません。
これは、新ビジネス、商品開発、サービス、デザインなどの分野でも同じこと。
上司ガチャに失敗した人は、早めに登用される可能性が高まり、早く試せる環境にいけるチャンスが広がるので、僕に言わせれば“上司ガチャ失敗こそ成功のもと”なんです。
「いやいや、ダメな上司の下につくと、なにも学べるものがないから失敗なんだよ」と言う方もいるでしょう。
しかし現代は、いま読んでくださっている本コラムのように、“ネットで無限のノウハウを無料で入手でき、自分だけの働きかたマニュアルを創れる時代”です。
ガチャ失敗の上司は、「未来の自分のために、いろんな悪いお手本を見せてくれているインストラクター」だと思って反面教師にする。
それだけでも十分な「ガチャ当たり」ではないでしょうか?
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。