PERSON

2025.03.22

東大在学中に6億円で事業を売却。大阪万博にアート事業で参入する若手起業家・下山明彦とは

東京大学在学中に21歳で学生起業を果たし、約6億円で上場企業にバイアウト。ベンチャー企業「Senjin Holdings」を経営しながら、東京藝術大学でデザインを学びアート事業にも進出した下山明彦さんが語る、人生を生きる意味とこれからの目標とは。前編。連載「起業家の星」

仕事とは自らの知見を広げる機会の創出

「今、僕がやりたいこと、それは“知覚の最大化”です。人生の中で感じられること、体験できることを最大限に増やすためには、人生の“密度×時間”をどこまで充実させられるかを考えないといけない。

現代の科学技術なら不老不死だって不可能ではないし、120歳くらいまで現役で戦うことだってできる。あとは生きている間にどこまでのことができるか。その問題を解決できれば、人類の進化のスピードはさらに加速するはずです」

そう語るのは、Senjin Holdingsの代表取締役を務める下山明彦さんだ。東京大学在学中に、東大生30人を集めて暗号資産メディア「CoinOtaku」を立ち上げ、若干21歳にしていわゆる学生起業に成功。

創業からわずか半年で月間100万PV、月利1000万円を超える業界屈指のメディアに成長させ、2020年に約6億円で上場企業に売却。その後、東京藝術大学の修士課程に進学し、現在はアーティストとしても活動している。

2021年からは、起業家のビジョンをアートに落とし込むことを目的とした、アーティストグループ「ALT」の主宰を務め、2025年の大阪万博でも自身の作品が展示されるうえ、トークセッションのオーガナイザーも担当する予定。

マーケティング事業を中心に経営をしながら、さまざまな業界を横断してマルチに活躍する、今注目の若手起業家だ。

「僕にとって“仕事”とは、自らの知覚を広げる機会。マーケティングやアート事業を通して社会に関わり、さまざまな思案を試してみる実験の場なんです。

ビジネスで人々に新しい価値を提供するためには、今までの自分では考えなかったようなことを想像することも必要。そういう意味では、仕事は自分の視野や知見を広げてくれる楽しみでもあります」

下山明彦/Akihiko Shimoyama
1996年広島県生まれ。東京大学在学中に、暗号資産メディア「CoinOtaku」を立ち上げ、約6億円で上場企業にバイアウト。2019年に「Senjin Holdings」を創業し、2021年には東京藝術大学の修士課程に進学。アート事業やマーケティング事業、地方創生事業など、さまざまな分野で多方面に活動をしている。

広島県の自然の中で自由奔放に育った子供時代

日本最高峰の東京大学を卒業し、美大のトップクラスとされる東京藝術大学に進学。まさに人並み外れた才能の持ち主と言える下山さんだが、幼少期は意外にも自然の中で遊びまわる普通の少年だったという。

「子供の頃は、生き物が好きだったので、よく虫を捕まえて遊んでいました。両親もあまり勉強などに関してうるさく言う方ではなく、どちらかというと自由奔放に育ってきたタイプの人間です。

もともと勉強は得意だったんですが、親が持っていた『ドラゴンクエストⅦ』をプレイしているうちに、自然と自分の頭を使って考えることが多くなり、他の子よりも読み書きや計算ができるようになって。

逆に、僕から『成績1位だったらゲームを買って』と親に提案して、ゲーム感覚で楽しみながら勉強していました」

当時、新聞記者をしていた父親に連れられ、実際に取材現場に行ったこともあるという下山さん。警察官から情報を得る“サツ回り”に向かった際には、幼稚園児ながら警察官にひとりで聞き込みに行ったこともあるのだとか。

他にも、官邸で行われるパーティーに出席するなど、幼い頃から父親の仕事を肌で感じていた。そんな父親は、現在は新聞会社のグループ企業の社長となり、ともにビジネスの世界で戦う経営者として活動しているそう。

また、中高一貫校に入学してからは、学内にディベート部を創設。さまざまな主張をぶつけ合うディベートのスキルだけでなく、賛成反対の立場を決める“じゃんけん”の分析も行なっていた。

「ディベートの大会で優勝するためには、自分が主張しやすい立場になることも大切。そのために、数学の先生から統計学などを教わりながら、じゃんけんの必勝法を研究していました。

全校生徒とじゃんけんをして、『複数人でやるとこの手が出やすい』とか『最初にグーを出すと宣言してからやると、相手はこの手を出すことが多い』といった、さまざまな癖や偏りのデータをもとに方式を編み出していったんです」

相手の思考を読み取り戦略化していくことは、ビジネスの世界にも通用する重要なスキル。物事を有利に進めるためにはなにをすべきかをまず考え、データを分析しながら最適解を導き出す力は、この頃に育まれたと下山さんは語る。

2024年の「日ASEAN Future Generationビジネスリーダーズサミット」で展示され、2025年に開催される大阪万博のASEANパビリオンでも展示予定の作品。

自らを達観して見つめるための“瞑想”

120歳まで現役で戦うビジネスパーソンを目指す下山明彦さんは、寿命を伸ばすための健康管理にも手を抜かない。22歳から健康診断を毎年欠かさず受け、自らの身体の状態を数値によるデータで把握。

適度な運動や健康のためのサプリメントも取り入れ、いつまでもパワフルに働ける状態を維持している。

また、現役で仕事をするこれからの時間だけでなく、今の時間の“密度”を高めるためにやっていることもあるのだとか。それが、自らの精神を整える“瞑想”だ。

「中高がカトリック系の学校だったので、宗教色が強い文化が多くあったんです。なかでも、授業の最初と最後に静かに目を瞑って心を整える“瞑黙”という時間があって。

自らの心身に向き合う行為に感銘を受けました。物質と精神の間でニュートラルな状態になれる時間というか。今でも感情的になった時や頭の中で思考が止まらない時は、自分を達観して見つめるために瞑想をするようにしています」

東大時代に、インドで10日間の瞑想修行をしたこともある下山さん。他人と話すことも目を合わすことも許されない環境で、朝4時から夜の21時までひたすら瞑想をする時間は、精神的にも身体的にも苦痛が大きかった。

日中はひたすら瞑想に打ち込むために時間を過ごし、夜間は止まっていた思考がとめどなく回り出すので、十分な睡眠が取れない状態で数日を過ごしたという。

しかし、そんな過酷な10日間を過ごしているうちに、なにも考えずにただ呼吸に集中する時間が増え、心身の感覚が研ぎ澄まされていくのを実感。今でもライフワークの一部として仕事の合間などに瞑想を行っているそう。

“知覚の最大化”にはまず人生の密度を濃くしていく必要がある。そのためには、まず生きている間になにをするべきかを見つけなくてならない。

他者の考えや宗教に頼るのではなく、自分の感覚で人生の目的を探りたいと語る下山さんとって、日常生活では得られない“感覚”を呼び起こしてくれる瞑想は、自らを達観した視点で見つめ直すのに欠かせない存在なのだ。

下山明彦さんの素顔が垣間見える一問一答!

Q 移動時間や隙間時間は何をしますか?
瞑想するか、アイデアのメモを書き留めています。

Q 好きな映画は何ですか?
『インセプション』。この映画がきっかけで、明晰夢をコントロールできるようになりました。

Q 1日で一番好きな時間帯はいつですか?
地下のアトリエにある3段ベッドで寝る時。

Q 1日の終わりにすることは?
簡単な日記をつけて振り返ります。

Q 自己投資するなら何をしたいですか?
総合格闘技の学習をガッと終わらせたい。

Q 睡眠時間はどのくらい?
だいたい6時間ほど確保するようにしています。

Q 仕事以外で挑戦してみたいことは?
過去と未来の自分の人格を作って対話できるようにしたい。

Q もう一度訪れたい場所はどこ?
養老天明反転地。

Q 両親の教育方針で感謝していることは?
やりたいことを自由にやらせてもらったこと。

Q 精神的に強くなるために意識していることは?
毎朝短い瞑想を取り入れています。

Q 得意なことは?
自分の欲望に忠実になること。

Q 連絡方法は電話? LINE? メール?
連絡手段はLINEがメインですが、急ぎは電話です。

Q 座右の銘は?
千里の道も一歩から。

Q 仕事で成し遂げたいことは?
世界を加速させること。

Q 今まで出会った人の中で、こんな仕事人になりたい!と思った人は?
常に学び続ける姿勢をもつ先輩経営者です。

Q リモートとリアルの打ち合わせをどう使い分けてる?
リモートは効率重視、リアルはじっくり議論したいときに使い分けます。

Q 人生のターニングポイントは? その理由は?
高校の頃の瞑想していた時。認知が一気に変わりました。

Q アイデアが湧く瞬間は?
アトリエで人と話している時か、瞑想をしている時。

Q 今の生きがいとは?
数千年残り続ける作品をつくること。

Q 喜怒哀楽は激しい方?
わりと穏やかなタイプだと思います。

Q 今の仕事を辞めたいと思ったことはある?
ありません。

Q 10年後は何をしていると思う?
全大陸で作品をつくっていたいです。

Q 夢を叶えるために大切なことは?
自分を信じて行動し続けること。

Q あなたにとって仕事とは?
自分の可能性を試し続けるための最高のステージだと思います。

TEXT=坂本遼佑

PHOTOGRAPH=デレック槇島(StudioMAKISHIMA)

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年5月号

単なるゲームを超えるゴルフ、60通りの誘惑

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年5月号

単なるゲームを超えるゴルフ、60通りの誘惑

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ5月号』が2025年3月25日に発売となる。今回の特集はビジネスライフを輝かせる“単なるゲームを超えるゴルフ、60通りの誘惑”。さらにファッション特集として“エグゼクティブが着るべき贅沢な服”を展開。表紙にはSnow Manの岩本照が登場。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる