「アート」とひと口に言ってもその幅は広く、過去、現在、未来と続く、非常に奥深い世界だ。各界で活躍する仕事人たちはアートとともに生きることでいったい何を感じ、何を得ているのか。今回は、アパレル会社Yutoriの若き経営者・片石貴展氏の想いに迫る。【特集 アート2023】
ともに育って、ともに大きくなっていく
国内最大級の古着コミュニティ「古着女子」を立ち上げ、25歳でYutoriを創業。現在は「9090」「genzai」など21のブランドを展開し、創業わずか4年で年商18億のアパレル会社へと成長させた、ゆとり世代が生んだ気鋭の経営者、それが片石貴展氏だ。
アート好きな経営者の先輩たちに影響を受け、アートを購入し始めたのが約2年前。選ぶのはまだオークションなどにかかっていない若手作家だ。
「同じ目線で応援できるというのが一番の理由です。世界的に有名なアーティストの作品でなくていい。彼らとともに育って、ともに大きくなっていく。そこに僕のような若い世代がアートを買う意味があると思います」
気に入った作品があれば、自ら作家に会いに行き、作品の背景や意図を聞く。
「作品は多少なりとも作家の人格を切り取ったものであると思います。だから作品や作家自身の空気感に触れてシンパシーを感じるか、作品と同時に人として好きになれるか、そういう感覚も大事にしています」
同年代ということもあり、作家との交友関係が、互いによい影響をもたらすことも多い。
「友人の三澤亮介くんの作品は、僕が勧めた映画からアイデアを得たと聞き、もう買わないわけにはいかない(笑)。僕自身も異なる視点を持つ彼らから、大きな刺激を受けています」
自宅だけではなく、コレクションの半分は会社にも飾る。そこには、若いスタッフがアートを知るきっかけにしてほしいという思いがある。
「ファッションも最初はいいなと思う直感からはじまり、その意味や背景を知ることで、より多層的な視点を持てるようになる。その感覚を押しつけがましくなく、楽しく育てられるのがアートなんです」
今はまだ、選ぶ作家も数も身の丈を考えたコレクションをしたいという片石氏だが、いずれオークションの出品も考えている。それは自身のコレクションの刷新や利益のためではない。
「オークションは作家にとって大きなステップになる。彼らと対話しながら、挑戦したいと言えば、ぜひ出したいと思います」
アート作品を手に入れることは、自分も作家もともに成長し、さらに他の人がアートを知るきっかけをつくること。それが既存の価値観にとらわれない、ゆとり世代の片石氏らしいアートを買う意義だ。
現在のコレクション数
自宅とオフィスで10点
今注目しているアーティスト
先日購入したばかりの山田美優さん。あとは同年代ではないが、気になっているのは工藤麻紀子さん
はじめて購入した美術作品
山田康平さんの絵画作品
気に入った作品の購入方法
インスタグラムで気になった作品をギャラリーで購入
好きなアーティストの共通点
同じ空気感を感じる人。仲良くなれるかどうかも大事
yutori代表取締役社長
片石貴展/Takanori Kataishi
1993年神奈川県生まれ。明治大学卒業後、アカツキに入社。2018年にyutoriを創業し、現在「9090」や 「PAMM」など21のブランドを運営する。2020年7月、ZOZOグループと資本業務提携を締結し、IPOを目指す。Instagram:@yutorikun_