PERSON

2025.03.23

不老不死の時代をどう生きるか。人生の“密度×時間”を充実させる下山明彦の人生哲学

東京大学在学中に21歳で学生起業を果たし、約6億円で上場企業にバイアウト。ベンチャー企業「Senjin Holdings」を経営しながら、東京藝術大学でデザインを学びアート事業にも進出した下山明彦さんが語る、人生を生きる意味とこれからの目標とは。後編。連載「起業家の星」

「なんのために生きるのか」の答えを求めて

東京大学では、一時期、宗教学を専攻していた下山さん。特定の宗教の教義を研究する“神学”ではなく、宗教そのものの仕組みや構造を学ぶ“宗教学”を選んだのには、下山さんならではの理由があった。

「高校時代は“一番強いやつと戦いたい”という、漫画『ドラゴンボール』のような世界観で生きていたので、東大に入学して一番頭がいい人とやり合いたいと思っていました。

でも、現実世界だと一番強いやつと戦ったところで終わりではないし、そこからなにをやっていくのかを考えていかないといけない。その“決め手”がなかったんです。

宗教を信じている人々の一部は、神からの啓示を受けて人生の方向性を決めている。彼らがどうやって宗教から天命や宿命を受けているかを、論理的に理解できれば自分の人生の方向性も見えてくるんじゃないかと感じて」

当時、「なんのために生きて、なんのために死ぬのか」がわからなかったという下山さんは、実際に“死”に直面する体験をしたくなり、友人たちと富士の樹海に入ったことがあるのだとか。

富士の樹海に広がる暗闇の中を歩き回り、直に人の死を目の当たりにするうちに、さまざまな心霊体験を経験。その後も、2週間近く金縛りに悩まされたという。

また、誕生日に実家の墓の近くに穴を掘り、棺桶に入った状態で土に埋まって死体の気分を感じながら、朝まで暗闇でひとり瞑想をしたこともあった。

自ら“死”を体感する経験をすることで、生きている感覚を再認識することができる。「なんのために生きて、なんのために死ぬのか」を考えること、それが下山さんの活動の根幹にある動機なのだ。

下山明彦/Akihiko Shimoyama
1996年広島県生まれ。東京大学在学中に、暗号資産メディア「CoinOtaku」を立ち上げ、約6億円で上場企業にバイアウト。2019年に「Senjin Holdings」を創業し、2021年には東京藝術大学の修士課程に進学。アート事業やマーケティング事業、地方創生事業など、さまざまな分野で多方面に活動をしている。

チンギス・ハンとレオナルド・ダ・ヴィンチを超える

2022年に発刊した共著『若者のための死の教科書』では、人生の意味について悩む若者からの質問に対して、下山さんは「チンギス・ハンとレオナルド・ダ・ヴィンチを足して二で割らない存在になる」という持論を展開している。

生きている意味がわからなくなった時は、まず人生の目的が見つかるまで“不老不死”を目指すことで、とりあえずの時間稼ぎをしてみる。それでもダメな場合は、なにか“大きな物語”に依ってみるのも一種の手だという。

大きな物語とは、今も歴史に残る偉人たちの生き様のこと。生涯を通してやったことの意義を問われるような人物ではなく、死後もその功績を否定されることなく評価され続けている人物の生き方だ。

「僕は、モンゴル帝国の初代皇帝であるチンギス・ハンと、芸術家のレオナルド・ダ・ヴィンチの生き方に憧れます。レオナルド・ダ・ヴィンチは、真の“美しさ”を追求しながら、さまざまな発明や法則の発見で文明を進化させた。

一方、チンギス・ハンは、武力で勢力を拡大させながら、自らの種族の遺伝子を多く残している。また、遺伝子だけでなく文化や宗教など、アジア全体に大きな影響を与えていますよね。

今後、不老不死が実現した世の中になったら、僕ひとりで二人の功績を超えることだってできるかもしれない。そうやって、自分の中で生きる目的を設定することで、とりあえずの“暫定解”みたいなものを作ることができるんです」

チンギス・ハンとレオナルド・ダ・ヴィンチの生き方を、“要素”として取り入れるのではなく、二人の偉人が残した功績を同時に超えていく。“足して二で割らない存在になる”とは、まさに下山さんらしい表現と言えるのだろう。

Senjin Holdingsの社内に飾られている自画像『The fated villain』。漫画『ドラゴンボール』のキャラクター“フリーザ”がモチーフのひとつになっている。

今の下山明彦が目指すマンダラチャート

一方、現在の下山さんは「チンギス・ハンとレオナルド・ダ・ヴィンチを足して二で割らない存在になる」という目標を超えて、新たな理想に向かって活動している。

それが、今の下山さんが目指す「マンダラチャート」だ。

メジャーリーガーの大谷翔平が、高校生時代に書いていたことでも話題となった「マンダラチャート」とは、自らの夢を実現させるために必要な要素を、9×9のマスに書くことで可視化するフレームワーク。

さまざまな分野で活躍する下山さんは、その枠を満たすことを今の目標にしていると語る。

「僕のマンダラチャーの中心には、『人類の歴史に残る』という目標があって。その中心を取りかこむ8つの枠には、これから超えていくべき“大きな物語”の人物や神が描かれており、それぞれにカテゴリーが振り分けられています。

チンギス・ハン – 武力
レオナルド・ダ・ヴィンチ – 知性
葛飾北斎 – 芸術
釈迦(ブッダ) – 悟り
アポロン – 美
ミダス – 富
ニーチェ – 哲学
ノストラダムス – ムーブメント

例えば、浮世絵師の葛飾北斎は、現役で活躍した年数が長く、作風が変化し続けている。また、医師で占星術師でもあるノストラダムスは、現代の世の中を揺れ動かすような予言を残している。

このすべてのカテゴリーの人物を凌駕することで、今の僕が持つ理想を叶えることができる。そのために、今さまざまな分野で多方面に活動しています」

「人生100年時代」という言葉が古臭く感じてしまうほど、人類の平均寿命は伸び続けている。しかし、人生の意味がわからないまま、生きている人も多いのではないだろうか。

これから来る「人生不老不死時代」に向けて、生きる意味をどう捉えていくのか。その問いの答えが下山さんの言葉には秘められているのかもしれない。

TEXT=坂本遼佑

PHOTOGRAPH=デレック槇島(StudioMAKISHIMA)

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