PERSON

2025.03.10

「自分嫌いの沼」にハマったら、過剰な自己肯定はあえて手放すべき

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「仕事で成果が出せなかったり、周りとうまく付き合えなかったりしたときに、自分が大嫌いになってしまいます。そんなネガティブな自分とは、どのように向き合っていけばいいんでしょうか?」という御相談をいただきました。

「自分が嫌い」という人はけっこう多いです。育成現場にいると、相談者さんのような胸の内をよく打ち明けられますし、僕自身も、何度も「自分が嫌いだ」と思いながら夜をこえてきました。

そこで今回は、約1万人をコーチングしてきた知見と自分の経験もとに、「自分が嫌いになり苦しくなったときの思考法、向き合いかたのツボ」をゆっくりほぐしていきたいと思います。

M-1王者も国民的アイドルも「自分が嫌い」  

まず、キラキラ輝いているように見える芸能人も、人知れず「自分が嫌い」という悩みをもっています。

例えば、これまで僕は、ある男性アイドルグループのメンバーから「うまく笑えない自分が嫌いなんです」と打ち明けられたことがあります。

あるM-1王者からは「人に興味がないのに、いつも興味があるフリをして喋ってる。そんな自分が嫌になるときがあるよ」と聞いたこともあります。

日本中を笑顔にしているアイドルが「実はうまく笑えない」、コミュ力お化けの芸人が「実は他者に興味が持てない」という悩みがあるとは思いもしませんでした。

そういった経験から学んだのは、「自分が嫌い」は誰もが平等に持ち合わせている感情だということ。

そして誰もが、「それでも自分のココは好き」という“小さなかけら”を寄せ集めて生きているということだったのです。

自分が嫌いなときは「過剰な自己肯定」とサヨナラする   

では、「自分が嫌い」になったときは、どのような思考で自分と向き合えばよいのでしょう?

その手法のひとつが、男性アイドル、M-1王者、そして相談者さんの共通点にあります。

それは“「自分のココが嫌い」という感情を認め、他者に打ち明けている”という点です。

SNSに「自己肯定感を上げるべき」という言葉が溢れているせいか、吉本NSC生たちの間でも「自分を積極的に評価しなければ」という思考が強くなってきています。

しかし、過剰な自己肯定は、「これは気の迷いだ」「私は強い人間だ」「間違っているのは世間だ」と“自分に暗示をかけていく生きかた”になってしまい、帳尻を合わせるための嘘や見栄を張る回数が増えていくんですね。

大切なのは、自己肯定ではなく“嫌いな自分をそっくり受け入れてみる「自己受容」のほうを採用する”こと。

嫌いな自分、ダメな自分をありのままに受け入れ、そんな自分を認めて赦してゆく。

「私」を認めれば認めるほど、 SNSなどでの他人からの承認は必要ではなくなるし、かえって自己肯定感が高まるのでおススメです。

「自分のココが嫌い」の脱出口は「あの人のココが好き」

続いては、僕が実践している「自分が嫌い」への対処法です。

これまで幾度となく「自分嫌いの沼」にハマってきましたが、そんなときは決まって“自分の欠点を拡大”して見ていました。

うまくプレゼンできなかったのは語彙力がないからだ、あの人に冷たくされたのはコミュ力がないからだ……など、自分の欠点を拡大して、それに固執し、抱き枕のようにしがみついて寝てしまうのです。

このままではマズいぞ……と思い、始めてみたのが“周りにいる人の美点さがし”でした。

キッカケは、何かの本で読んだ、「他人を愛せなくなると、自分を愛することも忘れる」という一文だったと思います。

母親は子供を深く愛していきながら、「家族のために頑張ってる私っていいぞ」「こんなふうに笑える自分も好き」などと自己愛に気づいていきます。

それと同じで、他者への愛情がおろそかになると、自分の個性、欠点、嫌いな部分が、より愛せなくなるんですね。

僕は周りの人の美点探しを始めてから、自分の美点の輪郭がくっきりしてきたと感じますし、それが自分を愛でるキッカケにもなったので、この方法もおススメです。

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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