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2025.03.08

お荷物社員だって輝ける!? シニア世代も注目すべき“プロ人材”という働き方【社長インタビュー】

プロの仕事人なら、企業に就職せずスポーツの「プロ契約」のような働き方が最適格だった!? 本田圭佑氏が惚れ込み出資した人材サービス「キャリーミー」を運営するPiece to Peace(ピーストゥピース)代表取締役・大澤亮氏インタビュー第2回は、サービス開始のきっかけと、シニア世代のプロ人材、その可能性について。#前編

人材会社Piece to Peace(ピーストゥピース)の代表取締役・大澤亮氏

預貯金0からの起死回生

「実は私もプロ人材に救われたんです。だからこそ彼らに恩返しがしたい」 。

そう語るのは専門スキルをもち独立した人材を「プロ人材」として登録、彼らと企業をマッチングさせ、短期や中長期で目標達成へと導く人材サービス「キャリーミー」を運営するPiece to Peace代表取締役・大澤亮氏だ。

大澤氏は、三菱商事に勤めたのち26歳で起業し、2つの事業を外資や大手企業に売却。まさに20代で「経営のプロ」になるべく早々に人生の舵を切った。その後、経営の経験を実地で積むべくコンサルティング会社に勤務、さらに土屋鞄製造所の取締役兼COOを務めたのちに、2009年に現在のPiece to Peaceを創業。その6年後の2016年にキャリーミーを立ち上げた。その発端をこう語る。

「三菱商事を辞めた際に周りにすごく叩かれたんですよ。なぜせっかく入れた大企業を辞めるんだ、起業なんかうまくいくわけがない、と。若いうちに新しいことに挑戦しようとすると『早すぎる』『若すぎる』と言われ、けれど年齢がいけばまた『遅すぎる』『今さら』と叩かれる。これではこの国で挑戦する人たちは減ってしまう、そういう危機感を持ったんです。

一方で周りを見てみたら、プロ人材と私たちが呼んでいる、専門スキルをもって独立を決めた人たちは、みなさんそれでも挑戦しているんですよ。雇用という枠組みを出て、フリーで生きていく。それってものすごく大変だしプレッシャーも大きいでしょう。だから私はそういう挑戦を応援したいし、もっと挑戦することをこの国で普及させたい。そういう想いでこのサービスを始めることにしたんです」

けれどもキャリーミーを準備する途中、会社は債務超過に陥り、銀行口座の預金残高は一時期0になった。

「そんな状態にもかかわらず、『働き方を変えたい』という強い思いを持ったマーケティングのプロが、『今回だけは、成功報酬でやりましょう』と言ってくれたんです。その方はキャリーミーの立ち上げメンバーのひとりで、当時3人の子供を育てながら仕事をしていました。経験を積んできたプロフェッショナルが、育児や介護を理由に仕事を諦めなくてすむ、そういう場所を作りたいという熱い想いを持っていたんです。

彼女はSEOのプロフェッショナルでもあり、そのおかげで次々と『プロ人材』の登録者数が増えていきました。その一方で、私が企業へ営業に走りまわり、なんとかキャリーミーは軌道に乗ったのです。成長過程で経理や人事のプロ人材にもお世話になり、改めてその力と彼らの熱意に心を打たれた。プロジェクトに純粋に取り組んでくれる、こんなに素晴らしい人たちが世の中には実はたくさんいる。そしてその人たちは企業の枠組みを出て、広い世界で活躍しているのだと。そういう人に助けられたことで、いっそう彼らのサポートをしたいという思いが強くなりました」

外注のプロ人材と社員。どちらも会社にとって重要

プロ人材たちは企業に所属していないため、上司のご機嫌とりといった社内政治にもいっさい左右されず、純粋にプロジェクトのことだけを考えることができる。そういう人間がひとりチームにいるだけで、大きな刺激となり、精度も上がるはずだ。一方で大澤氏は、外注のプロ人材と社員の“使い方”をこう提案する。

「短期的なプロジェクトであれば、極論は経営者とプロ人材のみで目標を達成することもできるでしょう。またプロ人材の中には経営のプロもいますから、経営層すらそのプロ人材で賄える。けれど、一方で長期的に会社を大きくしていきたい、いずれは年商100億円の会社にしたいと考えるのであれば、やはり社員をしっかり教育し、チームをつくっていくことが大事です。

そのうえで、社員のなかに時たまプロ人材が紛れれば、その仕事を社員が見ることで学びや刺激になって、成長を促すことができるかもしれません。プロジェクトを愛して進めていくプロ人材、そして会社そのものも愛して働く社員、どちらも企業にとってはとても大事な存在です。ですから会社をどう成長させていきたいのか、どうプロ人材を活用するのか、考える必要がありますし、私たちも一緒にその答えを探っていきます」

終身雇用はもはや健全ではない

このプロ人材と企業の関係はスポーツの「プロ契約」とも似ているし、欧米の「ジョブ型雇用」にも似ている。専門スキルがある人を即戦力として採用できる企業側のメリット、そして自分の能力に見合った報酬を受け取れるという雇用者側のメリット、一見企業と人がウィンウィンの関係に思えるが、それでも日本でこの雇用が主流にならないことを、大澤氏はこう分析する。

「ジョブ型雇用では、決められた業務以外のことはやらなくてもいいし、上司が命令しようとも『やらない』と言える権利がある。同時に会社側も、成果を出さない人はいつでも切ることができます。大変ドライな部分があり、それこそが、これまで終身雇用が基本だった日本で根付かない理由かもしれません。しかし今では、優秀な若い人はどんどん独立して、企業に雇用されることが少なくなり、どこも人材不足に陥っている。そこにきて企業は、成果を出さない社員を終身雇用で抱え続けなければならない。

現代はVUCA(※)と呼ばれ、日々変化し、先行きの見通しがたたない時代です。例えば今あるAという事業が1年後あるとは限らない。Aが得意でそのために採用した人なのに、Aがなくなったその後もその人を採用し続けなければいけないというのは、働く人にとっても企業にとってもけっして健全とは言えません。

Aがなくなったら、その人は『お荷物』と言われてしまうかもしれない。であればもっと自分を活かせる別の場所に行った方がいいでしょう。

そういうVUCAの時代のなかで、今後は日本でも『ジョブ型雇用』『プロ契約』に近い雇用が、増えていくと思います」

※変動性“Volatility”、不確実性“Uncertainty”、複雑性“Complexity”、曖昧性“Ambiguity”の頭文字をとった造語。先行きが不透明で将来の予測が困難な時代のこと。

70代でインターン!? シニアの人生を蘇らせる

確かにお荷物社員と呼ばれている人はどこにでもいる。例えば、なまじ年次が高いのでポジションだけが上がってしまい、誰も仕事を振れなくなってしまう。そして自分で仕事を作り出す気力もなくなり、「あの人はいつもなにをしているのか」と周囲が疑問に思うような人――。けれどその人にだって、年次が高いぶんだけの経験も知識もあるはずだ。社内で持て余されるよりは、その経験を活かした、その人らしい仕事ができた方がいいだろう。

「日本では50代60代はあまり活躍できなくなったシニア人材と見なされがちですが、そういう人の経験や知識はビジネスにおいて非常に重要。その年代に見合った年収をいきなり用意することは企業側はできないかもしれませんが、そのプロ人材をプロジェクトごとに入れることはできるはず。プロ人材の方だって、例えば週2回程度の稼動にしてプロジェクトをかけ持てば、報酬も多く得られるかもしれない。1社に縛られず、数社をまたいで活躍できたら、その方の幸福度も上がると思うんです。

これはまだ構想段階ですが、シニアインターンのような制度も実現したいと思っています。ロバート・デ・ニーロ主演で『マイ・インターン』という映画がありましたが、あの作品のように70代でインターンに行き、その経験を伝えながら新しいことも学んでいく。その先に正式な雇用があってもいい。デジタルの知見がないからといって、経験のあるシニア世代を振り落とすことのない、若い世代もシニア世代もそれぞれの力を認め合って仕事をしていく、そんな世界をつくっていきたいんです」

VUCAの時代、世界は刻々と変化を続ける。だからこそ、雇用のあり方、働き方も変えていかなければならないのだろう。

大澤亮/Ryo Osawa
1972年愛知県生まれ。1996年三菱商事入社、タンザニアでの勤務を経て26歳で独立。5度の事業立ち上げ、2度の事業売却を経験したのちドリームインキュベータに入社、経営コンサルティングに携わる。2007年に土屋鞄製造所に取締役兼COOとして入社し、2年後に売上・経常利益が2倍となったタイミングで退職。2009年Piece to Peace創業、2016年「キャリーミー」ローンチ。パーソルホールディングス・本田圭佑氏らから投資を受け、スタートアップから大手企業まで累計2,500社のマーケティング・広報・事業開発・採用などの企業課題を、1.5万人のプロ人材で解決する。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=干田哲平

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