プロの仕事人なら、企業に就職せずスポーツの「プロ契約」のような働き方が最適格だった!? 本田圭佑氏が惚れ込み出資した人材サービス「キャリーミー」とはなにか。そして多くの企業が抱える「人材不足」の正体とは。人材会社Piece to Peace(ピーストゥピース)の代表取締役・大澤亮氏に、新しい働き方、そして雇い方を聞いた。

デジタルネイティブたちは、会社を見かぎり始めている!?
人材不足。
あらゆる業界、あらゆる企業、そしてあらゆる部署でよく聞かれる言葉である。多くの人がそこらじゅうで「うちの部署、動ける人が足りなくてさ」と嘆き、「動ける人」が足りなければ数少ない「動ける人」に業務は集中。結果ひとつひとつの仕事のクオリティが落ち、「動ける人」は疲弊していく……。
「現在、労働人口は若い世代を中心にどんどん減っています。優秀な人材は外資系企業に年収数千万でひっぱられ、あるいは20代で早々に独立する。大手企業ならなんとか年収を上げて彼らを引き止めることができるかもしれませんが、中小企業やスタートアップの場合はただでさえ人件費を削らなければいけない状態なので、それは難しい。売り手市場の現在、優秀な人材を留まらせるには“コスト”がかかりすぎる。ゆえに多くの企業が『人材不足である』と嘆いているのでしょう」
そう説明するのは「プロ人材」と企業をマッチングさせる「キャリーミー」を運営するPiece to Peace代表取締役・大澤亮氏だ。そのコンセプトに共感し、実業家でサッカー選手の本田圭佑氏も出資、アンバサダーにも就任している人材会社である。
「この人材不足の要因は、日本の『年功序列』が大きい。会社のいいポジションは年配の社員が独占し、彼らが退かない限り若手にチャンスはありません。今、40代50代の世代までは、確かにそれでよかったのです。なぜなら当時はすべてのことにおいて、『先輩が優れていた』から。その先輩たちから学び、時間をかけて出世していく、という年功序列が意味をなしていました。しかし今はどうでしょう。20代のデジタルネイティブたちは、ITの知識もプログラミングの技術もSNSマーケティングのリテラシーも、上の世代より高い場合が多い。すでに先輩たちよりスキルがあるのですから、年功序列を待っている意味がないんです。だから早々に会社を見限ってフリーランスとして独立、あるいは起業する人が多いのです」
ゆえに、会社で「動ける人」がいなくなる。残されたネットリテラシーの低い中年社員が投稿する公式SNSは炎上し、さらにその取捨業務で右往左往、けれどそれをカバーできる人材はもういない。そして言うのである、「うちの部署、動ける人いなくてさ」――。
この企業の人材不足の現状を変えるべく、大澤氏が2016年に立ち上げたのが人材サービス「キャリーミー」。専門スキルをもって独立した優秀な人材を「プロ人材」として登録、彼らと企業のプロジェクトをマッチングさせ、短期や中長期でそのプロジェクトの目標達成へと導くサービスだ。
これにより企業は、雇用すれば年収数千万になってしまうような優秀な人材を、プロジェクトごとに月額20万円から80万円程度で業務委託契約することが可能になる。

1972年愛知県生まれ。1996年三菱商事入社、タンザニアでの勤務を経て26歳で独立。5度の事業立ち上げ、2度の事業売却を経験したのちドリームインキュベータに入社、経営コンサルティングに携わる。2007年に土屋鞄製造所に取締役兼COOとして入社し、2年後に売上・経常利益が2倍となったタイミングで退職。。2009年Piece to Peace創業、2016年「キャリーミー」ローンチ。パーソルホールディングス・本田圭佑氏らから投資を受け、スタートアップから大手企業まで累計2,500社のマーケティング・広報・事業開発・採用などの企業課題を、1.5万人のプロ人材で解決する。
天才プログラマーを自社に召喚することだって夢ではない
もちろんプロ人材側にも、プロジェクトを掛け持ちできるという大きなメリットがある。例えば1プロジェクトに費やす時間は週3日ほどとして、それ以外の時間はまた別のプロジェクトに参加し、社員時代よりもはるかに多い報酬を受け取れるようになった人も多いという。しかしそもそも、この「プロ人材」とはいったいどういう人なのだろう。
専門スキルを持って独立した人といっても、さまざまにいるはずだ。
「現在、マーケティング、営業、事業開発、広報、経営の専門家に多く登録してもらっています。登録の際に経歴や成果物、そしてその人の強みを面談でしっかり確認していますので、『自称プロ』ではなく、正真正銘、独立したプロの方になります。
例えば、13歳からエンジニアとして活躍、プログラミングの大会で優勝を重ね、シリコンバレーで起業。日本の大手企業の顧問を歴代最年少で務めた方など、とんでもなく優秀な人もいますよ」
そのような超優秀な人材は、スタートアップや中小企業では、報酬面でとうてい雇用できないはずだ。けれどキャリーミーを使えば、プロジェクトごとに優秀な人材をいわば召喚することができる。企業にとってはありがたい話だが、なぜそのような優秀な人材がわざわざ登録しているのだろうか。
「例えば天才プログラマーでも、自分自身を売り込む営業は得意ではないこともあります。そういう方々の営業代行、さらに企業側に対して支払い金額の交渉も行いますので、プロ人材の方々には私たちをうまく使っていただき、活躍の場を増やしていただけたらと思っています。私たちからさまざまなプロジェクトへの参加をご提案しますので、ご自身では辿り着かなかった新しい扉を開けるきっかけにもなるかもしれません」
いい人材に出合うためには工夫が必要
現在このプロ人材の登録は1万5000名以上、さらに毎月200名程度ずつ登録者数が増え続けているという。企業側の「こんなプロジェクトを成功させたいのだけれど、どうすればいいか」という相談をうけ、企業の課題を見つけ出し、「であればこういうマーケターを」「こういう営業マンを」と人材とともに提案していくこのサービス、プロ人材にとってもそして企業にとっても、新しい出合いと可能性を広げているのだ。
「現在、新卒・中途採用では働き手は売り手市場。誰でもいいから手をかしてほしい、という『人手』の面でも、経験を問う『人材』の面でも、人をどんどん雇えるという時代はすでに終わりました。人がいるという前提で事業をつくることはできない時代になっているのです。
けれど、けっして『優秀な人』がこの世界からいなくなったわけではありません。ただ会社という枠から飛び出していっただけ。いい人材に出合うためには、ただ採用をかけるだけではなく、工夫が必要だということなんですよ」
そう力強く語る大澤氏。インタビュー後編(3/8公開)では、プロ経営者としてキャリアを進んで来た大澤氏のビジョン、そしてシニア世代のプロ人材の可能性について訊く。