PERSON

2025.01.28

「乳がんになって、すべてが変わった」作者・大武ユキ。人気サッカー漫画『フットボールネーション』のこれから

2020年に乳がんが見つかり、約1年、『フットボールネーション』の連載を休止していた大武ユキさん。病気になったことで気づいたこと、変えたこと、やめたこと、始めたことなど、赤裸々に語ってもらった。最終回。

『フットボールネーション』の中でも、フォトジェニックな選手の魅力にたびたび触れている大武さん。「中村俊輔の引退試合の観戦に行きましたが、出場した稲本潤一は、若い頃も、45歳になった今もフォトジェニック!」

乳がんの治療のため約1年間休載

『ビッグコミックスペリオール』に、『フットボールネーション』休載の知らせが掲載されたのは、2020年8月。理由は、大武ユキさんが乳がんの治療に専念するためだった。

「その3年ほど前から、定期健診で『気になる箇所がある』と、指摘されていて、経過観察の状態が続いていました。それが、この年の7月、いつものように病院で定期検診を受けたら、すぐに生検(細胞組織の検査)に回されて、乳がんと診断されたんです。幸い、リンパへの転移はなく、ステージ1でした。そのせいか、死を覚悟したというのはなかったですね」

とはいえ、人生は有限だということを改めて考える機会にはなったようで、「やりたいと思っていたことは、先延ばしにせず、今やろう」というマインドに変わったとも明かしてくれた。

「病気になる、ならないに関わらず、人間はいつ死ぬかわかりません。だったら、『時間ができたら』とか『老後の楽しみに』なんてとっておかず、やりたいことはどんどんやろうという気持ちが強くなりましたね。

私、ずっと(フィギュアスケートの)浅田真央ちゃんが好きで、彼女が滑っている姿を生で観たいと、ずっと思っていたんです。で、去年(2023年)ようやくアイスショーのチケットが取れたんですが、観に行ったら、本当に素晴らしくて! 

ショーのレパートリーの中に、『白鳥の湖』がモチーフになっているものがあったんですが、それを観たら、今度は、バレエの『白鳥の湖』を観たいという気持ちが高まってしまって。今年、パリオペラ座の日本公演に、足を運びました。あれも、行って本当に良かった!

実は、バレエのレッスンも再開したい野望があるんですよ。小学生時代と20代始めの頃に少し習っていただけなので、30年以上ブランクがありますが。楽しみですね」

大武ユキ/Yuki Otake
神奈川県出身。女子美術短大卒業後、漫画家になり、1990年、大学サッカーを描いた『サッカーボーイ』(ペンネームは柴田文明)で本格的にデビュー。1993年、ペンネームを大武ユキに変更。現在、『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて『フットボールネーション』を連載中。熱狂的なサッカーファンで、FC東京、横浜FC、FCバルセロナ、チェルシーFCのサポーターでもある。

病気は、漫画の神様が敢えて与えてくれた“お休み”

乳がんを告知された時、死よりも先に大武さんの脳裏をよぎったのは、「これで休める!」だった。

「不謹慎かもしれませんが、その前の数年間、ずっと頭の中に『休みたい』という文字がぐるぐるしていたんですよ。連載が始まってから、まとまったお休みが取れず、常に締め切りに追われている状態が、けっこうストレスになっていたのだと思います。睡眠時間や食生活が乱れていたし、運動不足で体力が落ちるなど、我ながら、かなり不健康な生活を送っていました」

病気になったことで、そんな生活が一変。ヘビースモーカーだったのが、煙草とはキッパリと縁を切り、手術後2年間はアルコールも一切口にしなかった。定期的に運動を始め、食事にも気を遣ったことで、3カ月で6㎏の減量にも成功。筋肉がつき、肌の調子もよくなるなど、目に見えて健康に。

「休載中は、久しぶりにサッカーの試合をたくさん観られました。仕事関係の資料やサッカー関連本はほとんど読まず、純粋に、ただひたすらサッカーを楽しんだ気がします」

そんな中で芽生えたのが、『フットボールネーション』に対する新たな想い。乳がんに罹患する前、担当編集者と、最終回も見据え、今後のロードマップを描いていたものの、「まだまだ描きたいことがある」と思うようになったという。

乳がん罹患後に発行された単行本第16巻の巻末で、大武さんは次のように綴っている。

「まだ描かなきゃならない、描いてくれとキャラが言っているストーリーがあることに気付きました。ロードマップ通りに進む漫画はそんなに面白くはならなかったでしょう。漫画の神様が、敢えて、くれた、この為のお休みではないかと、今は思えます」

その言葉通り、『フットボールネーション』は最新刊の19巻で天皇杯編が完結。新章に突入し、主人公、沖千尋をはじめ登場人物たちも新たなステージに挑むことになる。

「私がサッカーを観戦し始めた1980年代から比べれば、日本のサッカーはずいぶん進化したと思います。フォトジェニックな選手も増えましたしね。でも、サッカー先進国になるには、まだ足りないものがたくさんあるし、改善すべき点も多々ある。サッカーを愛する者としては、もっと頑張ってほしいというのが本音です」

サッカーの常識を覆すような”蘊蓄のストックは、まだまだあると、大武さん。新展開を迎えた『フットボールネーション』に、今後も目が離せない。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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