PERSON

2025.01.26

子供からプロサッカー選手まで虜に。異色の大人気漫画『フットボールネーション』はなぜ、生まれたのか

Jリーグが始まる前、1980年代から日本サッカーを観戦し、応援し続けてきた漫画家、大武ユキさん。サッカー少年や親、指導者だけでなく、プロの選手をも魅了する新機軸のサッカー漫画『フットボールネーション』が誕生した背景を紐解く。2回目。

旧国立競技場のベンチをリメイクしたチェアなど、仕事場には、サッカー関連グッズが多数。主人公、沖千尋が現在愛用しているスパイクは、元ドイツ代表トニ・クロースのモデル。現在は廃盤となっている希少品だ。

日本人選手と海外トップ選手との走り方の違い

サッカー漫画『フットボールネーション』の作者・大武ユキさんが、サッカー選手の身体の使い方に着目するようになったのは、2001年、『サッカー日本代表が世界を制する日―ワールドクラスへのフィジカル4条件』を読んだのがきっかけだった。

著者は、東京大学大学院時代に西洋科学と東洋哲学を統合した「運動科学」を創始し、「ゆる体操」でも知られる運動科学総合研究所の高岡英夫氏。現在、『フットボールネーション』の科学指導を行っている人物である。

「当時、サッカーに関する本はほとんど目を通していて、この本もそのひとつでした。で、読んでみたら、『なぜ日本人選手は走ると頭が上下に揺れるのに、海外の一流選手は頭の位置が変わらず、スーッとすべるように走るのだろう』という、長年疑問に思っていたことの答えが書いてあったんです」

『サッカー日本代表が世界を制する日―ワールドクラスへのフィジカル4条件』で指摘されていたのは、日本の選手は、低重心で、頭を上下に揺らして走る人が多い傾向にあるが、それは、狭い歩幅で、腿を持ちあげながらセカセカと脚を動かす“腿前走り”だから。対して、大きなストライドで、腿裏のハムストリングと下半身のインナーマッスルを使って勢いよく脚をスイングさせると、身体の軸がブレず、背筋が伸びて、頭が上下しないということだった。

『サッカー日本代表が世界を制する日―ワールドクラスへのフィジカル4条件』と出合ったことで、大武さんは、身体の使い方ひとつで、見た目もパフォーマンスも大きく変わることに、改めて気づいたのだ。

「日本がワールドカップに初めて出場したのは、1998年のフランス大会。私は日本の試合をすべて現地で観戦しましたが、3連敗でグループステージ敗退でした。そんな風に日本のサッカーが世界で通用しないのは、戦術以前の身体の使い方の問題も大きかったのではないかと、高岡先生の本を読んで思ったんです。ちゃんと理由があるのなら、それを直せば、日本サッカーは、もっと強くなれるはず。サッカーを愛する身として、これは広く伝えなければ! と」

大武ユキ/Yuki Otake
神奈川県出身。女子美術短大卒業後、漫画家になり、1990年大学サッカーを描いた『サッカーボーイ』(ペンネームは柴田文明)で本格的にデビュー。1993年ペンネームを大武ユキに変更。現在、『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて『フットボールネーション』を連載中。熱狂的なサッカーファンで、FC東京、横浜FC、FCバルセロナ、チェルシーFCのサポーターでもある。

『フットボールネーション』が世に出るのに8年かかった

2001年といえば、ワールドカップの日韓合同大会の前年だ。その盛り上がりもあり、大武さんのもとには、「サッカー漫画を描いてほしい」というオファーも来ていた。

「初めから、身体の使い方をテーマにと思っていたわけじゃないんです。ただ、天皇杯を舞台にした漫画にしたいというアイデアはあって、すでに、『フットボールネーション』の主要人物4人のキャラクターは出来上がっていました。でも、結局話が流れてしまって」

その4人とは、少年院帰りの主人公、沖千尋と、幼少期からのライバルでJリーガーの一ノ瀬迅、東京クルセイドの高橋幹保監督、そして、千尋を慕う家出少女、ミャーコ。そして、彼らが、大武さんの心に火をつける。

「私、それまで売り込みってしたことがなかったんです。でも、この4人は絶対に世に出してあげたい、出さなければいけないって、どういうわけだか思ったんですよね。今までご縁のなかった編集部にも、伝手をたどって訪ねたりして。ネームを持ち込んだ編集部の数は、両手では足りないんじゃないかな。

その過程で、身体の使い方を絡ませたらおもしろいんじゃないかとなったんですよ。そうしたら、話がトントン拍子に進んで、『ビッグコミックスペリオール』で連載させてもらえることになったんです。もっとも、連載第一回が、2009年12月発売の号だったので、ずいぶん時間がかかってはしまいましたが」

それから15年、『フットボールネーション』は、大武さんにとって“ライフワーク”と言える作品になっている。

「何度ポシャっても、あきらめることなく売り込み続けたのは、我ながら驚きです。そもそも私、なんとなく成り行きで漫画家になった口ですから」

次回は、大武さんが漫画家になった経緯について話を聞く。

※3回目に続く

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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