放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「番組づくりより、チームづくりのほうが難しいっす」
今秋、新番組を一緒に立ち上げた総合演出と飲みに行くと、ため息で杯の中の酒を揺らしました。
テレビ界には、作品づくりや若づくりは巧みだけど、チームづくりは不得手な人がけっこういますが、この「いざ集団を束ねる立場になると、組織マネジメントに戸惑う」といった悩みは、どの業界のリーダーにも共通する課題ではないでしょうか。
そこで今週は、40年続いている長寿番組から短命に終わった無名番組まで、100以上の制作チームで働き、吉本NSCで人気芸人を輩出するクラスをつくってきた僕の「結果の出るチームづくりのコツ」をシェアしていきます。
チームで働く「意味づけ」を伝えていますか?
コツその1は、「意味づけの共有」です。
私たちは「なぜ働くのか?」「なぜ会社に行くのか?」といった問いを、自分なりに考え、「意味づけ」をすることで仕事への意欲につなげていますよね?
それと同じで、「なぜチームを作るのか?」「なぜ集団で動くのか?」といった組織の問いは、組織が考え、組織が意味づけしていかないと成員のパフォーマンスは上がりません。
吉本NSCを例にすると、僕の教室には、日本全国や海外から、漠然と「芸人になりたい」「芸人って楽しそう」と考えている若者が集まります。最初はまとまりもなく、鼻っ柱が強い生徒も多いので受講意欲は低いし、チーム愛もありません。これは希望した部署に配属されず士気が下がっている若手社員と似ています。
まず、積極参加をうながすために、僕は「授業に来ること」の意味づけをシェアしていきます。
例えば、芸人になりたい人は「会話を磨きたい人」でもあるという心理をテコにして、こんなふうに。
「無人島で会話のスキルは上がらないよな? 話芸を磨きたいなら集団の中に身を置いたほうが得でしょ?」と。
さらに、組織をまとめるには「チーム内交流」の意味づけをシェア。例えば、多くの生徒はピン(1人)で入学し、相方を探しているので、まずはこんな導入。
「多くの同期と交流して、相方や仲間を見つけ出してみると、ビジネススキルが身につくんやで」
日常のふれあいが「スキルにつながる」と聞けば、彼らは前のめりになります。そこでもう一押し。
「なぜなら、大勢の中から最適な人を見つける行為は、スクリーニング力を鍛える練習になるからね。この力をつけると、良い取引先か? 危ない取引先か? を見極めることができたり、私生活でも、最良の結婚パートナーを見つけ出す力になったりするよ」といった塩梅です。
チームの「端っこ」に心を砕いていますか?
コツその2は、「端っこにいる人材への刺激」です。
リーダーは、仕事ができる優秀な社員を寵愛し、チームの最後尾にいる人を蚊帳の外に置きがちです。
しかしオセロゲームで、端っこに置かれた石がパタパタと中央の色を変えていくように、オフィスや教室の隅にいる人のボトムアップがチームを強くするのです。
長年チームづくりをしていると、こんなケースがよくあります。例えば、集団の中心メンバーが「野球好き」だった場合。そのチーム内では野球トークが盛んになり、興味がない人たち、話題に入れない人たちは、「趣味が合わないだけ」なのに輪から外れてゆき、コミュニケーション不足によってパフォーマンスを下げ、時には離職してしまうといった負のループです。
リーダーは、配置や年齢バランスだけでなく、こういった会話のバランスにも耳を澄ませ、端っこにいる人材を輪の内側に入れていくボトムアップが必要ですし、彼らのパフォーマンスを励まし、育成し、中心にいるメンバーに、「うかうかしていられないな!」と危機感を持たせていくことが大切です。
8年前、授業であまりネタを披露せず、周囲にも共感者が少ない「怪談好き」の生徒がいました。
僕は個性を潰したくなかったので、嫌がる他の生徒もいましたが、毎授業、彼に怪談話を披露させていました。
学校を辞めずに芸人を続けた彼は、実は本当に霊視ができる子だったので、その分野を伸ばし、今では「シークエンスはやとも」という霊視芸人としてメディアに引っ張りだこです。
手持ちの人的カードを他者に押しつけようとせず、いかにレアカードにしていくか。これもリーダーのやりがいなんですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。