PERSON

2024.10.21

心をかき乱す失礼な人との付き合いかた。「かかわらない」より有効な方法とは

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「お前さぁ、どんだけ悪い人間やねん」

不意のSNS通知で昼休みの安息が吹き飛んだ。

知らない人からの罵倒と人格否定に、ぶら下がれるほど大きな「?」マークが頭上に出現しました。

どうやら送り主は、YouTubeで人気芸人が作ったスープカレーを、僕が「いただきます」を言わずに食べたことが許せない、侮蔑しないと気が済まないらしい。……が、こちらは身に覚えがないのです。

調べてみると、たしかに作家は出演していましたが、まったくの別人。その人の顔も名前も出ているのに人違いというお粗末な中傷でした。

みなさんの日常、職場にも「失礼な人」はいますよね。ストレスになっていませんか? 対処に困っていませんか?

今週はそんな、心をかき乱す「失礼な人」との付き合いかた、思考術をシェアします。

失礼な人のストレスは「かかわらない」だけじゃ解消できない

よく専門家は、失礼な人への対処法として「かかわらない」「距離をとる」を挙げます。

が、歩きタバコ男や、神さま気どりの客などの“街場の一見さん”ならまだしも、職場や学校の“いつメン(いつものメンバー)”には、それらの活用は難しいですよね?

なので僕は、生徒の相談にこう返します。

「失礼な人とかかわらないことより、丁重な人とのかかわりを増やすことのほうが最適解やで」と。

いわば熱湯に水を加えていくと常温になるのと同じ。ムリやり遠ざけるより、その他大勢の“失礼じゃない人”との交流を豊かにして、失礼な人の存在、心を占める割合を“薄めていく”のです。

なぜなら人間には、普遍的な欲求の一つに、集団に属したい、誰かとつながっていたい「帰属欲求」があります。

ウヨウヨ出てくる失礼な人に対し、いちいち「かかわらない」「距離をとる」スタンスだと、どうなるでしょう?

気づけば、あなたが集団の外に追いやられ、帰属意識が満たされず、大きなストレスを抱えてしまうんです。

さらに、私たちは集団の中でストレスをうけますが、その心痛を和らげるのも集団の中。「ねえ、ちょっと聞いてよ~」と、他者にうけた不条理を、他者に語ることで緩和していますよね。

なので、その他大勢の“失礼じゃない人”との関係を良好にし、ストレスを流すパイプを増設して、排水口をつまらせないことが最適なんです。

「職場では誰もが二重人格」と分かればラクになる

「かかわらない」「距離を置く」と同じくらい耳にするアドバイスに「気にしない」があります。これは僕も、心の掛け軸にしています。

なぜ「気にしない」は有用か? それは“職場では誰もが二重人格だから”です。

つい先日も元教え子から、「ロケでディレクターに嫌なことを言われた」という愚痴を聞いたので、こう返しました。

「女子プロレスのドラマが流行ってるけど、悪役レスラーが私生活でも暴れてると思う? なわけないやん? 働いてる人はみんな職場というリングに上がったら別人格。そいつ自体は苦手にならんほうがええよ」と。

苦手だった上司が、別のプロジェクトで一緒になると“そうではなくなった”経験はありませんか?

職場にいる人はみんな、出社時に“日常人格から仕事人格”になっています。

むかし「企業戦士」という言葉がありましたが、担っている業務やタスクによって戦闘キャラやモードを選択しており、日常人格は別もの。あんがい自宅では、ソファから動かないダメ人間だったり、シャワー中に「あ~!」って叫んじゃう気疲れさんだったりするんです。

どんなに失礼な同僚や取引先でも“人格の半分”だと思えば、こみ上げてくる感情もセーブできる。なので「気にしない」は有用なんですね。

ちなみに僕も、よく失礼な言葉をうけますが、こんなふうにやり過ごしています。

「うわ、すっげー無礼やな。ガツンと言ったろうかな? や、待てよ。しょせん仕事人格か。気にせんとこ。……あっ、無礼な言葉をスルーすることを“無礼句スルー(ブレイクスルー)”って言えんかな? コラムに書けんかな?」

そう、最後はコラムというパイプに流すこと、ちゃっかり飯のタネにすることを夢想して、溜飲を下げているのです。

どうやら、みなさんに伝えたら、冒頭の「人違いさん」のこともどうでもよくなったようです。

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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