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2024.08.12

売れた芸人が持っていたのは「伸びしろ」より「捨てしろ」だった【吉本芸人学校人気NO.1講師】

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

ある取材にこう答えた。

「EXIT兼近さんや、令和ロマン、ぼる塾など、やはり売れっ子芸人にはNSC時代から“伸びしろ”を感じましたか?」

「もちろんですが、伸びしろは若い人ならみんな持ってます。むしろ売れた芸人さんが持ってるのは、伸びしろより“捨てしろ”ですかね」

ライターにぽかんとされました。みなさんもそうでしょう。一体どういうことか? 今週もゆっくりほぐしていきますね。

捨てしろ=本当は大切じゃないものを捨てる力

紙袋や容器は「何かに使える」と思って保管するけど、気づけばパンパンにかさみ生活スペースを圧迫する。

あれと同じで、「大切そう」に見えて「実は大切じゃないもの」はたくさんあります。

例えば、僕は学校の「職員室」を捨てました。

みなさんの会社でも、部下に話があるとき、多くのリーダーが自分のデスクや自室に呼びますよね? 僕もNSCで生徒らを自室に呼んでいました。

一見、「下位の人が目上の人のもとへ出向くこと」は大切に思えますが、呼び出されたほうは緊張や委縮をするので“対話の質”は下がる。

重要なのは「こちらの意図を伝え、あちらの意見を聞く」ことなので、リーダーのほうから部下のもとに出向き、彼らが自然体になれる空間で対話したほうが質は上がる。

そう思い立ち、こちらから出向くようにすると、生徒の表情、理解度がまったく違うんです。これはいいぞと感じ、講師部屋(職員室)を捨て、校内をウロウロするおじさんになってみたら、生徒からどんどん話しかけてくるので組織マネジメントも向上していったんです。

この成功体験は、「部下のほうから出向く=○○であるべき」という先入観をうまく捨てたから。

つまり“捨てしろ”とは、“大切そうに見えて、実はそうでもないものから自分を解放していく”ことなんですね。

ぼる塾に学んだ、捨てしろの美学

芸能界にも多くの「○○であるべき」が定着してきました。

例えば、「芸人は体を張るべき」は、みなさんもイメージがあるでしょうし、多くの芸人さんがこの通過儀礼をこなしてきました。

そんな「べき論」に風穴をあけたのが、女性芸人ユニット・ぼる塾の4人です。

彼女たちは、多くの女性芸人が通ってきた「大食い」や「水着での出演」を、NG仕事にしたのです。

しかも、そのNG理由が素晴らしい。

「大食い」→食べ物は美味しく食べたいから。

「水着」→肌を見せるのは好きな人の前がいい。

素敵じゃないですか?

彼女たちにとって、「売れること」は大切ですが“自分らしくあること”はもっと大切だった。

なので、ごく自然に「やらない仕事」に仕分けすることができたのです。

「何をやるか」より「何をやらないか」を決め、捨てていく。

成長した教え子たちから素敵な美学を教わりました。

捨てしろは、現代を生き抜くキーワード

冒頭でもふれましたが、伸びしろは若い人なら誰もが持っています。

さらに、中高年やシニア世代も、人工知能AIを活用すれば、これまで発想できなかった新ビジネスやクリエイションにリーチできる。つまり、誰もが伸びしろを獲得し、広げていける時代です。

いっぽうAIは、大量のバッドニュースを送り込んでくる装置にもなっています。

残忍な事件、侵略戦争、耳を疑うヘイト、有名人の失言や不倫……。

世間には、夫婦そろって100歳になったり、高校生が起業したり、ハッピーなニュースもたくさん起きているのに、SNSにはバッドニュースと人間のエゴだらけ。

いま私たちに必要なのは、「これはたくさん起きているニュースの一部である」「悪いニュースは良いニュースより遠くまで届く」という本質を知り、見極め、いちいち反応せず、捨てていくこと。そういった時代を生きているんですね。

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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