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2024.07.03

世界No.1フーディー浜田岳文が指南する「美食の教養」とは

予約段階でAmazonの本のランキングで総合1位になり、話題を集めている書籍がある。『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』だ。著者は、世界的なフーディーとして知られる浜田岳文氏。「OAD Top Restaurants」レビュアーランキングで6年連続で世界1位を取っている。イェール大学から金融機関を経て、南極から北朝鮮まで、127ヵ国・地域を食べ歩く、まさに世界一の美食家だ。そんな彼の「食の価値観を一新する」グルメ入門書が同書。新刊への思いを浜田氏に聞いた。

浜田岳文『美食の教養』

いい料理人が成立するためには、いい食べ手も必要

――初のご著書は、どんなきっかけで生まれたのでしょうか。

フードエッセイストの平野紗季子さんのラジオ番組に出演していたのを、ダイヤモンド社の担当編集の方が聴かれていて、本を出さないかとお声がけいただいたんです。

もともと本は出してみたいと思っていたんですが、レストランを紹介するような本はいくらでもあるんですよね。そんななかで「教養」という切り口を編集者にもらえたのが、大きかった。食とどう向き合うか、というとき、この切り口なら自分なりに頭の中の整理ができるな、と。

僕は、なんでもとにかく考えるのが好きなんです。例えば、心地いい音楽があるとすると、単にカッコいいな、ということではなくて、どうしてかっこいいのか、を考えたいし、知りたいんですよね。コード進行がこうだから、リズム隊がこうだから、みたいな。

そういう楽しみ方が好きなんですが、食でも同じように考えてきたんです。何を感じればより楽しめるか。食の楽しみ方は自由ですが、考えて楽しむ、というアプローチもあると僕は思っています。考えなくても美味しいけれど、考えることで、より美味しくなる。知ることでより楽しくなる。

そんな考え方を知ってもらうのに、「教養」という言葉はぴったりだったんです。

――インスタのフォロワーが6万人を超えている浜田さんですが、食べ手の方のみならず、料理人の方もたくさんご覧になっていると聞いています。

料理人の方々に向けて、というのは常に意識していることですね。それは、僕自身が美味しいものを食べ続けたいから。そのためには、料理人の方々が作り続けてくれないといけないじゃないですか。その意味では、自分のためなんです。

料理人の方々は忙しいし、世界中を旅したりなんてなかなかできない。だから、より自由に動ける僕が巡って、見聞きしたことを発信して何かのインスピレーションを与えられたらと思っているんです。

そして、いい料理人が成立するためには、いい食べ手も必要になるわけですね。いい料理人を理解する食べ手も増やしていかないといけない、と考えています。

――それにしても、料理で「教養」というのはあまり見たことがないカテゴリーです。しかも400ページ近い分厚い本になっています。

まずは、編集者の方が知りたいことを挙げていただいて、そこから深掘りしていく作業になりました。ちょうど今年、50歳になったんですが、今までの自分を整理するという意味でも、いいタイミングでした。

しかもこの春、ちょうど5日ほどファスティングのために群馬の山奥の温泉宿に籠る予定を早くから組んでいたので、そこで最後の仕上げをする機会に充てることができて。なんだか、作家のような気分でした(笑)。もっとも結局、5日では終わらなかったんですが。ただ、納得いくまで向き合えたので、考えていたことの9割は盛り込めたと思っています。

本を作るのは初めてだったので、厚さのことはまったくわかりませんでした。これが正しいのかもわからない。でも、「教養」というテーマの本の佇まいという意味で、このくらいの厚さになったのは良かったのでは、というコメントを周囲からはもらいました。

浜田岳文『美食の教養』
浜田岳文/Takefumi Hamada
1974年兵庫県生まれ。米国・イェール大学卒業。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127ヵ国・地域を踏破。現在、一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。

なぜ何万円も払って高級レストランに行くのか?

――書籍では、美食の思考法、美食入門、世界の料理総まとめ、グルメ新常識、一流料理人の仕事、美食の未来予測、さらにはマナーなど美食講座まで幅広く展開され、さらには国内、海外の多くのお店の名前も出てくる贅沢な作りです。食べ手と作り手、それぞれ、どんなところを読み取ってほしいですか。

まず食べ手の方には、食をどう楽しんでいくべきか、について書いています。わかると料理はより美味しくなるからです。

知ってほしいのは、一方的に食べているだけでは、実はわからないものはわからないということです。大事なことは、集中して考えて食べること。一食一食にしっかり向き合って、理解しようとすること。

もちろん、みんながみんな、そんなことをする必要はないのかもしれませんが、もし食をもっと楽しもう、と考えているのであれば、考えながら食べる、ということについてぜひ知ってほしいんです。

作り手の方は普段、なかなかお客さんからの直接のフィードバックは多くないと思います。とりわけ日本では、「どうでしたか」と聞かれると「美味しかったです」と返す人がほとんど。初めての店で「気に入らなかった」なんて言う人はまずいません。ところが、掲示板で批判コメントを書かれたりする。

これはすごくもったいないことだと思っていて。具体的にこうしたら、もっと良くなると思いますよ、ということを書いているので、参考にしてもらえたらと思っています。

レストランは料理を作って出すだけではなく、照明だったり、音楽だったり、実はいろんな要素が重要だったりするんです。料理人は忙しいですから、案外、気にされていない抜け落ちているところもある。

また、海外の有名店も一夜にして有名になったわけではなくて、20年、30年と苦労して今の地位に辿り着いた店も多い。そんなことも知ってもらえたらと思っています。

――書籍にありますが、「どうして何万円も払って、わざわざ高級レストランに行くのか?」という問いかけをもらうことがあるそうですね。

美味しいもの、というだけなら、数千円でも食べられます。それは本能的な旨さ、とでもいうべきものかもしれません。これを味わうという生き方も、それはそれでアリだと思います。

でも一方で、鮨や割烹、フレンチなどの高級料理は数万円の価格になる。その価値がないのに数万円取っているお店は別にして、やはり違いがあるわけです。例えば、賃料や店内の設え、人件費。さらには、食材費。加えて、料理人の技術やアイデア。彼らは少しでもいいものを作ろうと、命をかけて挑んでいる。

実のところ、価格と美味しさは直線的に比例するわけではありません。しかし、量的には小さいけれど、質的には大きいその差分を理解し、評価するのが「美食」というものの考え方だと僕は思っているんです。

その意味では、芸術、アートしての対価と言ってもいいかもしれないですね。しかも、芸術やアートを味わうとして考えると、実は料理というのは極めて安価なんです。例えば世界的に有名な絵画を手にしようとしたら、それこそ数百億円なんて価格にもなる。

ところが、世界最高級の鮨はそんなことにはならない。せいぜいが数万円です。六本木の「鮨さいとう」で食べても、10万円はかからないわけです。

美食というのは、極めて安価で文化的な活動だと思っています。

※後編(7月3日公開)へ続く

TEXT=上阪徹

PHOTOGRAPH=菊池陽一郎

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