プライベートジェットで未知の体験をするため、はたまた、世界のベストレストランをホッピングするため、旅を愛する男たちは世界中を飛び回っている。OAD世界No.1レストランレビュアーの浜田岳文氏に、記憶に残る最高のホテルをその理由とともに聞いた。【特集 ホテル案内2023】
1年のうち3分の2を旅先で過ごす美食家の超絶ホテル選び
美食を追い求め、世界中を旅するのが浜田岳文氏だ。その経歴は驚くばかりで、イェール大学在学中にニューヨークを中心に食べ歩きを始めると、卒業後は本格的にガストロノミーを追求するためパリに留学。金融関係の仕事に約10年間従事したあと、世界一周旅行へ。2年間で南極から北朝鮮まで世界125の国と地域を訪れ、現地の食文化に触れてきた。
さらに「世界のベストレストラン50」の店を制覇したり、世界のレストランをランキング形式で評価するOAD世界のトップレストランのレビュアーランキングで世界1位を獲得し続けるなど、食への情熱はとどまるところを知らない。
そのため現在も1年のうち3分の2は、日本の地方や海外のホテルを渡り歩く生活を続けている。だからこそ浜田氏はストレスがなく、そこに暮らしているかのように滞在できるホテルを厳選する。
宿泊者の写真をホテル選びの参考に
ホテル選びはインターネットを通じて行う。予約サイトの設定を使って予算と一定以上の評価で絞りこんだあとは写真を隈なくチェックしていく。
「ホテルの公式サイトの写真は当然ながらよく見せることが前提なので、アーティスティックすぎたり、クローズアップした写真ばかりで全景がわからなかったり、部屋ごとのディテールが曖昧だったりして、判断が難しいことが多いんです。だから私はいつもメジャーな予約サイトに投稿されている宿泊者が撮影した写真を参考にしています。その多くがスマホで普通に撮影されているぶん、館内や部屋のありのままの状態がわかるんです。予約する部屋のグレードごとではなく、ひと部屋ごとに写真や概要が紹介されていることが多いため、バスタブの形状やベッドの配置など細部について正確な情報を得ることができます。間違いのない部屋選びができるんです」
情報の透明性が上がった今でも予約サイトによって宿泊料金が異なる場合があるため、複数のメジャーなサイトを見比べることも重要だと浜田氏は話す。
そんな浜田氏が訪れてよかったホテルはというと。
「まずはメキシコのユカタン半島北部の都市、メリダ近郊にある『チャブレ ユカタン』。ここはメキシコにあるレストランの2トップのひとつ『キントニル』がプロデュースするレストランがあって、料理が素晴らしいです。4日間の滞在中、毎回違うコース構成で出してくれました。ユカタン半島の名物料理で豚肉の塊を土に埋めて蒸し焼きにする『コチニータ・ピビル』も作ってくれて、すごく楽しかったです。敷地が広く、ジャングルの中にコテージが点在。全体の雰囲気もモダンで快適。ここは日本人がまだほとんど行っていないホテルだと思いますね」
アイルランドのダブリン郊外にある「クリフ アット ライオンズ」は、ニューノルディックの影響を受けたレストラン「アムシャル」があるだけでなく、周辺の環境も含めて浜田氏の印象に残っているホテルだという。
「その料理は、野草や発酵食材を使っているのが特徴です。建物は伝統的な建築物を活かしてリノベーションしたアイルランド式のカントリーハウス。敷地が広大で歩き回るだけでも十分楽しいし、雨がよく降るので緑も多くて気持ちいい。部屋のバスタブが猫足に代表される私の好きなフリースタンディングタイプだったこともポイントです」
ドイツ南西部、黒い森にある「トラウベ トンバッハ」は、8つのバー&レストランを備えた長期滞在型のスパホテルで、本格的なサウナも魅力だ。
「シェフが代わりながらもミシュラン三つ星を取り続けているフレンチレストラン『シュヴァルツヴァルトシュトゥーベ』では、古典的な王道のフランス料理をいただくことができます。加えてサウナが複数あって水風呂も完備。1時間に1回ほどのペースで熱風を送るアウフグースも行っていて最高でした」
浜田氏のホテル選びの基準はレストランのよし悪しだけではない。建築的に好きなホテルとして挙げるのはジョージアの「スタンバ ホテル」だ。
「このホテルに泊まることがジョージアに行く理由になるほどの価値を感じるホテルです。旧ソビエト時代の印刷工場を改装してスケルトン状態にした内装がカッコいいんです。部屋の真ん中にフリースタンディングタイプの真鍮のバスタブがドーンと置かれていて、部屋に備えつけのレコードプレイヤーでジャズをかけながら風呂に浸かると最高の時間が過ごせます。ホテルの目の前に山があって眺めも最高なんです」
また、世界のアマンも20ヵ所ほど訪れたが、なかでも面白かったのがモンテネグロの「アマン スヴェティ ステファン」。
「以前に人が住んでいた島がまるごとリゾートになっていて、教会や民家をそのまま宿やレストランにしているので、すべての間取りが異なります。歴史やそこに存在する必然性を活かしていることが心に響くし、画一的ではないこのいびつさや不完全さが好きです。島の住人になった感覚で楽しめます」
滞在そのものを楽しめるかが大事
国内のホテルや旅館に関しても、浜田氏は食を中心に選ぶことがほとんど。例えば、宿場町だった長野県の奈良井宿にある「BYAKU Narai」は、「傳」の長谷川在佑氏がメニューを監修したレストラン「嵓(くら)」があり、浜田氏はここで食べた熊コースが印象的だったと話す。
「造り酒屋の酒蔵を改装したホテルで、すべての部屋の仕様が異なるのが特徴です。レストラン『嵓』ではフレンチ出身のシェフが作る冬季限定熊コースがよかったです。熊肉のさまざまな部位が出てきて、シンプルにローストしたり、しゃぶしゃぶにしたりして最高でした。熊好きは絶対行ったほうがいいですね」
また、浜田氏が好きで何度もリピートしているのが、長崎県の雲仙にある「旅亭半水盧(はんすいりょ)」。
「全体がアマンのような設計で、宿となる2階建てのコテージが斜面に点在し、すべてが地下でつながっています。部屋は空間の贅沢さが半端ないです。下の階がダイニングで、料理は京都の『未在(みざい)』の石原仁司(ひとし)氏がかつて腕を振るっていたことで知られ、その時の料理を今も継承しています。田舎でいただく料理にしては凝りすぎ感も少しありますが、素晴らしいです。貸切露天風呂やサウナもあるので、思いっきりリフレッシュできます」
ホテルや旅館はレストランも含めて滞在そのものを楽しめることが大事だと話す浜田氏。
「部屋で快適に過ごせるか。私の場合、特にバスタブでゆっくり過ごせることが重要です。建築は歴史的な意匠やそこにある必然性を感じるサイト・スペシフィックなものが好きですね」
浜田氏の美食を探求する旅は、素敵なホテルや旅館とともにこれからも続いていく。
FAVORITE HOTELS&ONSEN LIST
①佐賀|御宿 竹林亭
「日本建築の意匠を継承しつつ、素材使いや窓の広いつくりが好み」
②長崎|雲仙温泉 旅亭半水盧
「すべてのコテージが2階建てで、空間の贅沢さが半端なし」
③大分|界 阿蘇
「森の中の露天風呂が極上。入って寝て入って寝てを繰り返せる」
④沖縄|ハレクラニ沖縄
「部屋タイプが多様な大型ホテル。きめ細かなサービスが心地よい」
⑤群馬|白井屋ホテル
「メインダイニングは『フロリレージュ』の川手寛康シェフが監修」
⑥長野|BYAKU Narai
「『傳』の長谷川在佑シェフ監修のレストランは、挑戦的な料理を提供」
⑦広島|LOG
「昭和のアパートをスタジオ・ムンバイが改装した建物に美学が宿る」
⑧石川|湯宿さか本
「何もないのが売り。食材をシンプルに活かした料理が美味しい」
⑨メキシコ|Chable Yucatan
⑩ジョージア|Stamba Hotel
「元工場をリノベした建築がカッコよく、朝食も美味しい」
⑪タイ|Four Seasons Tented Camp Golden Triangle
「宿がテントで景色も素晴らしい。宿泊料は高いが泊まる価値あり」
⑫マカオ|Morpheus
「ザハ・ハディドによる傑作建築。ずっと写真を撮っていられる」
⑬モンテネグロ|Aman Sveti Stefan
「島がまるごとリゾートで、街にホームステイする感覚が楽しい」
⑭アイルランド|Cliff at Lyons
「レストランがメインだが環境もよく、周囲を歩き回るだけで楽しい」
⑮南アフリカ|Babylonstoren
「ワイナリーの中に宿泊。ワイン畑で採れたものを使った食事が美味」
⑯ドイツ|Traube Tonbach
「王道のフレンチを出す三つ星のレストランが素晴らしい」
⑰スイス|7132 Hotel Vals
「ピーター・ズントーが手がけたテルメ・ヴァルス(温泉施設)が最高」
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