僻地に行くからこそ味わえる、その土地独自の食文化。世界の美食を知る浜田岳文氏が、エクストリームな地理条件を超えてわざわざ行きたい、辺境の地のレストランとは――。今回は北欧編。【特集 エクストリーム旅】
美食と出合うため、世界一周の旅に
南極から北朝鮮まで、これまでに世界120ヵ国以上を巡り、1年のうち5ヵ月は海外で食べ歩くという世界屈指のフーディーである浜田岳文氏。
人生を食に突き動かされてきたそのキャリアは特異だ。イェール大学在学中、学生寮の不味い食から逃れるための食べ歩きに始まり、美食を追求しパリに留学、約10年間の金融関係の仕事を経たあと、2年間、世界一周の旅に出て各国の美食と出合った。
世界のトップシェフやフーディーとのつながりを持ち、世界各地のレストラン事情に精通する人物だ。
わざわざ行きたいレストランとは
2017年には「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破、「OAD Top Restaurants」のレビュアーランキングでは2018年度から5年連続1位にランクインするなど、食の探求を続けている。
これまでも食を求めて辺境の地まで旅した浜田氏が、その地を訪れることを決める理由はシンプルなものだ。
「僕が旅をする時は、常にそこにしかないものを求めています。その食材がなぜそこにあるのか、その土地の人がどういう生活を送ってきたか。そこにシェフ自身の文化や背景が重なって、料理となる。そのクリエィティヴィティを享受したいという想いですね」
これまでにも各地の食体験を求め、8週間かけインド全土を横断、イタリアを6週間で80店舗を巡るなど、ストイックな食の旅をしてきた浜田氏だが、その経験をもってしてエクストリームだと太鼓判を押せるディスティネーション・レストランを今回紹介してもらった。
「北欧から挙げていくと、まず気になっているのはノルウェーの『Iris(アイリス)』です。Expedition(遠征)restaurantと自ら言っているように、とにかく遠い。レストランがあるのは、西ノルウェーの入り江に囲まれた湖の上。建築も独特です。最寄りのベルゲン空港までは飛行機に乗り、そこからクルマ。港のあるローセンダールから最終的にはボートに乗らないとたどり着けないというところです。料理は地元ハルダンゲルフィヨルド地方の壮大な自然にインスピレーションを受けたもので、まさに五感を使った食体験ができる場所だと聞いています。今年中に絶対に行こうと思っています」
ひとつの物語のようなコースは、世界のフードシステムに対する挑戦と脅威、そして未来の革新のためのアイデアと提案がテーマとなっているそう。辺境の地から世界にメッセージを発信する、まさに唯一無二のレストランだ。
アクセスの難易度の高い北欧の島々には、他にも浜田氏が目指す場所がある。
「グリーンランドの『KOKS(コックス)』です。以前フェロー諸島にあった際に訪れたのですが、それが期間限定でさらに僻地に移動しました。周りに住んでいるのは数十人。水や電気も止まってしまうこともあるなど超過酷な環境のようですが、そのなかで素直でシンプルに美味しい料理を出しています。これも今年必ず行ってみようと思っています。
そしてもうひとつ、北極圏ノルウェー領のスヴァールバル諸島にあるのが『Huset(フーセット)』。冬はマイナス20度になるような過酷な場所で、まさに地上の果て。以前は有名なシェフがいたこともあるので、料理も期待できます」
1.アイリス|ノルウェー・ハルダンゲルフィヨルド
湖上に浮かぶ、究極のサステナブルレストラン
ノルウェーの湖上に浮かぶ、地元食材を多用したサステナブルレストラン。ゲストは近くの港町から専用の電動ボートに乗ってオブジェのような建物に向かい、その中で6時間の食体験をする。“サーモンアイ”と呼ばれる建造物は海洋生物研究所にもなっており、ノルウェー海域の生態系の保全のための食材確保や、食の開発を行う。全18皿のコース料理では、食料問題を新たな視点で捉え、海洋が持つ食材としての可能性を表現する。
Iris
住所:Hardangerfjorden, 5470 Rosendal, Norway
2.コックス|グリーンランド・イリマナク
北極圏に位置する星つきレストラン
ユネスコの世界遺産にも登録されているグリーンランド、イリマナクの海辺のロッジにある「KOKS」。持続可能な方法で栽培された海藻、有機野菜、放し飼いのフェロー諸島の肉類など、極北の大地で調達できる食材を使い、環境負荷の少ない料理を創作する。サステナビリティを推進するレストランに贈られるミシュラングリーンスターを獲得。
KOKS
住所:Ilimanaq Lodge, Greenland
3.フーセット|ノルウェー・スヴァールバル諸島
冬はマイナス20度、地上の果てにあるレストラン
世界最北の町、ロングイェルビーンにある地元素材を使ったノルディックレストラン。スカンジナビア最大級の1万5000本を超えるワインを所有する。
この記事はGOETHE 2024年4月号「総力特集:エクストリーム旅」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら