PERSON

2024.04.13

【神田伯山】「ん!?」のひと言を15回録り直した、声優初主演作『クラユカバ』のこと

2024年4月12日から公開された塚原重義監督による初の長編アニメーション映画『クラユカバ』。主人公・荘太郎の声を務める講談師の神田伯山に、自身にとっても初主演となった作品への想いを聞いた。

アニメ映画『クラユカバ』
『クラユカバ』
原作・脚本・監督:塚原重義 
出演:神田伯山、黒沢ともよ、芹澤優、坂本頼光ほか 
配給:東京テアトル ツインエンジン
2024年4月12日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開中
©塚原重義/クラガリ映畫協會

国際映画祭で観客賞・金賞に輝いた注目作

日本が世界に誇るアニメーション文化と江戸時代から受け継がれてき大衆芸能が、美しく奇妙な世界観のもとに融合した。

近年、海外でも注目を集める自主制作のインディーズアニメの名手・塚原重義監督によるアニメ映画『クラユカバ』が絶賛公開中だ。

塚原重義監督といえば、まだインディーズアニメという言葉がなかった2002年頃に活動を開始。2010年代には『端ノ向フ』(2012年公開)が第11回インディーズアニメフェスタで大賞•三鷹市賞を受賞。その後も『女生徒』(2014年公開)が第10回札幌国際短編映画祭で大林宣彦 審査員賞を受賞するなど、快進撃を続けてきた。

そしてツインエンジンEOTAグループに所属する少数精鋭のアニメーション制作チーム「チームOneOne」が制作に合流し『クラユカバ』の全編が完成すると、国際的な映画祭への出品が次々と決定。カナダで開催された2023年ファンタジア国際映画祭では長編アニメーション部門の観客賞•金賞に輝くという快挙を成し遂げた。 

『クラユカバ』の物語は、うだつのあがらない私立探偵、荘太郎を中心に展開。ひょんなことから集団失踪の謎を追って“クラガリ”と呼ばれる地下迷宮へ潜ることになった荘太郎が目にしたのは、福面党というならずものが蔓延る危険で怪しげな暗礁世界。

塚原監督の真骨頂であるファンタジックでノスタルジックな映像と、人間の“怖いもの見たさ”をくすぐる世界観に、観客はぐいぐい心を引きこまれる。その主人公、荘太郎の声を担当するのが「いまもっともチケットが取れない講談師」といわれる神田伯山氏だ。

神田伯山氏

伯山氏にとっては、これが声優としては初めての主演作。新しい分野に向きあうことになったきっかけは、断れない状況に追い込まれたからだった。

「尊敬する活動写真弁士の坂本頼光先生が塚原監督と10年来のお付き合いで、それでお話しをいただいたのがきっかけです。僕はプロの声優ではないので、ちょっとどうかなと考えたりもしたのですが、断りづらい雰囲気もあって……(笑)」

そこから本作の前、2021年に公開された『クラユカバ 序章』で荘太郎を演じることが決まった。

「『クラユカバ 序章』が公開される際、主演は誰かという推理企画があったんですけれど、声優の中島ヨシキさんじゃないかという声がすごく多くて。それがいざ発表となったらジャジャーン! 荘太郎役は講談師の神田伯山です! ってなったときの、これ誰得なの?という感じ(笑)。

MCを務めるラジオ『問わず語りの神田伯山』(TBSラジオ)で、いまからでも遅くないから、中島さんで録り直したほうがいいんじゃないかと言い続けていたら、急に監督の一発OKが増えていきましたね」

声優と講談の声の使い方はまったく違う

神田伯山氏

そう冗談交じりに回想するものの、声優の仕事と向き合うことは決して楽ではなかったという。

「声優さんがすべてのシーンで100~120%の声で演じるのとは違い、講談はあまり感情を入れず、棒読みに近い感じで話す場面もあるんです。その根本的な表現の違いをたびたび感じて。“ん??”というたったひと言を15回も録り直したり、細やかな職人の仕事を感じる現場で、すごく勉強になりました。

塚原監督をはじめ、声優としては素人の自分をプロのやさしさで包んでいただいたおかげで、作品の一部になれたことに感謝しています」

講談界のスターが四苦八苦して臨んだ、声優初主演作『クラユカバ』。インタビュー後編(4月14日公開)では作品へ思いや魅力を聞く。

神田伯山/Hakuzan Kanda
1983年東京都生まれ。2007年、三代目神田松鯉に入門、神田松之丞と命名される。2012年二ツ目昇進。2020年に真打昇進と同時に六代目神田伯山を襲名した。著書に『絶滅危惧職、講談師を生きる』『神田松之丞 講談入門』『講談放浪記』など。

TEXT=小寺慶子

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

HAIR&MAKE-UP=石川美幸 (B.I.G.S.)

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