ENTERTAINMENT

2021.06.03

凄まじい絶望のなかでも希望を見いだせる3Dアニメ映画【滝藤賢一の映画語り座】

『トゥルーノース』6月4日より全国公開!

連載開始から幾年月、初めてアニメーション映画を取り上げます。きっかけはなんとなく予告編を拝見したこと。雷に打たれたようなショックを受け、これは観なければならないという衝動に駆られました。

北朝鮮に実在するという政治犯強制収容所。そこに突如、収監された家族。清水ハン栄治監督が施設からの脱北者たちを丹念にリサーチし、10年かけて作り上げた作品です。アニメという手段で表現したことで、残酷さと生々しさだけにフォーカスされることがなくなり、余計な感情を持つことなく、事実を冷静に観ることができました。

冒頭、学者風のスマートなアジア人の青年が登場し、「政治の話ではなく、私の家族の話をします」とTEDでスピーチを始めます。

時代は1995年。小学生のヨハンの家族は平壌(ピョンヤン)で豊かな生活を送っていたところ、父親が政治犯とされ、家族はあっという間にドブ板長屋のような収容所へ押しこまれます。施設に入った途端、人間扱いされず、食糧も満足にない。医療もない地獄のような生活。この理不尽極まりない世界に、観ていて心が折れました。

しかし、この救いのない状況でもヨハンの母と妹の存在に心を打たれます。悲惨な住環境をなんとか人間らしい場所にと工夫を凝らし、生きていく意味や楽しさを見いだそうとする。妹のミヒがくすんだ壁に花を少しずつ貼り足していくのですが、絶望のなかでも不思議と心が満たされていきます。希望を見いだそうとする、美しいものを探して生きていく、これが人間の尊厳なんだなと気づかせてくれました。母親が残した言葉、その後、妹が取る行動。それに感化される仲間たち。涙が溢れ、心が温かくなる。人間は本当に素晴らしい生き物ですよ。

そして、日本と関わる描写。主人公一家は在日朝鮮人の帰還事業で北朝鮮に渡った家族。日本からの拉致被害者も出てきます。昔を懐かしみ、小さな声でそっと歌う「赤とんぼ」。他人事ではない痛みを感じました。何事も無関心でいるのではなく、まずは知ることから始めたい。

トゥルーノース

©2020 sumimasen

トゥルーノース
朝鮮民主主義人民共和国の政治犯強制収容所での過酷な日々を3Dアニメにしたもの。在日4世である清水ハン栄治監督が、収容所からの脱出者に丹念に取材を重ね、その知られざる実態を描きだした。タイトルには「ニュースでは報道されない北朝鮮の現実」に加え、英語の慣用句「絶対的な羅針盤」という意味が込められている。
2020/日本・インドネシア合作
監督:清水ハン栄治
声の出演:ジョエル・サットン、マイケル・ササキ、
ブランディン・ステニスほか
配給:東映ビデオ
6月4日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開!

滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。

COMPOSITION=金原由佳

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