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ENTERTAINMENT

2018.05.18

宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.2 『となりのトトロ』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意し、筆おろし作品に選んだのは、1984年の作品『風の谷のナウシカ』。ジブリ2発目に挑んだのは『となりのトトロ』だった。

『となりのトトロ』レビュー

ナウシカの次は何を観るべきかと読者の皆さまに伺ったところ、『ラピュタ』、その次に『トトロ』というお声が多かったのですが、トトロをお勧めしてくださった多くの方が「ぜひ娘さんと観てほしい!」という理由を添えてくださいまして、育児漫画も描いているぐらい現在子育て真っ最中の自分には、あぁ、これはいいなと、まだいくらかジブリに抵抗もあるし、娘を言い訳にできるのはとても都合がいいなと思いまして……今回はすんなり『となりのトトロ』でジブらせていただくことになりました。育児の一環として、アンパンマンを娘に観せる感覚で、私は娘とトトロを観るのだと思ってください。

余談になりますが、アンパンマンもミッキーマウスも、初めて娘に観せる時は、いくらか葛藤がありました。おそらくこれも兄に言われた「大衆文化にばかり触れていると、普通の人間になってしまうぞ」という例の一言が影響しているのでしょうが、私自身も元来、余計な心配ばかりする性格でして……。

もし娘がアンパンマンやミッキーマウスを大層気に入って、家中をグッズが占領したら嫌だな……とか、床に落ちてるバイキンマン専用ロボのおもちゃのギザギザした部品を踏んだらイラっとするだろうな……とか、そんなことばかり考えてしまうのです。テレフォン人生相談の加藤諦三先生、大原敬子先生に聞いてもらってるみたいになっちゃってすいません……。

ただそういう考えも、もしかしたらエンタメ虐待(自分のエゴで子供からエンタメを無闇に遠ざけてしまうこと・私が勝手につくった造語)にあたるんじゃないかと、最近はエンタメ検閲のレベルを意識的に緩めるようにしています。

ですから今回は、保育園から帰ってきた娘にとびきりの笑顔で「手を洗っておいで、おやつを食べながら一緒にトトロを観よう!」と誘ってみることにしました。私は想像の中で一度トトロのぬいぐるみを踏んづけてみて、痛くないことを確認し、娘と一緒にデッキの再生ボタンを押しました。

子供目線の世界をVR体験で覗き見させてもらっている感じがした

子供の頃に見ていた景色、空気、初めて触れる物を、おっさんの私にも体感できるよう、VRのゴーグル越しに覗き見させてもらっているような気分で観ていました。床に落ちてるどんぐりを拾っている妹のメイの頭の上から、お父さんが覗き込んでくる時のメイの視点とか、かなりVR感があるんですよね……。あと、お姉ちゃんのサツキがお風呂を沸かすための薪を取りに行くシーンなんて特にそうなんですが、まず薪が異様にデカイんですよ、で、その薪が突風でやたらと大げさに空に向かって飛ばされるのだけど、あんなことはありえない。だけど子供の頃って、常にそういう大げさな感覚で物事に触れていた気がするんですね。舌で触れた虫歯の穴が、実際よりも大きく感じたように。

で、それをさも大事件が起きたかのように、当時は自分も大人に伝えてたっけな……と、膝の上に娘を座らせて観ていたせいか、そんなことを思い出しながら観ていました。

ちなみに今私、VRを例えに使いましたが、ゴーグルを触ったことすらないです、ごめんなさい……若者ぶって雰囲気で書いてしまいました。VR、超やってみたいです。

お父さんの娘とのお風呂の入り方が気になった

これに関しては腰を据えてちゃんと説明したいというのもあって、育児エッセイ漫画にしてまとめてみました。こちらの漫画を読んでいただけると嬉しいです。


宮川サトシ
『となりのトトロ』Blu-ray レビュー
★★★★☆ Amazonで購入
形式:Blu-ray
5つ星のうち4.0
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いちいち細けぇ…

これはナウシカの時も思ったのですが、細かい日常あるある、とりわけトトロは"子供日常あるある”が満載で、いちいち細か懐かしかったですね。

サツキが靴を脱がずにひざ立て歩きで新居に上がる場面とか、あぁ〜自分も子供の頃やったやった、すぐそこに見えてるファミコンカセット(バルーンファイト)を取るのに、わざわざ靴を脱いで上がるの面倒くさいんだよな〜、あるある……。

で、姉の後について家に上がりたいメイは、ひざ立て歩きする知恵がまだなくて、靴を脱ぐのにモタつくという描写を入れるのも芸が細かい。宮崎監督、本当細かい。割り勘する時1円単位まで計算してそう。

あと、ネコバスが最後に示した行き先の表記「七国山病院」の「院」の文字だけが一部奇妙にひっくり返った表記になっているのも細かいですよね。あれが絶妙に気味が悪くて、並行世界に迷い込んでしまったような感覚になりました、ほんと細かい演出。宮崎監督、趣味で米に般若心経書いてそう。

センスの無い自分だと「院」以外の文字も反転させたりして、この独特な奇妙な風合いを台無しにしてしまいそう…

ずっと嫌な予感がしてしまうのは歳のせい

終盤、お母さんの容態が悪くなったという電報が来たあたりから、ほのぼのした空気に一気に暗雲が立ち込めるのですが、私ぐらいのおっさんになると、正直もうずっと前から頭の片隅で最悪の結末を想定しながら観てたところがあります。

時代背景もよくわからずに言うのもあれですが、あの田園風景を見ていても、いつアメリカ軍の爆弾が落っこちてきやしないかと不安になるし、勝気な妹はいつ勝手な行動をして迷子になるのかハラハラするし、お母さんが入院している病院の感じも、全然病気がよくならない空気が漂ってるのが経験則からわかるし……なんとも歳は取りたくないものだなと。

(※編集部注:「となりのトトロ」の時代背景は1950年代が通説となっています)

ずっと嫌な予感がしていて、そうなった時にダメージを受けないよう、常に心にサングラスをかけてトトロを観ている私。膝の上に座っている我が娘は、まっくろくろすけが壁の隙間から出てくるだけでケタケタと笑っているというのに。

こんな余計なことを考えてしまうのもたぶん歳のせい。

結論 『となりのトトロ』は意外とおっさんになってから観た方がグッとくる

トトロはたぶん、自分の場合、思春期の頃に見ていたらちょっと退屈に感じていたかもしれないなと思いました。巨大メカも、マッチョなヒーローも出てこないし、倒すべき宿敵や、手に入れるべき財宝もないから、目的がなかなか見えてこない。

チラチラ見えるサツキとメイのパンツに目を背け、パンツに興味がないことを同級生たちにアピールするため、大げさに「あんなロリコンぬいぐるみアニメ、つまんねぇ」と言ってまわってた、小学生の自分が想像できるのです。

ところがですよ。それがおっさん目線で観ると、これでも人の親だからなのでしょうか、「頼む! 何も起きないで終わってくれ!」と願いながら観ている自分がいて、気がついたら脇にちょっと汗かいた状態で観終わってました。

娘は55分ぐらいのところで集中が切れたのか、私のふくらはぎを枕にして眠ってしまいました。買い物から戻ってきた妻がそれぐらいから見初めて、ポツリと「子供の頃に観た時より、私ネコバスに乗りたいと思ったかも」とつぶやいていました。

普段絶対こんな娘のスケッチなんてしないのに…それをさせてしまう「トトロ」という映像作品から発せられるマイナスジブリイオン効果。

多感な時期にジブリを観なかったことをどこかで少し後悔していたのですが、『となりのトトロ』は、個人的におっさんになってから観て良かった作品でしたね。個人的にナウシカより好きですねぇ。

次回のジブリレビューは?

2発目のジブリレビューいかがでしたか? 今回も前回レビューと同様に読者の皆さんの意見を反映して作品を選んでいきたいと思っています。『となりのトトロ』の次に見るべき、あなたのおすすめ作品を教えてください。ツイッターやfacebook、Instagramなどで「#ジブリ童貞」のハッシュタグをつけて投稿を。参考にさせていただきます。

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