今回は全国順次公開中の映画『落下の解剖学』を取り上げる。■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは
法廷で明かされる夫婦の亀裂。夫の死の真相は如何に
今年もアカデミー賞の季節がやってきました。日本は『ゴジラ-1.0』『PERFECTDAYS』『君たちはどう生きるか』がノミネートされ盛り上がっていますねぇ。最高!
そんななか滝藤がお薦めしたいのが、作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門でノミネートされている、フランス映画『落下の解剖学』です。
舞台はフランスの雪深い人里離れた山荘。主人公は国際的な小説家のサンドラ。夫が山荘から転落死し、同じ時間に家に居たのが彼女だけで、殺人容疑がかけられます。遺体の第一発見者は、散歩から戻った11歳の息子。彼は交通事故で視力が大幅に低下し、証言が耳からの情報に限られる。この設定だけで面白いのに、さらに、夫婦あるあるが詰めこまれ、延々と答えのない、底なし沼にハマっていく。
例えば子供の将来を巡る夫婦の相違。この夫婦喧嘩どっかで見たなあと思っていたら、思いだしましたよ。ウチだ! 滝藤家だ! 滝藤家もしょっちゅう子育てについてバトルを繰り広げておりますし、4人も子供がいるので毎日のように事件が起きます。
自分たちのことだと疲れてぐったりしてしまうのに、他人の夫婦喧嘩は客観的に観られて面白い! “こりゃ、いつまで経っても平行線だよ!”“お互いもっと妥協しろよ!”“譲歩だよ譲歩。もっと相手を思いやれよ!”と冷静かつ無責任に分析できる。これが自分のことになると、なんであんなに拗(こじ)れまくって、毎度同じことを繰り返して、ドツボにはまっていくのか……。不思議だ。
しかし、裁判って残酷だなあ。夫婦間にしかわかり得ないことってありますものね。何十年も時間を共有しているわけですから。怒りから、思ってないこと言ってしまうこともあるし、逆に我慢してマイルドに包んで話すこともある。
でも証拠となるのは発した言葉のみ。その言葉って、すべてじゃないじゃないですか。証言台に立つ証人も、ある一面しか見えてないのに証言するんですものね。それで他人の人生が大きく左右されるんだから責任重大ですよね。事故か殺人か自殺か……。これは語り合わずにいられない!
『落下の解剖学』
2023年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞するなど賞レースを席巻中。サンドラを演じるのはザンドラ・ヒュラー。クールな表情から、真意を読み解くのがこの映画の醍醐味。鍵を握るのは息子と愛犬。犬の名演でカンヌではパルムドッグ賞も受賞した。
2023/フランス
監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルローほか
配給:ギャガ
TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中
https://gaga.ne.jp/anatomy/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在Netflixにてドラマ『幽☆遊☆白書』が世界配信中。2024年4月1日からスタートするNHKの連続テレビ小説『虎に翼』にも主人公の上司役で出演する。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!