今回は2024年2月9日公開の『夜明けのすべて』を取り上げる。■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは
平穏な日々を送れることは、何ものにも代えがたい幸せ
滝藤が大好きな映画と言えば、中高生の頃から変わらず、派手なアクション、ギャング、ポップで笑って泣ける明るい作品などなど刺激がある映画でした。
淡々と日常を送る物語など退屈でまったく興味がなかった。しかし、年齢のせいなのか、はたまた、俳優という職業を30年近く送ったせいなのか、役所広司さんが主演を務めた映画『PERFECT DAYS』のような、一日を丁寧に、ルーティーンを繰り返して生活していくことがいかに幸せなことなのか。それがどれだけ大事なことなのか。ジワジワと響くようになってきました。
三宅唱監督の新作映画『夜明けのすべて』もまた、今の若い人にとって、平穏な日々を送ることは他に代えがたい幸せであり、そうできない苦しさがあるのだと深く染み入ったのであります。
上白石萌音さん演じる藤沢さんはPMS(月経前症候群)で、毎月、生理が近づくと感情をコントロールできなくなり、ある時、職場でトラブルを起こしてしまいます。一方、松村北斗くんが演じる山添くんはある時期からパニック障害になり、思い描いていた人生のレールから外れてしまう。ふたりは、科学工作玩具を作るメーカーで同僚として出会います。
最初は互いの抱えるつらさに無理解な発言をして、傷つけ合います。自分の気持ちを説明することは簡単ではないですが、だからといって説明しないと誤解を生んでしまうこともある。たとえ説明したとて理解してもらえるとも限らない。う〜ん、難しい問題だなぁ。
ゲーテ読者の方は経営者や管理部門に居る方も多いと想像します。『夜明けのすべて』では、女性の生理にまつわるつらさも丁寧に描き、当事者の困難さがよくわかります。光石研さん演じる社長をはじめ、会社の人たちのふたりを見守る距離感がとても心地よく、同僚フレンドシップというものを考えさせられる。
すべての人に思いやりを持って優しくなれれば、もっと豊かな人生を送れるのではないかと、ふと思う2024年年頭でありました。
『夜明けのすべて』
瀬尾まいこの同名小説を映画化。月1回訪れるPMSの影響で感情を爆発させてしまう藤沢さんとパニック障害を抱える山添くんの恋愛にはいたらない理解ある同僚の関係性が心地よい。連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦を演じた主演ふたりの相性も抜群。
2024/日本
監督:三宅 唱
出演:松村北斗、上白石萌音、光石 研ほか
配給:バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース
2024年2月9日より全国公開
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在Netflixにてドラマ『幽☆遊☆白書』が世界配信中。2024年も出演作が続くので、乞うご期待!
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!