今回は2024年1月5日公開の『ミツバチと私』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
第三の大人が子供にとって、いかに救いとなるか
もうね、信じられませんよ。これが演技だったら、滝藤がやってるのはなんなんでしょう(笑)。今一度、自分のやっていることに疑いを持って、演技とは何ぞやと考え直す素晴らしい出会いでした。
今作はフランス領バスクから母の故郷、スペイン・バスクの山岳地帯に夏の間、一時的に里帰りした家族の物語。主人公の8歳のアイトールは、肉体は男の子だけれど、男の子らしい名前も服装も嫌がる。
このアイトール役のソフィア・オテロさん、ベルリン国際映画祭において当時9歳にして史上最年少で最優秀主演俳優賞を受賞したそうです。小さな心と身体で、悩み、苦しみ、葛藤する姿は4人の子供を持つ滝藤もどのように接すればいいのかわからず、自分の未熟さを思い知らされました。
髪を伸ばし、ガーリッシュな服を着て、表に出たいアイトールに、父親は「家の中ではいいけど、外ではだめだ」と言ってしまう。いや、お父さん、気持ちはわかる! 親も心の準備が必要。わかるけど、でもそれはこの幼き子には関係ない。親の気持ちや世間体なんて問題じゃないんですよ。お母さんは子供に寄り添いたいと思っているが、いろんなことを強要してしまう。
“何が嫌なの?”“何が気に入らないの?”“なんで? なんで?”。滝藤家でもよくある光景。それに対して何も言わないので、余計イライラしてくる。本人もなぜそういう態度をとったのかよくわかってないかもしれないし、言いたくない、喋りたくないから、反抗するのかもしれない。もうどうしていいかわからない。観てるこっちもどうしていいかわからない……。まだ、小さいし、そのうち変わるだろうと、見て見ぬ振りをしていると、子供はどんどん追い詰められていく。
エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン監督によると2018年にバスク地方で10代のトランスジェンダーが自殺して社会問題となり、トランスジェンダーの子を持つ家族の会の協力を得て制作したそうです。主人公の理解者として養蜂家の叔母さんが登場しますが、子供には利害関係のない第三の大人の存在が必要だと痛感しました。
『ミツバチと私』
第73回ベルリン映画祭にて主役を演じたソフィア・オテロが当時9歳にして史上最年少で主演俳優賞を受賞した作品。自分の性自認に悩みを持つ子供と、見守る家族の葛藤と優しさを描く。子供が抱える不安や心の機微を繊細に演じた主演のオテロは約500人のなかからオーディションで選ばれた新人で、今回が映画初出演。
2023/スペイン
監督:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
出演:ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス、
アネ・ガバラインほか
配給:アンプラグド
2024年1月5日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在Netflixにてドラマ『幽☆遊☆白書』が世界配信中。2024年も出演作が続くので、乞うご期待!
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!