今回は2022年8月19日公開の『サバカン SABAKAN』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
なんて純粋なんだ! サイコーの瞬間で溢れた映画だ
子供を思う存分に遊ばせるには難しい状況が続き、モヤモヤした親御さんが多かったのでは? 今年はコロナ禍も落ち着きを見せ始め、ようやく夏を満喫できそう! と思ったらまた増えてる……。コロナめ! とは言うものの、夏休みをできる限りenjoyしたいので、家族で楽しめる最高の映画をご紹介したいと思います。
『サバカン SABAKAN』ん? サバカン? 皆さんもしや、あのサバ缶を想像してますね! そのサバカンです! 1986年の長崎県長与町が舞台です。段々畑に実るみかん、雄大な海、東京ではリーマンがタクシーチケットを片手にぶいぶい言わせていた時代。私の田舎・名古屋もそうですが、地方は意外と長閑でしたよね。長崎出身の金沢知樹さん初監督作品。監督の地元愛が溢れでております。
草彅剛さん演じる作家、久田が主人公ですが、話の主軸となっているのは彼の幼い頃の思い出。主役は小学5年生の男子ふたり、久田と竹本です。父親を早くに亡くしたため、母ひとりで大勢の子供を養う竹本家は金銭的な余裕がなく、竹本の服は年中ランニングシャツ。そんな竹本からある秘密を打ち明けられる久田。ひとつ山を越えた向こうの島にイルカが来ていると。そりゃ、行くだろう! 小学5年生にとってイルカはロマンですよ!!
私もそうでしたが、子供ってびっくりするくらい危険なことを平気でしますよね。親目線の私はヒヤヒヤでしたが、一緒に観ていた我が家の子供たちは大興奮! 普段、私の作品は『探偵が早すぎる』しか観ない子供たちがくぎづけでした。時代は大きく変われど、子供が持っている本質って変わらないんだなぁ、と嬉しくなります。
金沢監督、芸人出身とあって、台詞のテンポが凄まじくよい。よくある家族の会話も夫婦漫才のようでずっと観ていたくなる。
今は塾に行くにも遊びに行くにもGPSなどで親が子供の場所を把握して管理する時代。こういう世の中だから心配なのは仕方ないが、子供を信じて冒険させるのも、親の務めっすね。よっしゃ、サバ缶食べよ。
『サバカン SABAKAN』
2022/日本
監督:金沢知樹
出演:番家一路、原田琥之佑、尾野真千子、竹原ピストルほか
配給:キノフィルムズ
2022年8月19日より全国公開
作家の久田はゴーストライターとしてなんとか生計を立てるが妻子とも別居中で、人生が停滞中。そこで一念発起し、子供時代の物語を書き始める。それはサバ缶を見ると思いだす竹本という少年との日々だった。ドラマ『半沢直樹2』の脚本家でも知られる金沢知樹の初監督作。
Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。今年の6月に発表された第41回ベスト・ファーザー「イエローリボン賞」を受賞。2023年1月13日に初主演映画『ひみつのなっちゃん。』が公開される。
連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!