今回は2022年12月23日公開の映画『フラッグ・デイ 父を想う日』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
大人になるにつれ、消えゆくヒーローだった父親への想い
彼は私の学生時代からの憧れの存在。役者という道を志してからその思いはさらに増すばかり。なんでこんな表情ができるんだ……。なんでこんなに深い感情が伝わってくるんだ……。なんで、なんでを突きつけてくる。どんなアプローチをすればあんな演技ができるのか。まるでそこに存在しているかのような説得力には惚れ惚れする。彼を観ていると、真実の連続で、“演技とは本当に虚構の世界なのだろうか? どうせ嘘の世界だからと甘んじて、無意識に楽をしようと自分で限界を決めてしまい、諦めているのではないのか?”と恥ずかしくなってしまった滝藤。46歳になっても学ぶことはまだまだあるんだなあ。そう! 彼こそ、私がもっとも影響を受けた俳優、ショーン・ペン様、この連載初登場です。
今回紹介させていただく『フラッグ・デイ 父を想う日』では自分の身の丈に合わない大きな夢を持つ父親、ジョンを演じています。娘のジェニファーにとって、ジョンはなんてことない日常を特別な日に変えてくれるヒーロー。しかし、彼女が成長するにつれ、父親の本当の姿が見えてくる。自分が作り上げた虚構のなかで生きていくジョンは、悲しいわ痛々しいわで、観ていて辛くなってくる。また、そんな父親を支え、共に生きていこうと必死に奔走する娘役の方の演技が素晴らしい! なんて魅力的な女優さんなんだと調べてみたら、名前がディラン・ペン。ん? ペン? え、ペン? ショーン・ペン? ディラン・ペン? って、おーい! ショーン・ペンの実際の娘! ショーン・ペンの贖罪の映画じゃねーか! と思ったのは私だけでしょうか……。
原作はジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルさんという女性が記したもの。実話に基づいていて、父親が起こした全米を驚かせた、ある事件を回顧した話を映画化しています。
子供たちの前ではいつまでもカッコいい父親でいたい! という私のなかのこのレッテルを、子供に気づかれないよう少しずつ剥がして、気楽に生きていこうと思います(笑)。
『フラッグ・デイ 父を想う日』
2021/アメリカ
監督:ショーン・ペン
出演:ディラン・ペン、ショーン・ペンほか
配給:ショウゲート
2022年12月23日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
1992年に起きた、アメリカ最大の偽札偽造事件。犯人の娘であるジェニファー・ヴォーゲルが真相を記した原作をショーン・ペンが自ら主演し、映画化。ジェニファー役をペンの実の娘であるディラン・ペンが好演。弟役もペンの息子、ホッパー・ジャック・ペンが演じ話題を呼んでいる。
Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。2023年1月13日に初主演映画『ひみつのなっちゃん。』が公開予定。また正月スペシャルドラマとして『家電侍』(BS松竹東急)が放送される。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!