ENTERTAINMENT

2023.04.28

大奥のウンコは高く売られていた!? ウンコで社会の見方が変わる映画『せかいのおきく』

今回は2023年4月28日公開の『せかいのおきく』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……

映画『せかいのおきく』

©2023 FANTASIA

ウンコの原稿を書いてたら、はじめて子供が寄ってきた

滝藤は観葉植物に時間と愛を長年注いできました。ただ最近は、集める・育てる・観賞するだけでは飽き足らず、この滝藤植物園で食物連鎖を起こすことはできないだろうか、地球に恩返しできないだろうか、と考えるようになりました。育った庭の果実が鳥や虫の餌となる。彼らがどこかにウンコをし、それが肥料となる。小さな行動ですけど、生態系の循環に小さく寄与していると信じたい。最近では、自宅でディスポーザーを利用して肥料を作ってみようと試行錯誤しております。

そんな社会の見方を変えるキッカケにもなる映画が阪本順治監督の『せかいのおきく』。舞台となるのは幕末。井伊直弼(なおすけ)のもと、安政の大獄が起きた激動の時代。といっても主人公は武士でなく、江戸市中から出たウンコを買って、千葉の農家に売る下肥(しもごえ)買いの若者です。

こんな職業があったとは! 聞けば、大奥のウンコは貴重ということで市中の長屋のものより高く売られていたとか。ウンコにまで身分の差があるなんて面白すぎる。何を食べてようが、出てくるものは変わらないと思いますが、身分が高い人のウンコは栄養価が高いんですかね。想像しちゃうので、この辺でやめときましょう。

池松壮亮君と寛一郎君が下肥買いの若者役ですが、とにかくウンコを無駄にしない。仕事人の矜持というか、これでメシを喰っているという覚悟が清々(すがすが)しい。まさかウンコを題材にした映画でこんな気持ちになれるとは。さすが阪本監督。

大雨続きで下肥買いが来られないと、長屋の厠から屎尿(しにょう)が溢れ、住民は大騒ぎ。ふたりが来るのを待ち望んでいる。普段は彼らを見下し、近くを通ると嫌な顔をし、軽蔑しているくせに。ウンコを掬いまくる彼らの職人芸ったらもう、見事としかいいようがない。まるで救世主のように神々しいですよ。

ウンコを通してものの見方が広がる経験。なんて映画なんだ! こんなにウンコ、ウンコ、文字を書くこと、もう一生ないだろうなあ。滝藤家の子供たちも何をやっているのだろうかと寄ってきました(笑)。さすがウンコ。

『せかいのおきく』
2023/日本
監督:阪本順治
出演:黒木 華、寛一郎、池松壮亮ほか
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
2023年4月28日より全国公開
映画『半世界』『冬薔薇』の阪本順治監督によるオリジナルストーリー。安政五年、武士である父の失職のため、貧乏長屋で質素な暮らしを送る、おきく。そんなある日、紙屑拾いの中次と下肥買いの矢亮との出会いを経て、彼女の青春は煌めきだす。墨絵のようなモノクロ(一部カラー)の映像が美しい。

滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。ドラマ『グレースの履歴』(NHK BSプレミアム)、『帰ってきたぞよ! コタローは1人暮らし』(EX系)が放送中。2023年6月24日『やさしい猫』(NHK)の放送がスタートする。

過去連載記事

■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!

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COMPOSITION=金原由佳

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