俳優・滝藤賢一による本誌連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。約6年にわたり続いている人気コラムにて、これまで紹介した映画の数々を編集部がテーマごとにピックアップ。この年末年始に、あなたの人生と共鳴する一本をご提案! 今回は、手に汗握る映画編
『T2 トレインスポッティング』
20年経っても変わってねー! 最高にカッコいいぜ!!
アカデミー賞が発表されて1カ月、話題の受賞作が数々日本公開を控えるなか、滝藤もババーンとノミネート作品を紹介しようと思っていたんです。しかし、どうしてもこれを選ばざるを得なかった……。出てくるあいつらは相変わらずダメ男で、どうしようもない人生を送っている。でも、20年前に作られた『トレインスポッティング』には僕が”カッコいい”と感じるものすべてが詰まっている、いわばバイブル的存在。だから今回はその続編『T2 トレインスポッティング』を語らずにはいられないのです!
前作が公開された1996年は、アートシネマの全盛期。今はなき、渋谷のシネマライズが光り輝いていた時代。そこで買った『トレスポ』のド派手な銀色のパンフレットは今でも大事にとってあります。劇中での彼らのファッションは、とことん真似しました。ある日はスリムなジーンズにコンバース、チビTを着てレントン風。またある日には、髪を刈り上げて襟の大きなキラッキラの開襟シャツにクリスチャン・ディオールの赤い眼鏡をオーバーサイズでスパッド風。ある日は、アーガイルのセーターに口髭を蓄え、ビールジョッキ片手にベグビー風。彼は今作でも着ていましたよ、アーガイルのセーター(笑)。名古屋から上京したばかりの頃、東京にどっぷり溺れていた僕に、この映画がファッションと音楽のカッコよさを教えてくれた。お金もないのに映画館で2回観たのは、後にも先にもこの作品だけ――。
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『ルーム』
息が苦しくなる、二度とは観たくない!? 大傑作
さて、映画でこんなに興奮したのは、いつ以来でしょうか。衝撃的すぎて、呼吸するのを忘れてしまうほど。映画から溢れでる力が凄まじい! 前情報なしに観ていただきたいのが本音ですが、そうもいかないので、少し触れさせていただきます。
始まってしばらくの間、母と幼い子の日常が映される。何処か異様な空気。狭い部屋の中でご飯を作り、ふたりで小さなベッドで眠り、その部屋で運動もする。腰まである長い髪の毛の子供は、女の子か男の子かすらわからない。けれど、徐々にわかってくる。あれ? この親子、外に出ることができない? え? 監禁されている? 状況を理解した瞬間、背筋を冷汗が流れる感覚に陥りました。
脱出するまで、先の読めない怒濤の展開。さまざまな試練が恐ろしいスピードで襲ってきて、身体中に力が入り、全身筋肉痛間違いなし。この手の映画は「脱出できるか、どうか」が山場だと思っていました。でも、もっと衝撃的なのは、この後の展開なんです。人間の本質をえぐられ、”やめてくれ!”と叫びたくなる。数々の現実を突きつけられ崩壊していく母親の姿は、もう見るに堪えない――。
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『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』
いろいろなところに遊びがちりばめられていて、何度も観たくなる!
あれ? この映画、なんか観たことある……。天下のスティーヴン・スピルバーグの新作にこんな不遜な感想を持ったのは2008年に公開された原田眞人監督の『クライマーズ・ハイ』と内容がすごく似ていたからです(ハイ、私も出演させていただいております)。
両作とも小さな新聞社が舞台。ある事件が起き、全国紙を出し抜くスクープをものにできるチャンスが巡ってくる。載せるか載せないかの攻防戦の物語。『クライマーズ・ハイ』では情報の裏を確実に取ることができず、全権デスクの悠木和雄に判断が委ねられた。一方でこっちの作品では情報源は確か。しかし、国防に関わる内容で、載せれば当時のニクソン大統領から起訴される可能性がある。
って今、私、冷静に説明しておりますが、最初の1時間は何が起こっているのかチンプンカンプンでした。人間関係も複雑でついていくのが大変……。でもところどころでちりばめられた笑いの要素、そして最後の怒濤の攻防でそんなことはもう、どうでもよくなります(笑)。
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『レヴェナント:蘇えりし者』
内臓にドスンと響く、重量級の衝撃作
この映画、レオナルド・ディカプリオの存在が、演技の領域を遥かに超えていることに尽きます。脳内に大量のアドレナリンが放出され、人間が本来持ちうる以上の潜在能力を解き放つ瞬間をまざまざと見せつけられる。本来、眠っている本能を刺激され続ける怒濤の2時間37分。”うおっ!マジかっ!”と仰(の)け反(ぞ)ること数え切れず。
ディカプリオが演じるのは実在の罠猟師、ヒュー・グラス。先住民の襲撃をうけ、クマに襲われ、瀕死の状態のなか、仲間に裏切られ目の前で息子を殺される。何でだろう……悲惨なことしか起きやしない。酷寒の森林に身ひとつで置き去りにされてからは、もう圧巻の独り芝居。川魚や獣の生肉に食らいつく場面では、実際に食べて感染症にかかってしまったというから凄まじい。いや、役者馬鹿なのか……。僕だって役者ですから、やれと言われたら……やらないなぁ。丁重にお断りさせていただきます(笑)。
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『由宇子の天秤』
たった一度の過ちが、本人だけでなく家族の生活をも崩壊させる恐怖
先日、滝藤が公私ともにお世話になっている光石 研(みついし・けん)さんに電話しました。そこで最近の仕事の話になり、光石さんが出演されている春本雄二郎監督『由宇子の天秤』について少しお話しいただきました。「スタッフが常時10人もいない撮影部隊だったんだけど、できあがった作品を観たら、素晴らしかった。スタッフさんが多くても少なくても情熱があれば関係ないんだよ」と激褒めされていたのが印象的でした。
100人強のスタッフがデフォルトのメジャーの体制に対し、桁の違う10人ほどの精鋭部隊。でも情熱と志で最終的に今年のベルリン国際映画祭への出品がかなっているのですからあっぱれ! という他ない。それにしてもメジャーからインディーズまで幅広く活躍し、愛される俳優、光石研。滝藤、憧れの存在です――。
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Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。初のスタイルブック『『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』』(主婦と生活社刊)が発売中。滝藤さんが植物愛を語る『趣味の園芸』(NHK Eテレ)も放送中。