連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『レヴェナント:蘇えりし者』を取り上げる。
内臓にドスンと響く、重量級の衝撃作
前回、僕は『ルーム』の紹介をこう締め括りました。「今後、これほどの衝撃を受ける作品に出会えるだろうか?」と。その舌の根も乾かぬうちに、また衝撃作に巡り合ってしまった。それが『レヴェナント:蘇えりし者』です。
この映画、レオナルド・ディカプリオの存在が、演技の領域を遥かに超えていることに尽きます。脳内に大量のアドレナリンが放出され、人間が本来持ちうる以上の潜在能力を解き放つ瞬間をまざまざと見せつけられる。本来、眠っている本能を刺激され続ける怒濤の2時間37分。"うおっ!マジかっ!"と仰(の)け反(ぞ)ること数え切れず。
ディカプリオが演じるのは実在の罠猟師、ヒュー・グラス。先住民の襲撃をうけ、クマに襲われ、瀕死の状態のなか、仲間に裏切られ目の前で息子を殺される。何でだろう......悲惨なことしか起きやしない。酷寒の森林に身ひとつで置き去りにされてからは、もう圧巻の独り芝居。川魚や獣の生肉に食らいつく場面では、実際に食べて感染症にかかってしまったというから凄まじい。いや、役者馬鹿なのか......。僕だって役者ですから、やれと言われたら......やらないなぁ。丁重にお断りさせていただきます(笑)。
生きることに執着するディカプリオの剥きだしの有り様は、観てはいけないものを観ている感覚で恐ろしいですが、逆に目が離せません。
ストーリーは単調なはずなのに、壮大なロケーションでまったく飽きさせない。どうやって撮影したのかと感心しきりのカメラワークは、自分が体験しているかのような錯覚に陥ってしまう。人工照明をいっさい使わず、太陽光と火だけで撮影したそう。何て、我慢強いんだ。
ヒューを見捨てる、ハンター役のトム・ハーディのクソ野郎っぷりもたまらないですが、多くを語らない先住民の存在が本当に素晴らしい! まさにオスカーにふさわしい、ディカプリオの底力とイニャリトゥ監督の挑戦が内臓にドスンと響く、衝撃作といえます。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
俳優。1976年愛知県生まれ。火曜ドラマ『重版出来!』(TBS)が放送中。4月29日より『テラフォーマーズ』、5月7日より『64-ロクヨン-前編』と公開作がたて続く。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!
*本記事の内容は2016年4月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。