たった一度の過ちが、本人だけでなく家族の生活をも崩壊させる恐怖
先日、滝藤が公私ともにお世話になっている光石 研(みついし・けん)さんに電話しました。そこで最近の仕事の話になり、光石さんが出演されている春本雄二郎監督『由宇子の天秤』について少しお話しいただきました。「スタッフが常時10人もいない撮影部隊だったんだけど、できあがった作品を観たら、素晴らしかった。スタッフさんが多くても少なくても情熱があれば関係ないんだよ」と激褒めされていたのが印象的でした。
100人強のスタッフがデフォルトのメジャーの体制に対し、桁の違う10人ほどの精鋭部隊。でも情熱と志で最終的に今年のベルリン国際映画祭への出品がかなっているのですからあっぱれ! という他ない。それにしてもメジャーからインディーズまで幅広く活躍し、愛される俳優、光石研。滝藤、憧れの存在です。
今回は多くのネタバレ禁止令が出ているので、紹介が難しい……。皆様にこの映画の素晴らしさをどう伝えればよいのか頭を抱えておりましたが、光石研推しでいかせていただきます!
光石さんの役柄が、中年男性には心に響く弱さがあり、観ていていたたまれなくなります。妻と死別後、幼い娘を男手ひとつで育て上げた塾講師。けれど老年に差しかかった寂しさからか、ある過ちを犯してしまう。そこからの娘とのギクシャク感。娘を持つ滝藤としては、こんな関係ではとてもじゃないけど生きていけない……。
親として、教師として培ってきた信頼や実績を、たった一度の過ちですべて失う。今作は、過ちとどう向き合うか、自らの姿勢が問われる内容でもあるのではなかろうか。いや、そりゃもちろん、過ちを犯さないに越したことはありません。でも、一線を越えてしまった時、どういう行動を取るべきか? ここが今後の人生の分かれ道になるような気がしてならない。そんなことを考えながら観ていたら、あっという間の2時間半でした。
また、編集で事実の切り張りをするメディア側の描写にも驚愕。春本監督、かなり取材を重ねたそうです。表に出てくる情報を鵜呑みにしない冷静さが欲しいと思う今日この頃です。
『由宇子の天秤』
2020/日本
監督:春本雄二郎
出演:瀧内公美、河合優実、光石 研ほか
配給:ビターズ・エンド
9月17日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
3年前、とある高校で起きた女子高生の入水事件。学校側の対応に過ちがあったのではと難しい取材を重ねる報道ドキュメンタリーのディレクター、由宇子。彼女はある時、父の教師としての過ちを知る。彼女のジャッジの行方は? 2021年・第71回ベルリン国際映画祭パノラマ部門出品作。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在開催中の特別展「植物 地球を支える仲間たち」の音声ガイドメインナビゲーターを務めている。また、映画『孤狼の血 LEVEL2』も絶賛公開中。