PERSON

2024.02.11

コンセプトで口説く! 「ぷよぷよ」を作った男が、敗戦処理的プロジェクトで結果を出した逸話

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。ぷよぷよ誕生秘話に学ぶ、企画立案術。

前回までの話はコチラ

「既知の面白さ」の危険性と「未知の面白さ」の可能性

敗戦処理的に任されたプロジェクトを、まったく新しいプロジェクトとしてリスタートさせるとプログラマーに宣言した。

ちょこちょこっとやって、うんざりしていたプロジェクトを手放すつもりだったプログラマーにとっては、やることは大幅に増えたはずだ。

「ソリッドをソフトにする」というコンセプトを説明し、サイコロが降ってくる落ちゲーだったのを「ぷよぷよ」というモンスターが降ってくる落ちゲーに一新することを話した。

始まってしまう次の別プロジェクトをメインにやってもらって、就業時間後の「放課後」に制作してくれるようお願いした。

考えてみれば、むちゃな話だ。2倍仕事をしてくれと頼んでいるようなものなのだから。

だが、プログラマーは「いいですよ」とノッてくれた。

コンセプトは伝わらない

「ソリッドをソフトにする」というコンセプトをどう実現するか、しっかり伝わったかどうかはわからない。というより、伝わってなかったと思う。

いや、それどころか、ぼく自身、そのコンセプトをどう展開していけばいいか、まだ見えてなかったのだから、ちゃんとした説明ができたわけがない。

では、プログラマーは、なぜOKしてくれたのだろうか。

ぼくが話すゲームの内容よりも、ぼくの興奮や、熱心に話す様子に、プログラマーは賭けてくれたのだと思う。

いままでのプロジェクトの尻拭いではなくて、まったく新しい楽しいプロジェクトの始まりだと思ってもらえた点も良かったのかもしれない。

嫌なことを渋々やるより、新しいことをしたほうが人は楽しい。

確信と予兆

しかも、企画監督をする人間が、「このゲームは、めっちゃ面白くなるのよ」と自信満々に言うのだ。

ゲーム制作に真剣に関わる人間は、面白いゲームを作ることが大好きだ。

だから、「このゲームは、めっちゃ面白くなる」と断言することが必要だ。

もちろん、面白くならないと思ってるのに「面白くなる」なんて言っても、嘘はバレる。

そう断言できるだけの予感を自分の中に持っていなければ、真剣に断言はできない。

ぼくは、会社を休んで考えに考えたコンセプトに自信があった。

百パーセント面白いゲームができるという確信はない(ゲーム制作はいろいろなトラブルが多発する!)が、このコンセプトが実現すれば面白くなるという確信はあった。

面白くなると断言できるぐらいには予兆を感じていた。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

コンセプトが「わかった」ときに、すべてが見通せるのは危険

落ちゲーの「ソリッド(硬い)」を「ソフト(やわらかい)」に変えるというコンセプトは、自分の中で軸となっていた。

コンセプトというのは、「1つ変えることでぜんぜん見え方が変わる軸」だと思う。

このフレッシュな軸があれば、その軸に従うだけですべてが新しく見える。そういうものがコンセプトだ。

ただ、今ではコンセプトが「わかった」ときに、すべてが見通せるのは危険だと思っている。

なぜなら、すべてが見通せるケースは、そのコンセプトが「既知の面白さ」のケースが多いからだ。

「既知の面白さ」を追求すると、ライバルは多いし、規模が大きい側が勝ってしまう。よほどのアドバンテージがないと危険だ。

「未知の面白さ」を示すコンセプトは、「それは見たことも聞いたこともないけど、ほんとうに面白くなるの?」と思われてしまう。

すでに「ぷよぷよ」を知っている人からすれば、「やわらかい落ちゲー」は未知でもなんでもないが、ぼくたちが作っているときは、「やわらない落ちゲー」なんて存在しなかった。

いや、それどころか「落ちゲーというのはソリッドなイメージで構築されているからこそ面白い」と分析されていたのだ。

だから、テトリス以降も、硬い宝石が降ってきて直線にならべる「コラムス」や、硬いパネルが降ってきて直線にならべる「クラックス」など、「硬い落ちゲー」しかでてきていない。

そこに「やわらかい落ちゲー」である。「それ、面白くなるの?」と疑われてもしょうがない。

内側で燃えているものを

しかも、この時点で、ぼくは「ぷよぷよ」の細部が設計できているわけではない。

どうすれば「柔らかい」落ちゲーができるか、わからないことだらけだ。

ソリッド(硬い)な魅力をソフト(やわらか)に変える。

そうすることで新しい落ちゲーができるにちがいない、という思い込みがあるだけだ。

だから、この時のコンセプトは、人を説得させる道具ではなく、自分を説得させるものだった。

これは、詳細な地図も、勝算も見えていないが、「新大陸を発見するぞ!」とか「世界一周するぞ!」といった壮大な目標だけ何故か確信できたというような状況だろう。

だが、その確信があれば、迷ったときに何に従えばいいかは分かる。

コンセプトによって、自分の内側にワクワクする何かを燃やすことができれば、嘘ではなく真剣に「面白くなる」と言い切れる。そして、内側で燃えているものをまっすぐ人に伝えることができるのだと思う。

なんて書いてみたものの、当時のプログラマーに聞いてみると「いやぁ、熱が伝わったっていうよりも、米光さんが熱弁するからしょうがないなーって思ってやっただけですよ」と言われそうな気もする。

続く。

TEXT=米光一成

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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