人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。ぷよぷよ誕生秘話に学ぶ、企画立案術。
状況は最悪だった
状況は最悪だった。
引き継いだプロジェクトは、行き詰まっていた。
「テトリス」のように面白い落ち物パズルゲームを作らねばならぬ。だが、いまできているものは、ぜんぜん面白くない。
プログラマーも、デザイナーも、次の仕事に取り掛かっている。
そもそも、どちらも「もうやりたくない」とモチベーションが下がりまくっている。
「ボツになるのはいやだから、ちょっと面白くして出しましょう。少し改善するぐらいなら、時間を作りますよ」とプログラマーは優しさで言ってくれる。
だが、「少し改善してちょっと面白くする方法」が見つからない。引き継いだとて、どうしようもない。
という状態で、「テトリス」を分析し、その背骨が「ソリッド(硬質)」だと気付き、それを反転させた。
そして、「ソフト(やわらか)」がコンセプトの落ち物パズルゲームというアイデアが生まれたのだ。
にぎやかな落ち物パズルゲーム
ソフトなんだから、落ちてくる物も、ブロックや宝石やパネルではなくて、何かやわらかいものがいい。
そこで、「ぷよぷよ」だ。以前作ったRPG「魔導物語」の雑魚キャラ、もっともやわらかそうなキャラクターが降ってくることにしよう。
いや、それならば、「魔導物語」の主人公や、メインキャラクター、それ以外のモンスターも登場させて、にぎやかなゲームにしよう。
そもそも、RPG「魔導物語」のウリは、「音声合成でしゃべるゲーム」だった。
「魔導物語」がリリースされた1989年頃、まだゲームは「しゃべらなかった」。
いまは、声優さんの声がしゃべってくれる。「フルボイス」なんていって、すべてのメッセージが声になっていたりする。
だけど、当時は、ハードの制約上、ゲーム中に生声を流すことはできなかった。
「スパルタンX」の笑い声
ファミコンの「テニス」(1984年)は、マリオが審判をやっている。
審判から吹き出しが出てジャッジとともに、効果音が流れる。「OUT」のときは「パポポ!」という感じの効果音、「IN」なら「ピン!」「FAULT」なら「ポピピプ!」と、そんな感じ。
それは、あたかも、マリオが喋っているようにぼくたちには聞こえた。ただの効果音なので、完全な「空耳」だけど!
その後、音声合成の技術で、タイトル画面や、幕間にしゃべるゲームが出てきた。
音声合成を効果的に使って衝撃だったのは、「スパルタンX」(ファミコン:1985年)だ。
ジャッキー・チェン主演の映画『スパルタンX』をゲーム化。格闘家を操作し、敵を倒しながら右へ右へとスクロールしていくアクションゲームだ。
ボス戦でやられた時やステージ合間に「ワッハッハッハッハッハハ」とボスが高らかに笑うのだ。
しゃべる! ちょっとくぐもった感じの笑い声が響いたときの衝撃。
しゃべるRPG「魔導物語」
音声合成の技術を使って盛大にしゃべるゲームはできないだろうか、というのがアイデアの背骨だったのがRPG「魔導物語」(1989年)だ。
モンスターは、出現するたびに決めセリフを言い、やられたときにも「ばたんきゅー」的なセリフをしゃべる。
「ぷよぷよ」が登場するときのセリフは「ぷよぷよ~」だ(そのまま!)。
すべてのモンスターをしゃべらせよう。とにかく始終、しゃべっているゲームにしよう。
「魔導物語」のセールスポイントは、「しゃべるゲーム」だった。
ならば、落ち物パズルゲーム「ぷよぷよ」も、にぎやかにいろいろなキャラクターが出て、わいわいしゃべるゲームにしよう。
イメージのベクトルが見えてくる。
数学パズル的なクールさで硬質なイメージだった落ち物パズルゲームを、まったく違うイメージにする。にぎやかで騒がしく、愉快で、やわらかい落ち物パズルゲーム!
次の勝負
イメージが見えてきて、自分の中では「面白くなる」という希望が見えてきた。
だが、それは、プログラマーが言ってくれた「少し改善するぐらいなら、時間を作りますよ」の範疇をあきらかに超えていた。
次の仕事に取り掛かっているプログラマーやデザイナーがOKしてくれるだろうか。
「とにかく決戦は、明日みんなに会ったときだ」
そう考えながら、月曜日、ぼくは会社に向かう。
※続く