PERSON

2023.11.12

「テニス」のマリオ、「スパルタンX」の笑い声…しゃべるゲーム、という発想【ぷよぷよ物語。その10】

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。ぷよぷよ誕生秘話に学ぶ、企画立案術。

状況は最悪だった

前回までの話はコチラ

状況は最悪だった。
引き継いだプロジェクトは、行き詰まっていた。

「テトリス」のように面白い落ち物パズルゲームを作らねばならぬ。だが、いまできているものは、ぜんぜん面白くない。

プログラマーも、デザイナーも、次の仕事に取り掛かっている。
そもそも、どちらも「もうやりたくない」とモチベーションが下がりまくっている。
「ボツになるのはいやだから、ちょっと面白くして出しましょう。少し改善するぐらいなら、時間を作りますよ」とプログラマーは優しさで言ってくれる。

だが、「少し改善してちょっと面白くする方法」が見つからない。引き継いだとて、どうしようもない。

という状態で、「テトリス」を分析し、その背骨が「ソリッド(硬質)」だと気付き、それを反転させた。

そして、「ソフト(やわらか)」がコンセプトの落ち物パズルゲームというアイデアが生まれたのだ。

にぎやかな落ち物パズルゲーム

ソフトなんだから、落ちてくる物も、ブロックや宝石やパネルではなくて、何かやわらかいものがいい。

そこで、「ぷよぷよ」だ。以前作ったRPG「魔導物語」の雑魚キャラ、もっともやわらかそうなキャラクターが降ってくることにしよう。

いや、それならば、「魔導物語」の主人公や、メインキャラクター、それ以外のモンスターも登場させて、にぎやかなゲームにしよう。

そもそも、RPG「魔導物語」のウリは、「音声合成でしゃべるゲーム」だった。
「魔導物語」がリリースされた1989年頃、まだゲームは「しゃべらなかった」。
いまは、声優さんの声がしゃべってくれる。「フルボイス」なんていって、すべてのメッセージが声になっていたりする。

だけど、当時は、ハードの制約上、ゲーム中に生声を流すことはできなかった。

「スパルタンX」の笑い声

ファミコンの「テニス」(1984年)は、マリオが審判をやっている。
審判から吹き出しが出てジャッジとともに、効果音が流れる。「OUT」のときは「パポポ!」という感じの効果音、「IN」なら「ピン!」「FAULT」なら「ポピピプ!」と、そんな感じ。
それは、あたかも、マリオが喋っているようにぼくたちには聞こえた。ただの効果音なので、完全な「空耳」だけど!

その後、音声合成の技術で、タイトル画面や、幕間にしゃべるゲームが出てきた。

音声合成を効果的に使って衝撃だったのは、「スパルタンX」(ファミコン:1985年)だ。
ジャッキー・チェン主演の映画『スパルタンX』をゲーム化。格闘家を操作し、敵を倒しながら右へ右へとスクロールしていくアクションゲームだ。

ボス戦でやられた時やステージ合間に「ワッハッハッハッハッハハ」とボスが高らかに笑うのだ。

しゃべる! ちょっとくぐもった感じの笑い声が響いたときの衝撃。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

しゃべるRPG「魔導物語」

音声合成の技術を使って盛大にしゃべるゲームはできないだろうか、というのがアイデアの背骨だったのがRPG「魔導物語」(1989年)だ。

モンスターは、出現するたびに決めセリフを言い、やられたときにも「ばたんきゅー」的なセリフをしゃべる。

「ぷよぷよ」が登場するときのセリフは「ぷよぷよ~」だ(そのまま!)。
すべてのモンスターをしゃべらせよう。とにかく始終、しゃべっているゲームにしよう。
「魔導物語」のセールスポイントは、「しゃべるゲーム」だった。

ならば、落ち物パズルゲーム「ぷよぷよ」も、にぎやかにいろいろなキャラクターが出て、わいわいしゃべるゲームにしよう。

イメージのベクトルが見えてくる。

数学パズル的なクールさで硬質なイメージだった落ち物パズルゲームを、まったく違うイメージにする。にぎやかで騒がしく、愉快で、やわらかい落ち物パズルゲーム!

次の勝負

イメージが見えてきて、自分の中では「面白くなる」という希望が見えてきた。
だが、それは、プログラマーが言ってくれた「少し改善するぐらいなら、時間を作りますよ」の範疇をあきらかに超えていた。
次の仕事に取り掛かっているプログラマーやデザイナーがOKしてくれるだろうか。

「とにかく決戦は、明日みんなに会ったときだ」

そう考えながら、月曜日、ぼくは会社に向かう。

※続く

TEXT=米光一成

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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