アイドルグループ「NEWS」のメンバーとして活躍する一方、作家としても注目される加藤シゲアキ。2023年10月25日に刊行された書き下ろし長編小説『なれのはて』は、作者不明の謎の絵と、秋田で起こった先の戦争最後の空襲と言われる土崎空襲を軸にした壮大なミステリ小説にして、“問題作“でもある。今なぜこの作品を書き、発表を決めたのか。そこに込めた作家・加藤シゲアキの矜持とは――。#インタビュー前編
非難されたとしても世に出したかった
加藤シゲアキの新刊『なれのはて』は、物語の核となる戦争や著作権以外にも、発達障害のある人物が登場したり、石油による焼死やジャーナリズムの政界への忖度を描いていたりと、センシティブな問題を扱っている。
偶然にも、小説に描いたこととオーバーラップするような事件が実際に起こったこともあり、描き方次第では、「事件をネタにしている」「利用している」などとバッシングされる危険性もはらんでいた。
「誰かを傷つけたくて書いているわけではない」という加藤にとって、何を書き、何を書かないかの線引きはハードな作業だった。
とくにメディア論に関する記述は、難しい選択だったに違いない。なぜなら、入稿後、ジャニーズ事務所とマスメディアの関係が、大きな問題として世間の関心を集めたからだ。
「それを棚に上げて、自分がメディア論のようなものを綴ってよいのか悩みました。ある意味問題作だと、自分でも思います。戦争にしてもメディア論にしても、難しいテーマですし。
でも、批判は覚悟のうえで、この作品を出したい、出させてくれと思ったんですよね。それは作家としての矜持です。
逃げ道などつくらず、このテーマを書こうとした自分を信じようと。なので、細かい描写の見直しはしましたが、大きなテーマに関してはブレずに書き切ったつもりです」
自己批判するつもりで何度も読み直した
さまざまなリスクを背負ってこの作品を出すことは、加藤にとって挑戦でもあった。そして、「物語の持つ力を信じ、それに挑戦すると決めたからには真摯に向き合うしかない」とも。
「参考資料はダンボール2箱以上ありましたが、小説に都合の良い解釈をしないよう、冷静に事実を読み取るように心を砕きました。そこに書かれていることが本当に正しいかを検証するために、別の角度から書かれた資料を取り寄せて読んだりもしましたね。
入稿後、何度も校正して、1万ヵ所以上を書き直しましたが、その時も、丁寧に、客観的にというのを何よりも心掛けました。『なれのはて』は、ものすごく熱を込めて書いた分、視野が狭くなっている気もしたので」
もっとも、この作品に限らず、校正の時は毎回、「『クソつまんねぇ小説だ』『加藤シゲアキなんて大嫌いだ』と、自己批判するつもりで何度も読み直す」という。
書くという行為、そして、自分の作品に、全身全霊をかけ、ストイックに向き合う。それが、加藤シゲアキという作家なのだ。
「『なれのはて』は、これまで自分が経験してきたこと、思い、考えてきたことが詰まった作品になりました。意図してというより、不思議な力に導かれてそうなったというか。逆に言えば、これまでの自分と真摯に向き合った結果だという気もしています」
小説とは、答えではなくて問い。加藤は、そんな言葉も口にした。
「今の僕は、主人公たちが出した結論は正しいと思っていますが、もしかしたら、これは間違っていたと思う日が来るかもしれない。それは、僕が一生かけて考えていくべき問題だと思っています」
「人気アイドルが書いた」という枕詞がついて回った時期もあった。けれど、そんな“下駄”など軽やかに放り投げ、作家としての矜持を胸に、一歩一歩地面を踏みしめながら前に進む。進化を続ける作家、加藤シゲアキからこれからも目が離せない。
加藤シゲアキ/Shigeaki Kato
1987年広島県生まれ。5歳で大阪に移り、10歳からは神奈川県で育つ。2003年、NEWSのメンバーとしてCDデビューし、音楽活動のほかドラマや映画、バラエティなど幅広く活躍。2012年、『ピンクとグレー』で作家デビューを果たし、『閃光スクランブル』『Burn.-バーン-』『傘をもたない蟻たちは』『チュベローズで待ってるAGE22・AGE32』などを発表。2021年、『オルタネート』で第42回吉川英治文学新人賞、第8回高校生直木賞を受賞。
衣装クレジット:シャツ¥4,950、パンツ¥5,940(ともにキャスパージョン/シアンPR TEL:03-6662-5525)その他スタイリスト私物