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2023.09.27

「ぷよぷよ」は「テトリス」の何を受け継ぎ、何を捨てたのか?【ぷよぷよ大作戦その8】

人気を博しているアナログゲーム、「はぁって言うゲーム」を生み出したのは、伝説の落ちゲー「ぷよぷよ」を生み出したクリエーター、米光一成さんだ。天才的発想をし続ける、米光さんの頭の中を知るコラム。ぷよぷよ誕生秘話に学ぶ、企画立案術。

テトリスの二番煎じはイヤだ

前回までの話はコチラ

土曜日の夕方。タイムリミットが迫っていた。

月曜日には出社して、落ちものパズルゲーム「ど~みのす」をどう改善するかを発表しなければならない。

順当に考えれば、おもしろさをどうにか少しでもアップするような具体案を出すべきだ。

だが、どうにも気が乗らなかった。

テトリスの二番煎じを作ってもしょうがない。という気持ちのままで、何かを作る気にはなれなかった。

さっきまで集中して出したたくさんの企画案を見返す。面クリア型にしてみたり、つながったサイコロが落下してきたり、ボムを出してみたり。つまらん。テトリスの二番煎じの内側であれこれ考えているだけだ。

白い画用紙を出した。もう逃避している時間はない。

米光一成/Kazunari Yonemitsu
1964年広島県生まれ。大学卒業後、コンパイルに入社。現在でも人気の“落ちゲー”「ぷよぷよ」などのタイトルをリリース。その後、フリーランスとして、ゲーム制作ほか、デジタルハリウッド大学教授や、池袋コミュニティカレッジ講師なども。「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)のほか、「あいうえバトル」「負けるな一茶」「いっしゅんジェスチャーはぁ?」「言いまちがい人狼」などをリリース。

テトリスの本質を探る

「テトリス」の枠から出ていく。そのために新しい要素をあれこれ考えていた。
だが、いちど戻ろう。

画用紙の真ん中に少し大きく「テトリス」と書いてみた。「テトリス」とは何かを、もう一度考えてみよう。

大好きなゲームだ。ハマりにハマった。衝撃を受けた。
その「テトリス」の要素を書き出していった。分解した。関連するキーワードを思いつくままに、とにかく書き出す。

ブロック、ロシア、落下、スピード、回転、テトリミノ、棒、T字、L字、セガ、ゲームセンター、一直線、消える、積み重なる、固定、すべり、高速落下、さる、シンプル、コモドオオトカゲ……。

書く順番も、位置も気にしない。線で結んだりしない。重複も気にしない。とにかくキーワードを思いつくままに書き出していく。

当時書いた紙はもう持っていないので、あのときと同じように、いま書き出してみた。

米光氏のキーワードメモ。

書き出したキーワードを眺める。
ああ、なんだろう。テトリスは、これらのキーワード群からできていることは間違いない。でも、もしテトリスを知らずに、こららのキーワードを見せられたら、あの面白さがイメージできるだろうか。
できない。できない。できない。

全部を変えるべきだが全部は変えられない

このキーワードの一部をちょっと変えたぐらいでは、結局は二番煎じになってしまう。
昨日、あれこれ出した企画案は、その内側で考えたものばかりだった。
なんというか、全部を変えるべきだ。でも、全部を変えちゃうと、落ちものパズルゲームじゃなくなってしまう。

そもそも、すでに落ちものパズルゲーム「どーみのす」は完成していて、これをどうにかしろっていうのが自分に与えられたミッションなのだ。

プログラマも、グラフィッカーも、すでに次の仕事に進んでいる。時間も予算もない。まったく違うものにできるはずがない。

だから、「落ちものパズルゲーム」というジャンルを構成するモノゴトは、変えちゃいけない。とすると、変えられるのはスピリッツ(精神)だ。

テトリスの最重要ポイントは?

そもそも、テトリスは、国家的制約が厳しく、旧式なコンピュータしか使えなかった時代のロシアで作られた。

凝ったグラフィックスは表示できない。括弧や記号を使って図形を表示した。
だからこそ、ゲームシステムがむき出しになっていて、そこだけで勝負しているようなゲームになった。ならざるを得なかった。

派手なグラフィックスや、複雑な仕組み、巨大なマップや、ぐねぐね動く敵など、どんどん巨大に複雑になっていたゲームシーンにいたぼくたちは、シンプルでソリッドなゲームが突然現れて、衝撃を受けたのだ。
そうだ。

「テトリス」の一番重要なスピリッツは「ソリッド(硬質)」だ。
操作するのはソリッドなブロック。そのブロックが一直線にならぶと消える。幾何学的な理屈がむき出しになった画面。

器用にアニメーションするキャラクターを操作するのではなく、味もそっけもないブロックを操作するゲームだ。

そのソリッドさに衝撃を受け、大好きになったのだ。

ぷよぷよが脳裏に浮かび上がる

テトリスの一番重要なスピリッツ(精神)は「ソリッド」なんだ。
書き出したこの膨大なキーワードは、「ソリッド」という一語に集約される。
「ソリッド」というキーワードで、「テトリスの衝撃」が立ち上がる。
ソリッドだ!

だからこそ、「ソリッド」を捨てるべきだ。背筋に電気が走った(ように感じた)。
ソリッドを捨てる!

テトリスの一番重要な「ソリッド」を捨てることで、テトリスの二番煎じから脱出できる。「落ちものパズルゲーム」でありながら、テトリスとは違うゲームができる。

「ソリッド(硬質)」を、真反対の「ソフト(やわらか)」にしよう。
そうすることで、ここに書かれたキーワード群の意図が、オセロの後半戦のようにガラガラッと反転する。

そう決断したとき、ぼくの脳裏には、あるキャラクターが浮かび上がっていた。少し前に作ったRPGゲーム「魔導物語」の雑魚モンスターのなかで一番弱くもっとも「ソフト(やわらか)」なキャラクター、「ぷよぷよ」だ。

続く。

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ぷよぷよ大作戦

TEXT=米光一成

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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