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2023.02.23

WBC日本代表クローザー! 楽天・松井裕樹が全国に名を知らしめた高校時代の夏

2023年3月9日の一次ラウンド開幕まで1ヵ月を切ったWBC(ワールドベースボールクラシック)。過去最強と謳われる日本の投手陣のなかで、リリーフの要・ストッパーのポジションを担うのが、楽天・松井裕樹だ。今回は、高校時代から全国区の知名度を持った松井がスターとなる前夜に迫る。連載「スターたちの夜明け前」とは……

屈強なメンタリティによる粘り強いピッチング

2023年1月26日、WBCに出場する侍ジャパンのメンバー30人が発表された。平均年齢(2023年の満年齢)は27.3歳と過去4大会の中で最も若く、特に投手は高橋宏斗(中日)、佐々木朗希(ロッテ)、宮城大弥(楽天)など20代前半の選手も多く選ばれているが、そんな中でリリーフとして最も実績のある選手と言えば松井裕樹になるだろう。プロ入り2年目の2015年から抑えに定着。一時は先発に転向した時期もあったが、一昨年から再びリリーフに専念し、プロ9年間で通算197セーブをマークしている。現役選手では屈指のクローザーと言えるだろう。

そんな松井は横浜市青葉区の出身だが、小学校時代から地元の少年野球で活躍。6年生の時には年末に行われている12球団ジュニアトーナメントの横浜ベイスターズジュニアとしても出場した経歴を持つ。中学時代は青葉緑東リトルシニアでプレーし、3年夏には全国大会で優勝。当時から神奈川県内では名前の知られたサウスポーだった。

実際にそのピッチングを初めて見たのは桐光学園に進学した後の2年夏の神奈川大会決勝、対桐蔭学園戦だった。この試合で松井は2回に斉藤大将、山野辺翔(ともに現・西武)に連続タイムリーを浴びて2点を先制されたものの、その後は走者を背負いながらも粘り強いピッチングを披露。最終的には15個の三振を奪い、4失点完投でチームを甲子園出場に導いている。特に印象に残っているのが7回のピッチングだ。6回裏の攻撃で打席に入った松井は足にデッドボールを受けて一度治療を受けるためにベンチに下がっている。この時点のスコアは4対3で桐光学園がわずか1点をリードしている状況であり、この死球が松井に与えたダメージも大きいように見えたが、クリーンアップを相手に一歩も引くことなく三者凡退、2奪三振と圧巻の投球で相手打線の反撃を許さなかったのだ。当時のノートにも以下のような称賛の言葉が残っている。

「下半身に強さと粘りがあり、バランスを上手くとってリリースでボールを抑え込めるため高めに抜けることなく低めの勢いも素晴らしい。(中略)最大の長所はめいっぱい腕を振って投げられる変化球。カーブでストライクがとれ、縦のスライダーは来ると分かっていても思わずバットが出てしまう。低めのボール球を見極められると、高さを調整してストライクゾーンにも投げ込む。(中略)連戦の疲れもあってかバランスが崩れる場面も多いが、終盤でもボールの力は落ちない。足に死球を受けて一度退場しても、その後に崩れず抑え込める気持ちの強さは見事」

学生時代から抜きん出た松井のスター性

松井はこの後に出場した夏の甲子園では1回戦の今治西戦で大会新記録となる22奪三振をマーク。準々決勝で光星学院(現・八戸学院光星)に敗れたものの、4試合で68個の三振を奪う快投を見せ、一躍全国区の投手となった。

甲子園での快投も現地で見ていたが、それ以上に思い出深いのが3年春に出場した関東大会だ。前年夏の活躍もあって既にドラフトの目玉と見られていた松井を一目見ようと、会場となった宇都宮清原球場には多くの徹夜組が出るほどの事態となったのだ。高校野球熱の高い神奈川では夏の大会でスタンドが超満員になることも珍しくないが、春の関東大会でここまでフィーバーとなるのはそうそうあることではない。そんな高い注目の中でも松井は初戦の花咲徳栄戦で延長12回を1人で投げ抜き、3失点(自責点2)、18奪三振と期待通りのピッチングを見せている。2年の夏は主にスライダーとストレートで三振を奪っていたが、この日はチェンジアップも抜群のブレーキがあり、成長ぶりを示している。

結局3年の夏は神奈川大会の準々決勝で横浜高校の高浜祐仁(現・阪神)と浅間大基(現・日本ハム)にホームランを浴びて2対3で逆転負けを喫し、2年連続の甲子園出場は逃したが、この日も8回を投げて10個の三振を奪い、当時の自己最速となる149キロをマークするなど投球内容自体は素晴らしいものだった。2年夏の甲子園で1試合22奪三振を記録してから、常に高い注目を浴びながらも成長を続け、プロでも早くから結果を残し続けているというのは見事という他ない。

冒頭でも触れたように、今回のWBCの投手陣は経験豊富なリリーフ投手が少なく、そういう意味では松井にかかる期待は非常に大きくなる。世界の大舞台でもブルペン陣のリーダー的存在として、侍ジャパンを世界一に導くようなピッチングを見せてくれることを期待したい。

Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

連載「スターたちの夜明け前」とは……
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てる!

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TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=アフロ

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