かつて一大ブームを巻き起こしたものの人気が下火に。そのK-1が見事に復活し、ここ数年注目を集めている。立役者は、2014年にK-1実行委員長に就任した矢吹満。今回、これまでいっさいメディアに登場しなかった男が初めてベールを脱いだ。一緒に語り合うのは、新生K-1をネットテレビABEMAで配信する藤田晋。ふたりが描く未来の格闘技、未来のテレビとは──。後編はこちら
日本のエンターテイメントを牽引する二人のスペシャル対談
インターネットテレビABEMAを率いるサイバーエージェントの藤田晋社長と、新生K-1の仕かけ人・矢吹満氏の対談が、ゲーテ誌上で初めて実現した。ふたりのなれそめの話から対談はスタート。メディアには普段顔をまったく出さない矢吹氏だが、そこには深謀遠慮が隠されていた──。
藤田 初めてお会いしたのは5年前。ABEMAで『亀田興毅に勝ったら1000万円』をやった時でした。矢吹さんのジムをお借りしたので、確か通りすがりにお会いしたんです。
今は新しいメディアのいわば創世記
矢吹 ゲストの武尊選手が第1戦目の試合開始のゴングを鳴らした瞬間、サーバーがダウンした(笑)。よく憶えてますよ。
藤田 ものすごいアクセス数で、でも笑いごとじゃない。現場は大騒ぎになって……。僕は消えたくなった(笑)。
矢吹 それだけ話題になったってことですよ。
藤田 予想を遥かに上回っていました。その時、通りすがりの立ち話で矢吹さんが僕に話してくれたことが、当時始まったばかりのABEMAのコンテンツを僕らが考えていくうえで、大きな刺激になったんです。
矢吹 ほほう。
藤田 今は新しいメディアのいわば創世記だと。戦後日本で力道山が大人気となり、プロレスがテレビの普及のきっかけになったように、格闘技というコンテンツがインターネットテレビという、この新しいメディアの起爆剤になる。最初は必ず混乱があるものだよって。矢吹さんはそう仰っていましたね。
矢吹 はい。
藤田 『亀田興毅に勝ったら1000万円』は、当時、圧倒的な最高視聴数を記録。そしてABEMAは今にいたります。
矢吹 ネットテレビもすっかり定着しました。
藤田 また、それをきっかけに我々は格闘技に惹かれると同時に、プロレス団体をサイバーエージェントの傘下に……DDTとノアとの契約を結んだという経緯があるんです。あの言葉がすごく刺さったというか。僕自身も子供の頃、福井で夢中になってプロレスを見て熱狂していたんで、大変な説得力がありましたね。
矢吹 それでサイバーファイトができたわけですか。
藤田 そうなんです。ほんとに階段の途中ですれ違って、チラッと話しただけなんですけど、あの言葉には、これからABEMAをやっていく勇気をもらった気がしました。それに矢吹さんはインパクトもありましたし、あの初対面は強烈に憶えています。
矢吹 私がですか?
藤田 格闘技界では超有名な方なんで、もちろん存じ上げてはいたんですけど。あ、矢吹さんだって(笑)。
矢吹 私は謎の男というか、ちょっと怖いイメージがありますからね。
藤田 否定はしません(笑)。
矢吹 私にはあまり近づきたくないっていうオーラを出してましたよね(笑)。それはさておき、(サイバーエージェントの本社がある)この渋谷にもキャバクラとかがあるじゃないですか。パチンコ屋さんも。そういうところで暴れたら、怖い人が出てきそうな気がする。でも、そんな人は実際には出てこない。だけどそういう幻想は誰にでもあるわけです。
藤田 なるほど。
矢吹 その幻想が大切なんです。大人の社会には、そういう幻想があったほうが実はいい場所がある。若者たちが背伸びして覗いてみたくなるような、幻想がある種のスパイスになる場所ですね。格闘技の世界もそういった場所なんじゃないかと思うんです。私はあくまでもその幻想を裏切らないようにしているだけなんです。
藤田 だとすると、これは営業妨害になるかもしれないんですが、知り合ってみたら、実は中身はちっとも怖い人じゃない(笑)。メディアにもいっさい出ず、そういうふうに、自分のことを演出してきたわけですね。
矢吹 そうなんです(笑)。基本的に僕は表に出ないようにしています。
藤田 今日の対談は極めて例外的だと(笑)。これは私が学んだことで、ABEMAを始めたばかりの最初の頃はよくわかってなかったことなんですけど、核心の人に会って話さない限りは、あらゆることはうまくいかないというのはすごく感じましたね。やっぱりすべては人と人なんで。
矢吹 虎穴に入らずんば虎子を得ずですか(笑)。
藤田 はい(笑)。とはいえ、矢吹さんがいろいろなことを考えに考えて実行しているんだということは、見ていてすぐにわかりました。
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MITSURU YABUKI(右)
1969年大阪府生まれ。外食業、投資業、不動産業を営みながら、2012年に日本最大規模のファッションの祭典、東京ガールズコレクションの実行委員長に。また’14年にはK-1実行委員長にも就任。1990年代後期に全盛期を迎え、その後衰退していたK-1を見事に復活させた。
SUSUMU FUJITA(左)
1973年福井県生まれ。青山学院大学を卒業後、インテリジェンスを経て’98年にサイバーエージェントを設立。2000年には当時史上最年少での上場を果たした。’16年にインターネットテレビABEMAを開始。’21年にはサイバーエージェントの時価総額が1兆円を突破した。