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2022.05.03

【武尊】「天心選手に勝たない限り、格闘家人生は終われない」

ナチュラル・ボーン・クラッシャーことK-1のカリスマ武尊。キックボクシング史上最高の天才と呼ばれる那須川天心。ふたりの格闘家が、どちらが最強かを証明すべく6月19日、東京ドームで戦う。今やファンの間だけではなく、国民的関心事にまでなっている対戦に向け、それぞれが覚悟と相手への想いを語った──。那須川天心の独占インタビューはこちら

武尊

武尊:ジャケット、パンツ、ベルト、シューズすべて参考商品、シャツ¥209,000、(すべてディオール/クリスチャン ディオール TEL:0120-02-1947)、時計¥3,674,000(ウブロ/LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ TEL:03-5635-7055)

武尊への取材開始時は夜7時を過ぎていたので、インタビュー中に食事をしてもらうことになった。午後8時までに夕食を摂ると決めているのだそうだ。那須川天心との対戦は3ヵ月ほど先だったが、武尊は既に追いこみ期間に入っていた。

「今は試合に向けた練習を毎日ひたすらやってます。5時間から6時間。多い日は7時間」

ウエイトトレーニングもするのかと問うと、武尊はスープをひと口啜り、首を横に振った。

「筋トレはしません。打撃の筋肉以外は必要ないので。打撃に必要な筋肉は、打撃でつけるのが一番なんです。だから筋トレするよりサンドバッグを叩いたり、ミット打ちをします。他にはフィジカルトレーニング、心肺機能を上げるために、走りこみとかはやってますけど」

減量は始めたのかと聞いて、愚問だったことに気づいた。武尊の目の前にあるのは、カップ1杯のスープとごく少量のサラダらしきものだけだった。

「食事は1日1食。基本的にこれだけです。あとは練習前に栗や干し芋を少し。必要最低限のカロリーで練習して、練習後にリカバリーのためのタンパク質を摂る。この4、5年は60㎏以下で戦ってないんです。脂肪を落として、水分抜いて60㎏の身体になってる。そこから2㎏落とすのは大変なんです。筋肉を落とすしかないから」

2㎏落とさなければならないのは、那須川との試合の契約体重が58㎏(前日計量)だからだ。7年前、ふたりは同じ55㎏で戦っていた。そこから武尊は徐々にウエイトを上げ、スーパー・バンタム級からスーパー・フェザー級までの3階級で世界制覇を成し遂げる。現在の適正体重は60㎏だ。

シャツ¥25,300(マインデニム/マインド TEL:03-6721-0757)、ショーツ¥36,300(Y-3/アディダス ファッション グループ ショールーム TEL:03-5547-6501)

体重制のスポーツに減量はつきものだ。格闘家なら試合前に10㎏程度の減量はする。けれど絞り切った身体から2㎏落とすとなれば話は別だ。減量に慣れた格闘家でも怖気づく。地獄の苦しみと表現する人もいる。

「筋肉を落とすしかないんだけど、運動してると筋肉は落ちないんです。食事量を極端に減らして、内臓に何もない状態で運動するしかない。そうすると身体は筋肉を分解してエネルギーに変えるようになる。それでようやく筋肉が落ちる。その状態をつくらせるために、今は極端に食事の量を減らしています」

その「今」はどれくらい続くのだろうか。

「もう3ヵ月くらいやってるんだけど、試合まであと3ヵ月続けます。減量に失敗すると下手したら脱水状態で試合することになる。天心選手はそれで倒せるような相手じゃない。完璧な状態で試合をしたいんで、今回は減量に十分な時間をかけます」

幼児の1食分にも満たないほどの、今日1日分の「食事」を武尊は既に食べ終えていた。彼が毎日激しい練習をしながら半年間も耐え抜こうとしている空腹の大きさを想像したら目眩がした。苦しいはずの減量を、武尊は淡々と話す。穏やかな表情からは、微塵の空腹感も読み取れない。辛くはないのか。どうしてそんな減量に耐えられるのか。愚かな問いをまたしても口にすると、武尊は少し笑った。

「辛いっすよ(笑)。だけどこの試合をするには、これをやるしかない。僕の今までの7年間は、この1試合のためにあったようなものなんです」

憎んだこともあったが、今は感謝の気持ちしかない

試合中の武尊と、普段の武尊の印象が百八十度違うことはよくわかっていた。リング上の彼は恐ろしく攻撃的だ。彼の動きには後退がない。打たれても蹴られても前進して相手を圧倒し強烈なストレートを打つ、フックを叩きこむ。戦いが激しくなると、笑う。舌を出す。自分でも気づかぬうちに笑っているらしい。格闘技界ではアドレナリンの笑いと呼ばれている。戦う彼は、攻撃性の化身だ。

目の前にいる武尊は、まるで別人。穏やかな好青年だ。大人しくても怒ったら怖いと思わせる人がいるけれど、そういう感じさえない。温和で人好きのする若者だ。彼の本質は、この静かな彼だ。那須川との対戦にこだわる理由を語る彼の表情を見ていて、それがわかった。

「最初の頃は、僕に挑戦してくる選手のひとりという認識しかなかった。当時はK-1チャンピオンになって、世界中から挑戦を受けていたんです。天心選手は僕が羨ましかったと言ってたけど、僕自身はまだまだだと思ってた。子供の頃、K-1のアンディ・フグ選手を見て空手を始めたんです。ヘビー級のなかでは小さいんだけど、自分より身体の大きな選手を倒す姿が、ウルトラマンが怪獣を倒してるみたいに見えた。自分もK-1のチャンピオンになると決めて格闘技を続けて、18歳で上京したらK-1が活動を休止してしまった。2015年はそのK-1が復活した翌年でした。格闘技界ではK-1がまた盛り上がってきて、強い選手が出てきてみたいな感じで僕の名前が取り沙汰されるようになってたけど、そこまで持ってくるのが大変だったし、他のスポーツとかに比べたら、K-1はまだこれからという感じだった」

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復活間もない新生K-1に集中していて、他は目に入らなかったということなのだろう。那須川を意識するようになったのは、いつからだったのか。

「バッシングを受けるようになるんです。なぜ天心選手と戦わない、逃げてるって。どんなにいい試合して、どんなに勝ち続けても、それしか言われなくなった。3階級制覇しても、天心選手から逃げてる、K-1は弱いと言われ続けた。正直、彼の存在を憎んだこともある。天心選手が悪いわけじゃないのはわかるんです。バッシングを受け続けたのも、要するに僕と彼が勝ち続けたからです。どちらかが一回でも負けたら、対戦の意味はなくなるわけだから」

武尊は試合のたびに、この対戦に負けたら引退すると宣言してきた。ここまで話を聞いてようやくその理由を理解した。絶対に負けられない戦いを、彼は戦い続けてきたのだ。

「天心選手に勝たない限り、僕の格闘家人生は終わるに終われない。だから一度でも負けるわけにはいかなかった。格闘技界を盛り上げて、業界をでかくしていけば、絶対に舞台は整うと信じて戦って、やっと実現することになった。天心選手がいたから、ここまでこれた。彼がいたからこそ、僕はどんな手強い相手にも勝つことができた。今は感謝の気持ちしかないけれど、これで勝たなかったら僕は何も証明できない。今まで苦しんだことのすべてが無になる。この試合には、勝つという以外の選択肢はないんです」

静かに語っているのに、彼のほとんど絶対的な自信が伝わってくる。なぜこんなに自分を信じられるのか。その自分の強さを彼はいつ「知った」のか。

彼の答えは予想外だった。

勝ち負けは才能や能力だけでは決まらない

「自分が強いと思ったこと、一度もないです。今も思っていない。小学2年で空手を習い始めて、中学を卒業するまで、試合でほぼ勝ったことがない。同級生のなかでも一番弱かった、帯の進級も一番遅かった。始めた頃は女の子にも負けていた。何度もやめたいと思ったけど、続けられたのは悔しかったから。負ける悔しさは、誰よりも味わいました。負けたくないから練習するんだけど、自分にセンスも運動神経もないのは、子供ながらにわかる。才能がないなら練習しなきゃ勝てるわけがないだろって、空手の先生は言うんです。厳しい道場で、小学生の頃から大人と組み手をさせられてました。ボコボコにされて倒されて、起き上がらなければ踏みつけられる。練習すれば才能ある人にも勝てるっていう先生の言葉だけ信じて、道場でずっと居残り練習をしてました。それでも勝てないんだけど、この前よりやられてないなとか、大きな人に倒されなかったとか、自分が成長してるのはわかるんです。それが嬉しくて、負けても負けても道場に通った。絶対に強くなってやるって」

片鱗を見せ始めるのは、高校時代だ。ボクシング部に入部して初めての練習で、彼の相手をした先輩は鼻血を出して倒れたらしい。2年生も3年生も彼には勝てなかった。高校2年の頃から、アルバイトで資金を貯めてタイへキックボクシングの武者修行に通うようになる。18歳で上京し、キックボクシングでアマチュアデビューしてからはほとんど負けなくなった。

「負け続けたから、自分にセンスや運動神経がないのがわかってたから、勝ち負けが才能や能力だけで決まらないってことに気がついたんです。アマチュア時代にプロと戦ったことがある。経験も技術も僕が劣ってた。誰もが負けると言った。いい経験になるだろうって。その試合に僕は勝った。自分より能力の高い選手に、なぜ僕は勝てたのか。僕の何が相手を上回ったのかを考えたら、それはやはり気持ちだったんです。負けると言われたのが悔しくて、何があっても勝とうとした。気持ちで相手を上回り続ければ勝てるんです。苦しくてももう一歩前に出る、もらって効いてても逆にもう一発打ち返す。格闘技ってどこか我慢比べなところがあって、お互いに苦しいし痛いし、それを我慢してどれだけ相手を上回って動くかなんです。それは技術の問題じゃない。最低限の技術や練習量は必要だけど、その先は気持ちしかない。プロになってからの40勝で、僕はそのことを確信してる。相手を上回らなきゃいけないのは、スピードでも技術でもない。絶対に負けないという強い気持ちです。その気持ちを最後の最後まで持ち続けられるか、その勝負なんです。そのことを僕ほど知っている人間はいない。だから僕は絶対に負けないんです」

強い気持ちで相手に立ち向かうのは、試合前なら難しくはない。問題はどんな苦しい試合の最中も、その気持ちを持ち続けられるかどうかだ。彼の自信の源はそこにある。打たれても前に出ることをやめなければ勝てるということを、負け続けた少年は学んでいたのだ。武尊は那須川との試合で、そのことを証明しようとしている。

那須川天心の独占インタビューはこちら

 

Takeru

Takeru
1991年鳥取県生まれ。タイでのムエタイ修行を経て、2014年、K-1デビュー。現K-1 WORLD GPスーパー・フェザー級王者。元K-1 WORLD GPフェザー級、スーパー・バンタム級王者。元Krush -58kg王者。闘争本能むき出しのスタイルでKO勝利を連発する姿から“ナチュラル・ボーン・クラッシャー”と呼ばれる。

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THE MATCH 2022
日時/2022年6月19日(日)
12:00会場・14:00開始予定
会場/東京ドーム
チケット料金/VVIP1列席¥3,000,000、VVIP2列席¥2,000,000、VVIP3列席¥1,000,000、VIP席¥300,000、SRS席¥100,000、RS席¥50,000、SS席¥30,000、S席¥25,000、A席¥15,000

TEXT=石川拓治

PHOTOGRAPH=片桐史郎(TROLLEY)

STYLING=石黒亮一

HAIR&MAKE-UP=谷森正規

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