何度言っても部下が自分で考えて動いてくれない。きちんと説明したはずなのに、同じことを何回も聞かれる。褒めても響かない、任せても考えない。そんな「上司の悩み」をアドラー心理学で根本から解決。著書『「アドラー」だから自分で動ける部下が育つ 上司の教え方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部抜粋。

仲良くなるのではなく、「好き嫌い」を超える
「横の関係」が大事という話をすると、しばしば「教える相手と友だちのような関係 になるということですか」という質問を受けますが、決してそうではありません。
あくまでも、人として対等の関係でいましょう、ということです。
友だちやパートナーは好き嫌いで選べても、ビジネスでは自分と気が合う人だけでチームを組むわけではないですし、苦手なタイプの人を教えるケースもあるでしょう。
だからこそ「好き嫌いを超えた関係」であることが大事なのです。
好き嫌いに関わらず、人としてリスペクトしたり、相手の主体性や可能性への信頼を示すことは十分に可能です。
ビジネスで大事なのは関係性であって、好き嫌いではありません。感情と切り離して考えれば、ベタベタしすぎない、ほどよい距離感を保つこともできます。
Z世代を構成する代の人たちは、効率を重視して無駄を嫌う傾向があり、またプライベートには必要以上に踏み込まない・踏み込ませない関係を好む人が多いと言われています。
そう考えると、ビジネスにおける「好き嫌いを超えた関係」は、むしろ今の時代の価値観とも親和性が高いと言えるでしょう。
働く環境づくりも、「教える側」の仕事
「教える側」と「教わる側」の間に、「横の関係」「好き嫌いを超えた関係」が築けると、「教える」ことが楽になり、相手もスキルを発揮しやすくなります。
ただ、「教える」役割をもった人には、具体的に何かを教える以外に、もう一つ重要な仕事があります。それは、環境づくりです。
最近、組織づくりのキーワードとして「心理的安全性」という言葉をよく耳にする ようになりました。
これは、ハーバード・ビジネス・スクールの組織行動学者であるエイミー・エドモ ンドソン教授が提唱した概念で、メンバーが「意見や質問、提案や相談を率直に口に しても、否定されたり攻撃されたりせず、安心して働ける」と感じられる状態のこと を指します。
この「心理的安全性」が世界的に注目される大きな契機となったのが、 Googleが社内で行った大規模な調査( Project Aristotle)でした。
この調査において、チームの成果にもっとも強く関連していた要素として「心理的 安全性」が挙げられたのです。
つまり、「安心して意見を出し合い、失敗から学び合えるチーム」のほうが、成果や学びのスピードに優れていたということです。
実は、この流れは世界的企業の人材戦略にも表れています。たとえばNetflixのCEOは採用について、次のように述べています。
「ブリリアント・ジャークを雇う余裕はない」
「ブリリアント」とは「優秀な」という意味で、「ジャーク」は「周囲に悪影響を与える人」のことです。
つまり、「どれほど優秀でも、仲間との信頼関係を壊す人材は採らない」という宣言です。
かつては、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような「天才的な個人」が組織を引っ張る存在として重宝されていました。
多少わがままで尊大だったとしても、結果さえ出せば許される空気があったのも事実です。
しかし、それはもはや過去の話でしょう。今は「それぞれがチームに貢献し、チー ムとして成果を挙げること」がもっとも重視されます。
だからこそ、「心理的安全性」の確保が必要なのです。
そしてこの「心理的安全性」と近しい考え方が、アドラー心理学にあります。それが「共同体感覚」です。
「共同体感覚」は、一般的には耳慣れない言葉かもしれませんが、アドラー心理学においては重要であり、根幹をなす考え方です。
簡単に説明すると、共同体に対する「安心感・所属感」「共感・信頼感」「貢献感」を総称した感覚や感情のこと、です。
ここでいう「共同体」とは、特定の団体を指すのではなく、自分と誰かの間で何らかの関係性があれば、それが一番小さい「共同体」になります。
もっとも身近で小さい共同体に「家族」があります。それをさらに広げていくと、地域社会や国家も一つの共同体だと言えます。

