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2026.04.30

38打席無安打の阪神・近本光司を救ったのは「正解」はなく「選択肢」

身長172cm。野球選手として決して恵まれた体躯ではない。それにもかかわらず、なぜ阪神・近本光司選手は毎年活躍を続けられるのか? その秘密は、近本選手が編み出した思考術にあった。野球(スポーツ)だけではなく、仕事や勉強、 もっと言えば人生の礎になりうる、近本流思考術を記した『僕は白と黒の間で生きている。』から一部抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

近本光司『僕は白と黒の間で生きている。』

「正解に至るまでの過程」に目を向ける

野球はメンタルだ、とよく言われます。そして、いいプレーができているときは必ず思い切ってプレーできている。6回の章に書いた、盗塁の勇気なんかも出しやすい。

だから、思い切ってプレーするメンタルを作る必要がある。

実際、思い切ってプレーするメンタルを作れていないと、頭で考えながらプレーをしてしまいます。でも、それでは遅い。始動が遅れて無理をして打ちに行ったり、考えた通りに実行しようとぎこちないプレーをしたりする。後で振り返ったとき、なんでそんなことしたの? というような行動をとってしまうものです。

思い切ってプレーするメンタルを作るのは簡単ではありません。でも、そちら側にシフトできるきっかけはある。実践できる。物理的には落ち着ける空間を訪れてみる。時間的には野球を離れ趣味に興じる。具体的に取り組んだことは、「外」に近い感覚ですが、「思い切ってプレーするメンタルを作る」というゴールがあったことで、それらの内容はぐっと変わりました。

(38打席無安打で迎えた)2025年8月31日の甲子園での「7回」はこうした試行錯誤の途中に訪れました。レフト線へのツーベースヒット。2塁に到達すると、思わず笑みがこぼれました。

と、ここで終われば良かったのですが、苦しみはもう少し続きました。

この39打席ぶりのヒットの後、バンテリンドームでの中日ドラゴンズとの3連戦で再び9打数(8打席)ノーヒットが続いたのです。特に初戦(つまり、連続無安打が途切れた次の試合です)はショートゴロ、三振、セカンドゴロ、三振、センターフライ。2戦目は、スタメンから外れ代打でフォアボール。3戦目は、3打席目まで三振、ファーストゴロ、ピッチャーゴロ。4打席目でようやくライトへツーベースヒットが出ると、5打席目もスリーベースヒット。ここから、軌道に乗ることができました。

繰り返し書いている通り、こういうことって「終わってみれば」「乗り越えてみれば」、本当にいい経験だったなと思えます。

なんか、本当に自分のなかで深みが出る、というか……もちろん、「打てないことがない」に越したことはないんですけど、もし、ずーっと「打てないことがない」選手だったら(そんな選手、これまで見たことも聞いたこともないですが)、楽しくなかっただろうなあとも思います。

だから、「打てないこと」も大事なんですよね、きっと。

中日ドラゴンズとの3連戦の間に行った場所があります。

バンテリンドームから10キロほど離れた場所、熱田神宮という場所です。日本のなかでも伊勢神宮に次ぐお社として有名で、かねてから行ってみたい場所のひとつでした。

名古屋にいて何かきっかけを欲している。特に思い切ってやれるメンタルが重要だ。そう考えたとき、ふと「ここ、パワーあるよな」と、今こそ行くタイミングだと思いたったのです。

日本神話にある三種の神器はみなさんが聞いたことがあると思います。ひとつは伊勢神宮に、もうひとつが皇居に、そしてもうひとつ「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」が、この熱田神宮にあります。

タクシーにひとりで乗って、まだまだ暑い9月の日中。およそ1時間弱を汗だくになりながら参った熱田神宮は、大きな気分転換になりました。思い切って行こう。開き直りとはまた違う、メンタルが徐々に作り上げられるのを感じたのです。

人によっては、復調とお参りは関係ないだろう、と言うと思います。それは確かにそうです。熱田神宮に行ったからといって打てるわけではないはずです。ただ、振り返って重要だったのかもしれない、と思うのは「選択肢」があったことです。

うまくいかないときに、答えを求めるのではなく「選択肢」を持つ。それは、日常的にいろんなことに興味を持ち、考え続けていたから「熱田神宮に行ってみよう」という選択肢が生まれたと思っています。

最近よく感じるのが、すぐに「正解」「答え」を探す人たちが多い、ということ。バッティングについても、いろんな人が、いろんなやり方を「正解」のように語ります。それ自体は仕方がないと思うのですが、問題は受け手です。

バッティングに悩んでいるとして「正解」あるいは「ハウツー」的なものを求めていると、前進する可能性は自分に偶然合ったものに出会えるかどうか、という「運」に近い。

そうならないために、日頃から「正解」や「ハウツー」ではなく、「正解に至るまでの過程」や「こうなればこうなる(ハウツー)の背景にあるもの」に目を向けることが大事なんじゃないかな、と思います。特にバッティングは、その人の身体の大きさ、関節のつき方、筋量、性格、メンタル……さまざまなものが影響しています。一人ひとり違う、と言っても過言ではない。

そうやって、ふだんから過程や背景に目を向けていると、なんだか面白くなってきて、いろんなことを学んでみたくなる、知ることになります。そこで得たものは、間違いなく「選択肢」になるはずです。

7回。だいぶ長くなりましたが、甲子園の熱気のように熱く、書かせてもらいました。

TEXT=近本光司

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