身長172cm。野球選手として決して恵まれた体躯ではない。それにもかかわらず、なぜ阪神・近本光司選手は毎年活躍を続けられるのか? その秘密は、近本選手が編み出した思考術にあった。野球(スポーツ)だけではなく、仕事や勉強、 もっと言えば人生の礎になりうる、近本流思考術を記した『僕は白と黒の間で生きている。』から一部抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

与えられた役割のなかで「個」の力を全うする
シーズンは近年143試合。僕の所属する阪神タイガースは、2025年にもっとも多くの勝ちを重ね、1位でシーズンを終えました(厳密に言うと勝率で順位が決まります)。
そのなかで、選手はみな、ふたつの「思い」を抱えながらプレーします。
ひとつはチームの勝利のため。
もうひとつは自分の成績のため。
チームに所属し、その勝利が大目標である以上、すべては「チームの勝利」が優先されます。一方で、それぞれ次の契約を勝ち取るために「個人の成績」を積み上げていかなければいけません。
シーズンを戦っていると、こんなことが起こります。
チームは惨敗を喫したけど、自分は3本ヒットを打った――。
簡単に言えば、大目標にとってはマイナスになるけれど、選手個人で見ればプラスの結果が出た、ということです。野球というチームスポーツにおける最大の矛盾かもしれません。
僕の感覚としては、「チームバッティング」と言われる進塁打を打つことや、先にも少し触れた「ピッチャーを休ませるためのウエイト(見逃す、待つ)」に抵抗はありません。むしろ、自分がチームに示すことができる能力だと思っています。
野球界で「犠牲心」という言葉で表現されるその在り方は、「個」より「チーム」といったニュアンスが強い気がします。そして、そのなかで生まれるものが「チームワーク」。そんなふうに捉える方も多いのではないでしょうか。
けれど、実際は「チーム」と「個」は対等に近い。それが僕の感覚です。
3回に入ると、1番打者には(十中八九)2打席目が回ってきます。
先ほどから書いている「アプローチ」をどうするか。特別にやることがあるとすれば、スコアラーさんとの会話です。ベンチで、1巡した僕たちの攻撃陣に対して、相手ピッチャーがどういうボールを多く投げているのか、といった現在の情報を、試合前のものと比較しながら意見交換をする。そのうえで、1打席目のフィードバック、保留の時間を経て、改めて2打席目に臨む、というのが僕のスタンスになります。
そのフィードバック、保留している時間に現れる要素のひとつが、味方のバッターの反応になります。特にクリーンナップを打つことの多い、森下(翔太)、輝(佐藤輝明)や、大山(悠輔)が、相手投手に対してどんなバッティングをしているのか、その結果に「(やはりあの投手は)調子が良さそうだな」と思うこともあれば、「あ、今日は合ってないのかな」とか、「相手のカーブ、けっこう曲がっているのか」といった情報は否が応でも入ってきます。
チームワーク、という点で考えるのは、こうした打撃に長所を持つ、チームの中心選手たちの反応が「今日は、良くないかもしれない」と思ったときです。
例えば、大山が相手ピッチャーに合わなそうな日。
森下の調子が上がらない日が続いたとき。
「彼らの分まで、俺が打とう」「彼らの役割を俺がしよう」――という思考にならないようにすること。
これが、勝利を目指すチームのチームワークなんだと思っています。
2024年シーズン、4番を任されたことがありました。怪我人や調子が上がらない選手がいたなかでの、チームにとっては苦肉の策だったのかもしれません。
でもこの経験は貴重でした。1番と違い、とにかくランナーがいる状態で打席が回ってくる。やっぱり野球は4番が打たないと勝てないんだな、と実感したんです。
1番には1番の役割がある。4番には4番の役割がある。じゃあそのなかで、誰かがうまくいかないから、その人のために、その役割をしよう――と考えることは、「チームワーク」を体現しているように見えますが、違うのではないか。
役割とは、その立場や仕事で周りから求められていることです。そのうえで大切なのは、選手一人ひとりの特徴や強みを発揮すること。つまり個性を無理に変えず、自分らしさを失わないことです。選手にできるのは、与えられた役割のなかで「個」の力を全うすること。それが結果としてチームワークになるはずです。
ここの章の冒頭に触れた通り、僕は「犠牲」を伴うバッティングに抵抗がありません。でもそれは、それが僕の役割「個の力」だから、なのです。
このチームワークと個の関係、すごく面白い気がしませんか。
ちなみに僕はアニメが大好きで、試合後、帰宅してから就寝までに2本くらい(だいたい40分くらいかけて)そのときの好きな作品を観ます。アニメが好きになったきっかけは名作『ワンピース』なのですが、ゾロがこう言っていました。
「それぞれが自分のできることを死ぬ気でやって、俺はやったぞ、次はてめえの番だ。できなきゃぶっ殺す! くらいの気合があって初めてチームワークってのは成立するんじゃねえのか? そう考えるとよ。仲間って言っても別に一匹狼でもいいんじゃねえのか? 俺はそう思うぜ」
これにはまったく同意でして、アニメってすごいですよね(笑)。

