身長172cm。野球選手として決して恵まれた体躯ではない。それにもかかわらず、なぜ阪神・近本光司選手は毎年活躍を続けられるのか? その秘密は、近本選手が編み出した思考術にあった。野球(スポーツ)だけではなく、仕事や勉強、 もっと言えば人生の礎になりうる、近本流思考術を記した『僕は白と黒の間で生きている。』から一部抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

「どうやっても調子がいい」状態が続くことは「楽しくない」
ここまで読んで、近本ってやっぱり理屈っぽいな~、と思われた方もいるかもしれません。いや、ほとんどの方がそうなのか……?
僕が書いてきたことは、あくまで僕の考える一面です。
例えば、言語化の作業というのは、よく言えばロジカルで、悪く言えば理屈っぽい。ホームランを打ったなら、その勢いのまま、「次もノリノリでいこう」と考えたほうがいい、というトップ選手も多くいます。
実際のところ、そうやって自分のモチベーションに寄り添いながらプレーすることも大事ですし、常にどちらかがいい、というわけではありません。僕自身、そういうモチベーションで臨んだほうがいいな、と振り返り、そういうアプローチをとったこともあります。……おお、結局なんか理屈っぽくなった(笑)。
とはいえ、今の僕にとってはこのスタイル、考えて選択肢を見つけ、それを試す(インプット、アプローチ、アウトプット)やり方が合っています。そして「次」のインプット、アプローチ、アウトプットに向かうために、保留、フィードバック、言語化をしている。
伝えたいのは、この過程は「不安」と「楽しい」が隣り合わせであり、やり続けていくと「楽しさ」が勝(まさ)ってくる、ということ。
ですから、試合におけるもっとも「楽しくない」シナリオは、4回までの2打席で「どうやっても調子がいい」状態が続くことです。何も課題が見当たらない、不安がない、ゆえに発見もない。
結果が出ていれば、うれしいしチームに貢献できています。満足感はありますし、不安が生まれることもありません。でも、個人的には「楽しくない」。
練習も同じです。自主トレなどしっかり時間が取れるときは特にですが、「どうすれば打てるのか」「こういうスイングはどう再現する?」「こんな打球を打つ方法は?」と、考え抜き、試行錯誤を繰り返す。これが練習です。練習であるためには「それらができない、うまくいかない状態」であることが最低条件になる。
「うまくいかない状態」はけっこう、成長していくときに大事な時間ということです。再び、理屈っぽくなってきましたが、この回の話の最後に、成長するチャンス=「うまくいかない状態」において、「言語化」する具体的な方法を紹介してみます。
ひとつがマインドマップです。
真ん中にテーマを書き、それについて思いついた言葉、大事なこと、こうありたいという目標などを、書き込んでいきます。書き込んだことを、木の枝のように線を引いてつなげていく。すると、そのテーマについての自分の「頭のなか」が整理されます。ビジネス書などでもよく紹介されているこのマインドマップは、僕にとっては「当たり」でした。
それ以外にも、31年間を振り返ったメモもあります。「Life Review 過去の俺、何を学んだ?」というタイトルで、横軸に年齢を書き、その年齢で覚えている物事を線で結んで書き出す。その記憶に対して覚えている「出来事」「感情」「言葉」「人(出会い)」などを紐づけて書いています。
小学生くらいまでは「北海道家族旅行」「イルカ飼いたい」といういわゆる思い出や「絶交が流行る」「嫌われたくない」「要領よく」といった子どもながらに感じていた内面性にまつわるキーワードが、プロになって以降は、「岡田監督」「日本一」「人生の余白」「空間の重要性」といった、僕の人生に影響を与えた言葉がずらっと並んでいます。
40歳になったら、昔の感情が思い出せなくなるかも……と思い、7年目(2025年)の沖縄キャンプから書き始めました。まだまだ書き足りないのですが、数ページ分の長さになっているこのメモは、頭の整理になるだけではなくて、やっていて楽しい。加えて、言語化は「書く」だけがすべてではない、ということをこの数年で強く実感しました。それが、「話す」こと。
言語化できるようになると、不安のプロセスも楽しめる
2024年から始めた「チカブレンド」はポッドキャスト、音声コンテンツになります。野球選手・近本だけではない部分をみなさんに知ってもらって「こんな考えもあるよ」「矛盾って面白いかもしれない」ということを伝えたい、と思っていたことがきっかけでしたが、どんな媒体で始めるべきか、ということは悩みどころでした。
多くの選手が始めていたYouTube という手もあっただろうし、SNSをもっとうまく使う、という方法もあったはず。でも動画は自分自身の見た目に気をつけなければならず本心が出しづらい点でハードルが高かったですし、SNSは見たくない情報を目にしてしまいます。何より、いずれも「野球選手・近本」がベースになってしまう。
ポッドキャストがいいかもしれない。そう思って始めてみると、実際に大当たりでした。本当に、リラックスして、カフェにいるような感覚で話せる。これこそが伝えたいことであり、また配信されている空間もとても心地よいものでした。
そうした効果もあってか、「語る」ことでできる「言語化」に深みというか、もっとたくさんの「こうなんじゃない?」というものが、見えてきました。
面倒くさいと思うかもしれないですが、この本(『僕は白と黒の間で生きている。』)を手に取ってくださったのですから、これがきっかけです(半ば強制のような書き方ですが……)。一度、言語化を試してみてください。ちょっとでも俯瞰(ふかん)的に物事を見ることができるようになっていたら、みなさんにとっても「当たり」、となるかもしれません。
うまくいけば、僕のように不安のプロセスを楽しめるような力まで身につくかも……(その代わり、理屈っぽいって言われるようになるかもしれませんが!)。

