身長172cm。野球選手として決して恵まれた体躯ではない。それにもかかわらず、なぜ阪神・近本光司選手は毎年活躍を続けられるのか? その秘密は、近本選手が編み出した思考術にあった。野球(スポーツ)だけではなく、仕事や勉強、 もっと言えば人生の礎になりうる、近本流思考術を記した『僕は白と黒の間で生きている。』から一部抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

阪神タイガースを支える「エース格」でも考え方はまったく違う
僕の守備位置はセンター。外野手のど真ん中で、ピッチャー、キャッチャーを中心とした、いわゆるセンターラインの一番、遠いところになります。ピッチャーの球を真後ろから見ることになるので、その変化球の曲がり方や、バッターの反応が他のポジションよりわかりやすいのが特徴です。
ちなみに、僕自身もピッチャーをやっていたことがあります。
小学校で始めた野球。最初は、外野手かサード。左利きのサードは珍しいんですけど、ふだんサードの子が投手もやっていたので、彼が投げるときは僕がサードをやっていました。中学では外野手がメインでしたが、監督(というか先生ですが)には、ピッチャーをやらないか、とよく言われていました。
でもずっと、断っていたんです。……ストライクが入らないから、って(笑)。それが、一度しぶしぶやったら、抑えられた。そしたら、楽しくなって(単純)、高校はピッチャー志望で入ります。野手兼任ではありましたけど、最後の1年は主軸としてずいぶん投げました。大学もピッチャーとして入部しました。
結局、怪我などもあって大学2年生で野手に転向するのですが、高校、大学とピッチャーの練習をしていた経験もありますから、彼らのすごさは少しはわかるつもりです。
さて、試合も5回ともなると、半分が進み、その日の投手の調子ははっきりと見てとれます。「今日のストレート、やばくない?」「スライダー、めちゃくちゃいいな」「いつもと投げ方、変わってない?」……そんな調子について声を掛ける投手はだいたい決まっていて、それが才木(浩人)と村上(頌樹)でした(ただ、最近はそうやって声を掛けた後に打たれることが続いたので、試合が終わった後か翌日に話すようにしています〈笑〉)。
同じ右投手で上手投げ、そして同い年のふたりですが、「成長」を目指すアプローチはまったく違います。
才木は高校卒業後にプロ入り。阪神タイガースのユニフォームを着て9年。怪我もあって育成契約を2年経験するなど苦労もしてきました。189センチという羨ましいくらいの長身で、いわゆる本格派と言えます。
今やメジャーからも注目される投手になった才木とはよく話をする仲です。サプリや栄養補給について情報をシェアするのも彼。トレーニング理論なども「なるほどな」と思うことがしばしばです。
彼の成長へのアプローチは、「自分が投げたい球を投げたいように投げる」ことを目指すというものです。設定したトレーニングをしっかりとこなしていく。チェックすることも大きくは、回転数、回転軸、球速といった自身を計る指標になります。ここ数年で一気にレベルアップしたのは、その方法も大きく寄与したと思います。
一方、村上は大学を経て阪神タイガースに入り5年。僕と同じ淡路島出身。1、2年目はほとんど一軍で一緒になりませんでしたが、3年目に大きく結果を残しました。資格の残っていた新人王を獲得したことに加え、なんとシーズンMVPまで受賞。一気にリーグを代表する投手となりました。
才木ほど大きくはなく、ピッチャーとしては小柄な175センチの村上の成長へのアプローチは常に「相手」があります。より質のいい「自分のボール」を投げることにもフォーカスをしているとは思いますが、より「バッター」への探究をしています。マウンドで球速を変えたり、スローボールを投げたり、データにない(バッターの頭にないだろう)球種を選んでみたりと、いろいろなチャレンジをします(まぁ村上も才木ほどの体格があれば、また違ったアプローチをしたのだとは思いますが)。
実現する可能性は少ないでしょうが、もし才木と村上と対戦したとすると、才木はきっとストレートを投げ込んでくる。村上はデータにない球を選択してくる……そのくらい、考え方が違うのです。バッターとピッチャーで比較することはできませんが、才木より村上のほうが僕の考え方に近いかなと思います。面白いのは、いずれも阪神タイガースを支える「エース格」なのに、これだけ考え方が違うこと。打撃のアプローチ同様、ピッチングにおいてもそのアプローチに正解を作らないことが大事だと言えそうです。

