放送作家として活躍する傍ら、吉本興業のNSCで講師も務める桝本壮志氏。令和ロマン、EXIT兼近、ぼる塾ら人気芸人を数多く育ててきた桝本氏がNSCで説くのは、芸人スキルではなく、社会を生き抜く思考戦略だ。ゲーテwebの人気連載を再編集し書籍化した『時間と自信を奪う人とは距離を置く』から一部抜粋してお届けする。

明石家さんまさん流のアンガーマネジメント術
悩み:怒りっぽい性格に悩んでいます
以前、担当している『さんまのまんま』(関西テレビ)で、さんまさんが「一度も怒ったことがない」と語っていました。
お笑い怪獣を世間のものさしにするのは常識的ではありませんが、さんまさん流の「怒りとの付き合いかた」、いわゆるアンガーマネジメントは知っておいて損はないと思います。
明石家さんまのイラっとしたときの思考法
なぜ、さんまさんは怒らないのか? それは思考法にあります。
さんまさんは誰かにイラっとしたとき、次のように考えるそうです。
①まず「オレをイラっとさせる人間=アホなヤツ」と考える
②次に「そもそも自分は誰かを怒れるほどエラい人間か?」と自問する
③すると「そんなにエラい人間ちゃうわ」と気づき、思いとどまる
イラっとさせる人=無駄なエネルギーを使わなくてもよい相手だと考える「ゆとり」、自分は他者に怒れるほどエラくないと思える「自制力」、このメソッドは職場や芸人学校でも役立ちました。
怒りかた・叱りかたにもセンスが必要
しかし「一度も怒らない」は至難の業(わざ)。リーダーポジションの方や僕のような指導者、お子さんのいる親御さんなどには、怒ることが必要なシチュエーションがしばしば訪れますよね。
かつて僕は怒りっぽい性格だったので、頭ごなしに大声で叱っていました。けれど、場の空気は悪くなるし生徒は萎縮するばかり。けして人気講師ではありませんでした。
それもそのはず、「大きな声を出せば人は従う」と勘違いしていたのです。恥ずかしいですよね。大きな音を鳴らす目覚まし時計があっても、本人に起きる気がないと無意味なように、いくら大声で叱っても、相手に「受けとる気持ち」がないと響くはずがないのですから。
そんな醜態から、怒りかた、叱りかたにもセンスが必要だと気づき、アンガーマネジメントの本を読み込み、さんまさんのメソッドも実践。自分流の「怒りとの付き合いかた」を構築していったのです。
桝本流叱るときの5つのポイント
僕が他者を叱るときに注意しているポイントは以下の5つです。
①時間を置かない
時間をあけると怒りが増幅するのですぐに伝えます。
②1対1で
大勢の前で叱ると「吊るし上げ」になるだけ。叱られる側も集団の前だと心も態度も硬化します。
③遡(さかのぼ)らない
注意するのは「いまやったことだけ」にします。「君って、前も同じことやっていたよね?」や「前から思ってたんだけどさぁ」などと時間を遡って叱らないようにしています。
④私情を入れない
例えば、もし部下や子供が約束を守らなかったとき「約束をやぶったから叱る」はいいけど「約束をやぶられた自分が恥ずかしいから叱る」は私情。あなたの世間体を着火剤にしてはいけません。
⑤怒るときは許すとき
そもそも怒る行為は「二度と怒らなくてもいい状況をつくるため」のアクションのはず。しかし、怒ったあとでも機嫌が悪い人、陰口を言い続ける人、怒った相手にレッテルを貼る人、自分の怒りを「お前もそう思わない?」とわざわざシェアしてくる人。周りにそんな大人がいませんか? その人は「次の怒りへの準備運動」をしているだけ。きっとまたキレちゃうし火種を探しはじめるのです。
なので、僕は「怒るとき=許すとき」と決めています。
許すということは忘れるということ。短く注意をしたら「はい、ココまで」と線を引く。その瞬間、相手のミスや落ち度はキッパリ忘れて、叱る前の「素敵なヤツ」というイメージにリセットするのです。
その甲斐あってか、この10年、生徒とは円滑な関係。なかには「あんな失礼なことをしたのに覚えてないんですか?」「おもしろエピソードは覚えているのに、僕がやった無礼は1ミリも覚えてないですね!」と卒業生に驚かれることもあります。
それでいいのです。自分が使えるエネルギーは有限なので「怒り」という大容量のエネルギーを使うときは、家族や傷ついてほしくない数人を守るためにとっておく。あとはスルー。それくらいが丁度いいんです。
桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
 
             
             
             
             
             
             
             
             
     
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
             
             
            
 
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
               
              