放送作家として活躍する傍ら、吉本興業のNSCで講師も務める桝本壮志氏。令和ロマン、EXIT兼近、ぼる塾ら人気芸人を数多く育ててきた桝本氏がNSCで説くのは、芸人スキルではなく、社会を生き抜く思考戦略だ。ゲーテwebの人気連載を再編集し書籍化した『時間と自信を奪う人とは距離を置く』から一部抜粋してお届けする。

目標なんて小さくていい
悩み:目標の立てかた、叶えかたが分かりません
自信がないときは「目標」も見失いがちになるもの。
いまでは売れっ子になった教え子たちも、そもそも目標を持つ意味はあるのか? 達成できなかったら傷つくだけじゃないのか? といった疑問や不安を抱えていました。
なぜ目標を立てるのか? それは、得するためです
なぜ目標を立てる人が多いのでしょう? 僕はシンプルに「得をするから」と答えています。例えば、当てもなく街ぶらをして富士山のてっぺんに行った人はいません。あの息をのむような絶景を拝めるのは「目標」を持った人だけ。宝くじが買わなければ当たらないように、目標をつくることで享受できる「得」があるからです。
また、私たちは同じ時間を共有していますが、時間に余裕がある人と余裕がない人がいます。お金のやりとりでは貸す人と借りる人が生まれます。時間に余裕がない人、お金を借りる人は、おのずと「追われる側」になり、あくせくしたりイライラしたりしますよね? これは仕事や学業でも同じで、望んでいない残業や宿題はすべて「自分を追ってくるもの」になっていくのです。
もうお分かりですね。追われてやる作業は「義務」や「責任」といった面倒なワードで付きまといますが、こちらから追いかけると「ミッション」や「夢」というポップなワードに早変わりする。そう、目標を立てるという行為は、わずらわしい義務や責任をしりぞけてゆくメンタルハック。すなわち「得をする心」を育ててゆくアプローチでもあるんですね。
夢や目標はデカくなければならない?
得をするから目標を立てる。これを押さえたら、次は「叶えかた」です。
NSCの講師をしていると、現代の若者は目標や夢に対して抑圧的だと気づきます。彼らが目標を掲げたり言葉にしたりしないのは、もしも叶わなかったら悪目立ちするから。目標がなければ達成しなくてもいいし、失敗をして指をさされることもないからです。そんな生徒らに、僕は「目標や夢は30分後に叶うものでいいよ」と伝え、若手時代の経験を話すようにしています。
大阪でラーメン屋のバイトをしていた19歳のとき、刑事ドラマが大好きな店主が、油で汚れたテレビを観ながら「いつか交番に出前するのが夢やねん」と言い出しました。僕は鼻で笑って「その夢、小さすぎません?」といじったら、店主はこう言ったんです。
「アホやなぁ、小さい夢をちょいちょい叶えたほうがコツを覚えるんやで」
僕はハッとして鍋を動かす手を止めました。それまで夢や目標はデカくなければならない、デカくなければ夢じゃないと思っていたからです。
この店主の言葉はのちの人生で大いに役立ちました。財布の小銭を使い切る、ココイチで贅沢なトッピングをする、憧れの先輩に話しかけてみるなど、小さな夢はどんどん叶えることが可能でしたし、成功体験を重ねることで夢を叶えるコツのようなものが自分のなかで育っていったからです。
目標は大げさに捉える必要はありません。恋人への「想い」が強すぎると「重い」と言われるのと同じで、「目標」ではなく「予定」くらいの感覚でもいいんです。
さあ、あなたが30分後に叶えたい予定は何ですか?
桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。

