放送作家として活躍する傍ら、吉本興業のNSCで講師も務める桝本壮志氏。令和ロマン、EXIT兼近、ぼる塾ら人気芸人を数多く育ててきた桝本氏がNSCで説くのは、芸人スキルではなく、社会を生き抜く思考戦略だ。ゲーテwebの人気連載を再編集し書籍化した『時間と自信を奪う人とは距離を置く』から一部抜粋してお届けする。

「自分嫌いの沼」からの脱出法
悩み:自分が嫌いになり、眠れない夜があります
「自分が嫌い」という人はけっこういます。育成現場にいると、そうした胸の内をよく打ち明けられますし、僕自身も「自分が嫌いだ」と思いながら夜をこえてきました。そんな感情が湧いてきたときの思考法をシェアしましょう。
「自分のココが嫌い」の脱出口は「あの人のココが好き」
キラキラ輝いているように見える芸能人も、人知れず「自分が嫌い」という悩みを持っています。これまで僕は、ある男性アイドルグループのメンバーから「うまく笑えない自分が嫌いなんです」と打ち明けられたことがありますし、あるM-1王者からは「人に興味がないのに、いつも興味があるフリをしてしゃべっている。そんな自分がイヤになるときがあるよ」と聞いたこともあります。日本中を笑顔にしているアイドルが「実はうまく笑えない」、コミュ力お化けの芸人が「実は他人に興味が持てない」という悩みがあるとは思いもしませんでした。
そうした経験から学んだのは「自分が嫌い」は誰もが平等に持ち合わせている感情だということ。そして誰もが「それでも自分のココは好き」という、小さなかけらを寄せ集めて生きているということだったのです。
自分が嫌いなときは「過剰な自己肯定」とサヨナラする
自分が嫌いになったときは、どのような思考で自分と向き合えばよいのでしょう?
その手法の一つが、男性アイドルとM-1王者に共通している点。それは「自分のココが嫌い」という感情を認め、他者に打ち明けているということです。
SNSに「自己肯定感を上げるべき」という言葉があふれているせいか、NSC生たちの間でも「自分を積極的に評価しなければ」という思考が強くなってきています。しかし、過剰な自己肯定は「これは気の迷いだ」「私は強い人間だ」「間違っているのは世間だ」と、自分に暗示をかけていく生きかたになってしまい、帳尻を合わせるための嘘や見栄を張る回数が増えていくんですね。
大切なのは自己肯定ではなく、嫌いな自分をそっくり受け入れてみる「自己受容」のほうを採用すること。嫌いな自分やダメな自分をありのままに受け入れ、そんな自分を認めて赦(ゆる)してゆくこと。「私」を認めれば認めるほど他人からの承認は必要ではなくなるし、かえって自己肯定感が高まるのです。
周りにいる人の美点を探す
僕が実践している、自分が嫌いという感情への対処法を公開しますね。
これまで幾度となく「自分嫌いの沼」にはまってきましたが、そんなときは決まって自分の欠点を拡大して見ていました。うまくプレゼンできなかったのは語彙力がないからだ、あの人に冷たくされたのはコミュ力がないからだ……と、欠点を拡大して、それに固執し、抱き枕のようにしがみついて寝てしまうのです。
このままではマズいと感じ、はじめてみたのが「周りにいる人の美点探し」でした。きっかけは何かの本で読んだ「他人を愛せなくなると、自分を愛することも忘れる」という一文だったと思います。
母親は子供を深く愛しながら「家族のために頑張っている私っていいぞ」「こんなふうに笑える自分も好き」などと自己愛に気づいていきます。それとは反対に、他者への愛情がおろそかになると、自分の個性・欠点・嫌いな部分が、より愛せなくなるんです。
周りの人の美点探しをはじめると自分の美点の輪郭もくっきりしてきたので、この方法もおすすめです。
桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。

