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2025.04.17

だから人間は変われない…ノーベル賞受賞者が“ゾウ”と例えた、意思決定の95%を担う「無意識」のパワー

「仕事」にモヤモヤや物足りなさを感じているにも関わらず、現状を変えられずにいるビジネスパーソンは多い。認知科学に基づいたコーチングで10,000件を超えるセッションを行い、多くの人の人生を変えてきたミズカラ代表取締役CEO兼エグゼクティブコーチの村岡大樹氏が、本気で自分を変える方法を伝授。『自分の変え方 認知科学コーチングで新しい自分に会いに行く』の一部を抜粋して紹介する。【そのほかの記事はこちら】

自分の変え方
Unsplash / Timon Studler ※画像はイメージ

意思決定のほとんどは「無自覚」によるもの

私たちは日々の生活の中で、無数の選択・行動をしています。その数は、なんと1日に3万5000回と言われています。

「今日のランチは何にしよう?」 「どんな服を着ていこうか?」 「どちらの道を行こうか?」 「休憩しようか? 続けようか?」 「スマホを見ようか? コーヒーを飲もうか?」 「もう寝ようか? もう少し起きていようか?」

このような具合です。

そして、そういった「自分は何をするか?」の意思決定を自分の頭で、つまり有意識で行っているかのように勘違いしています。 しかし実のところ、あなたの意思決定のほとんどは、無意識に行われています。 「無意識」とは、自覚しないまま心の中に存在する精神現象や思考、感情のことです。

無意識による意思決定と有意識による意思決定の割合は、 35ページのピラミッドの図のとおり「 95 :5」と言われています。

無意識と有意識の関係性について、アメリカの心理学者・行動経済学者であり、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏は、自身が提唱した「二重過程理論」の中で、「システム1」「システム2」という用語を使って解説しています。「システム1」は、「速い思考」とも呼ばれます。 直感的、自動的に判断しようとする思考で、人間の無意識にあたり、これは「結晶型」と言われる脳細胞の働きによるものです。

一方、「システム2」は、「遅い思考」とも呼ばれます。 時間をかけて、正解を導き出す思考で、これが人間の有意識にあたります。 こちらは「流動型」と言われる脳細胞の働きによるものです。

私たち人間は、日常の何気ない問題を素早く解決するために、あまり深く考慮せずにパターン化して、効率良く無意識に意思決定をしています。

この意思決定の中には何を見るか、何を聞くか、何の感覚を取捨選択して意識に上げるかも含まれているのです。 脳幹にあるRAS(ラス/Reticular Activating System:網様体賦活系)と呼ばれる神経回路がこれを選びます。

私たちの周りには膨大な情報があります。 すべての感覚チャネルから入ってくる情報の、1秒あたりの総和は約110万ビットで、その中から有意識で処理するのが1秒に40ビットと言われています。 この選び出す基準は、今のあなたの生き方での【重要関数(情報の取捨選択における優劣の度合い)】によって決められているのです。この機能は、脳の消費エネルギーを抑えるために、元来私たちの身体に備わっているものです。

ダニエル・カーネマン氏は、「システム1(無意識)はたとえるなら、アフリカゾウほどのパワーを持っていて、システム2(有意識)は、それに比べたら、ゾウのお尻に付いたノミくらいのパワーしかない」と言っています。カーネマン氏の比喩から、無意識と有意識の影響力は「95:5」どころか「2万:1」くらいの差があることを理解していただけるでしょうか。

無意識と聞くと、目に見えない、特別なものとみなして疎遠してしまうかもしれません。けれども、無意識はあなたの日々の何気ない選択・行動すべての土台となっている、大切なものなのです。

無自覚な信念が、日々の決断を左右する

先ほど書いたとおり、無意識とは、自覚しないまま心の中に存在する精神現象や思考、感情のことです。その無意識の中に存在するものの1つに、「信念」というものがあります。この信念は、あなたの日々の意思決定に非常に大きな影響を与えています。

信念は、認知科学の世界で「ビリーフ(belief)」と呼ばれています。日本語では「信念を貫く」などの形で使われるため、自分で信じようと決めたもののように捉えられがちですが、ここではその信念とは違う意味合いになります。

「信念・ビリーフ」とは、自分でも気づかずに思い込んでいること、無意識的に信じていること、価値観、パラダイムといった意味で使われます。よく耳にする「認知バイアス」などもここに含まれます。

例えば、外国人の友人とあなたが、日本の知り合いの家に遊びに行ったとき、外国人の友人がいきなり土足のまま家に上がり込んでしまったら、あなたは驚いたり、慌てたり、怒って注意するかもしれません。

なぜあなたは、このような行動をするのでしょうか? それはあなたの無意識の中に「家には靴を脱いで上がる」という信念があるからです。一方、外国人の友人には「家には靴を脱がず土足のまま入る」という信念があるため、当たり前のように土足のまま家に上がってしまったのです。

他にも、男の子がピンクのランドセルを背負っているのを見て驚いたとしたら、あなたの中に「ピンクは女の子の色」という信念があるということでしょう。少々熱があっても会社に行こうとするならば、あなたの中に「熱くらいで会社を休むのはありえない」という信念があり、お腹がいっぱいでも昼食や夕食を食べきろうとするならば、あなたの中に「ご飯を残してはいけない」という信念があるということです。

また、中国・朝鮮半島や東南アジアなどでは犬を食べる文化がありますが、犬を食べると聞いて、あなたはどんな感情が湧くでしょうか。これらの事例からもわかるように、信念は、1人ひとりの「当たり前」や「常識」に深くつながっているのです。

村岡大樹/Daiki Muraoka
株式会社ミズカラ代表取締役CEO兼エグゼクティブコーチ、一般社団法人日本認知科学コーチング協会代表理事。1987年東京都生まれ。2016年、外資系製薬企業で働いていた際にコーチングと出会う。その後、コーチとして独立するも失敗。2021年に合同会社LIMITを設立し、ジム、サウナ、民泊事業を経営(2024年2月事業譲渡)。2022年、株式会社ミズカラに参画し、「キャリアコーチング」「セルフコーチングプログラムREBOOST」を立ち上げる。2023年12月に株式会社ミズカラの代表取締役CEOに就任。キャリアコーチングのセッション数は10,000件を超え、累計受講者数は3,000名を超える。セルフコーチングプログラムREBOOSTの累計は受講者2,000名を突破。現在も、「夢中になれる人生をすべての人に」届けるため、200名を超えるメンバーと共に日々活動している。

TEXT=村岡大樹

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