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2023.07.28

仕事のパフォーマンスが加速する「ストレス」の使い方【応用神経科学者が解説】

仕事や学習のパフォーマンスを向上させる、脳の使い方・鍛え方を、応用神経科学者の青砥瑞人氏に聞くインタビュー後編は、ストレスと脳の関係について教えてもらう。#前編

青砥瑞人インタビュー

プレッシャーやストレスを利用する

好奇心を持ち、常にワクワクしている人は、ドーパミンが出やすい脳の状態を育んでいる。これは、アスリートでいうところの「身体づくり」にあたる。常日頃から身体づくりをしているからこそ、試合で最大のパフォーマンスを発揮できるように、ドーパミンが出やすい脳の状態をつくっているからこそ、興味関心のあること以外に対してもモチベーションを維持し、高いパフォーマンスにつなげることができる――。

前編では、この好奇心からくる「ボトムアップ型モチベーション」を活用することでドーパミンが出やすい脳を育み、意識的に目的へ向かわせる「トップダウン型モチベーション」をも高めることができるということを青砥氏に教えてもらった。

そして、日々ボトムアップ型モチベーションを活用して脳のコンディションを整えることに加え、次に重要となるのが、高いパフォーマンスを発揮するために、自身を動かすトリガーを知ること。

前編では脳の状態という観点でトップダウン型・ボトムアップ型のモチベーションについてお話ししましたが、今回はモチベーションに大きく影響を与える2つの神経伝達物質をご紹介します。

ドーパミンという神経伝達物質は、主に『Seek』すなわち『探し求める』ときや、『Want(〜したい)』、『Try(やってみよう)』と感じるときに放出されることが知られています。モチベーションを高める上で、ドーパミンは非常に重要ですが、最大限のパフォーマンスを発揮するためには、ノルアドレナリンという神経伝達物質も大事になってくるのです。これは『Fight or Flight』すなわち『闘争または逃走』に基づいた、交感神経と連動して放出されることが多い物質なんです」

青砥瑞人
青砥瑞人/Mizuto Aoto
DAncing Einstein CEO、応用神経科学者。日本の高校を中退後、脳の不思議さに惹かれてアメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に入学し、神経科学学部を飛び級卒業。ドーパミン(DA)が溢れるワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、2014年にDAncing Einsteinを創設。脳の知見を医学だけではなく人の成長に応用し、AI技術も活用するNeuroEdTech®とNeuroHRTech®という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得した脳神経発明家としての顔も持つ。

つまり、ドーパミンは「もっと知りたい。もっと行動したい」という欲求から生まれるのに対して、ノルアドレナリンは「逃げねば、闘わねば」というストレスに由来している。この相反する作用が、モチベーションを高めるために必要とは、どういうことだろうか。

「ドーパミンの作用によって、集中状態と記憶定着率が高まることはわかっています。ですが、何かをコミットしようとするとき、最大のパフォーマンスを引き出すためには、ノルアドレナリンを利用する必要があります。

このノルアドレナリンとは『やらねばならない』という使命感です。締め切りがあるとか、やらないと怒られるとか、プレッシャーやストレスを感じると出る場合が多いのです」

例えば、いくら「やりたい」と思っていても、締め切りのない仕事はなかなか終わらないだろう。誰かがこの仕事の完成を待っている、そのプレッシャーが、スピードがあり精度の高い仕事へと導いてくれる。

「けれど、ノルアドレナリンはストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが出やすい環境もつくります。コルチゾールが慢性的に出続けることは、鬱病などにもつながる可能性があり、そうなるとパフォーマンスどころではありません。大事なのはドーパミンを駆動させながらも、ノルアドレナリンが過剰にならない程度に利用することです」

成功体験とストレスをセットで記憶しておく

ノンストレスでは、パフォーマンスには繋がりにくい。実際、パフォーマンスが求められる仕事の多くは、多かれ少なかれストレスを伴うのではないだろうか。であれば、意識せずとも、仕事をしている際はノルアドレナリンが出やすい状態であり、意識すべきはその状態でもドーパミンを出す方法だ。

「ドーパミンが出やすい脳の状態をある程度つくれている人でも、仕事をこなすうちに、知らず知らずに『やらされている』感覚になってしまうことがあります。そんな時は改めて、『やりたい』という気持ちや仕事がもつ意味に注意を向け直すことによって、モチベーションを高めてみるのは効果的です。

僕自身、執筆の締め切りに追われて『あ〜!』となる時があるのですが、『もともと自分がやりたくてやっていることだ』と注意を向け直した瞬間、すごく集中できるような感覚を覚えることがよくあります(笑)。

また、仕事中、物音が気になる、注意散漫になっているというのは、ノルアドレナリンが多く出すぎているサインです。昔、人間は狩りに出ていましたから、ひとつのことに集中しすぎることは非常に危険で、敵がどこにいて、狩る動物がどこにいるか、注意を分散させなければいけませんでした。家で仕事をしていて、洗濯機の音が気になるなどは、そのための作用が強く働いている状態です。ですから、そのストレスを下げるために、お気に入りのカフェで仕事をするなど、自分がドーパミンが出やすいと感じる場所に移動することは効果的です。また、その仕事が終わったら好きな物を食べていいなど、“にんじん(報酬)”をぶら下げるのもいいでしょう。

私はコーヒーが大好きなので、目の前に置いて、ドーパミンが出た状態で仕事をすることもあります。飲み始めた瞬間から、ドーパミンの放出量は減ってしまうため、あえて飲まずに、見るだけ。飲みたいと思っている時こそ、ドーパミンの量は最大値になりますから」

空腹時に仕事をするとはかどる、というのも、この作用が働いている結果なのだという。

応用神経科学者が実践! 脳に効果的なメモ術とは?

さらに、青砥氏は「ストレスを感じたけれど、成功できた」という成功体験とストレスをセットで振り返り、ストレスや失敗を恐れない脳の状態をつくることも大事だと感じている。

「脳にストレスを感じた体験と、そのストレスを経て成功・成長を得た体験、そのときのポジティブな感情を紐づけて記憶することで、ネガティブな失敗やストレスにも意味があったと、脳にとらえてもらうのです。

とはいえ、ビジネスパーソンは多忙な毎日を送っていますから、振り返りもできず成功もストレスも忘れていくことが多いでしょう。ですから私は、日々、何ができて、何ができなかったか、何を感じたか、メモをとるようにしています」

青砥氏のこのメモには、4つの項目がある。それが以下だ。

大変だったけれど学べたと思ったこと、辛かったけれど成長できたと感じたことを書き記す「Growth(成長)」。

嬉しかったこと、楽しかったことを書き記す「Happiness(幸福)」。

ストレスを感じたことも含めて、面白いと思ったエピソードをまとめて記す「Neta(ネタ帳)」。

知的好奇心が震えたこと、気になったこと、あとで調べたいと思ったことをストックしておく「Brain(脳)」。

「自分の能力が変化していることを感じられる人は、成長しやすいと言われています。だからこそ『Growth(成長)』を記しておく。そして人間はささやかな幸せや嬉しかったことはすぐに忘れてしまう生き物なので、感情記憶を思い起こせるように、『Happiness(幸福)』を記録し、ハッピーな記憶で自分を埋め尽くすようにしています。

『Neta(ネタ帳)』とは、芸人さんのネタ帳のように、面白いと思ったことをメモする時もありますし、ふとした気づきを記しておくこともある。あとで振り返った時に、この気づきと出来事がつながる瞬間があるかもしれません。そして『Brain(脳)』は、専門分野やそれ以外で気になったこと、好奇心がふるえたことを、忘れないようにまとめておきます。

これらに日々意識を向け、記憶として自分の内側に残し、振り返った際に、自分自身は変化している、成長しているという記憶を脳のなかで同時に表現することが、グロースマインドセット(成長しやすい脳)を育むうえでも、自己肯定感を高めるうえでも大切です」

事実、青砥氏の会社のメンバーにも、日々、GrowthやHappinessを中心にメモし、お互いに共有する仕組みをつくっている。

「1週間に1回、月に何回とかでもいいんです。少しだけ、振り返りに時間を割く。成長のため、自分自身のハッピーのため、そしてストレスとの付き合い方のため、ひとりひとりが意識できたら、会社という組織はどんどん強くなれますよね」

自身の成長と、幸福を常に意識することができれば、ストレスやネガティブな要素をポジティブな力に変える強さを脳は得ることができる。

そして、「好奇心」「ストレス」とうまく付き合えるようになれば、仕事も学習も、そのパフォーマンスは今よりもっと向上していくはずだ。

※前編は関連記事から

TEXT=安井桃子

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