仕事や学習のモチベーションが湧かない、保てない……その悩みを解くヒントは脳の仕組みにあった! アメリカの大学UCLAの神経科学学部を飛び級で卒業、現在は脳科学とテックを応用した教育システムを作り出している応用神経科学者の青砥瑞人氏に、パフォーマンスを向上させるための脳の使い方、そして鍛え方を聞く!
パフォーマンスを向上させるボトムアップ型モチベーションとは
モチベーションが湧かない、なぜかやる気がでない。日々仕事に取り組んでいればそんな日もあるだろう。けれどそれを「仕方ないこと」と諦めていたのでは、いつまでたってもステップアップはできない。実は脳の状態を知り、コントロールしていけば、このモチベーションそのものを自ら操ることができるという。応用神経科学者の青砥瑞人氏が、パフォーマンスを上げるために、知っておくべき脳の仕組みを教えてくれた。
「モチベーションを高める上でキーとなるのは、ドーパミンという神経伝達物質です。ドーパミンには様々な効果がありますが、学習効果を高めたり、行動を促したり、モチベーションを高める上でも非常に重要な役割を担っています。
そもそも、私たちが言うところのモチベーションには2種類あります。ひとつがトップダウン型モチベーション、そしてもうひとつがボトムアップ型モチベーションです。
トップダウン型とは、目標を設定し意識的にその目標に向かわせるモチベーションです。ビジネスの現場でも活用されているモチベーションの一般的なイメージはほとんどがこちらでしょう。一方でボトムアップ型モチベーションとは、好奇心がある状態、別になにか目的があるわけでなくても、知りたいという欲求がある、心がワクワクした状態です。そしてこの“ワクワク”は、腹側被蓋野(VTA)という脳部位からドーパミンが多く放出されているときに感じることができます。
心がワクワクした状態で目標や興味・関心に向かうことは、腹側被蓋野(VTA)からドーパミンが出やすい脳を育むことに繋がり、これはトップダウン型のモチベーションの活用にも影響を与えます」
つまり、普段から、このボトムアップ型モチベーションを活用している人、すなわち好奇心に満ちている人はドーパミンが出やすい状態を導くことができ、実際には興味とは関係のない仕事をしていても、トップダウン型・ボトムアップ型両方のモチベーションを活用して高いパフォーマンスを発揮する可能性が高いという。
「普段からボトムアップ型のモチベーションを高めて暮らしている人は、脳に大きなエンジンを積んでいるようなもの。たとえ仕事でトップダウン型モチベーションが先行したとしても、ボトムアップ型モチベーションを活用して、意欲的に取り組むことができます。
一方で常にトップダウン型ばかりを使おうとしている人は、腹側被蓋野(VTA)からドーパミンが出にくい脳の状態のため、どんなに崇高なゴール設定や目標を立てようと、そこに向かおうというモチベーションにつながりにくい。仕事が楽しめず、集中力も落ちてしまいます」
であれば、ボトムアップ型のモチベーションを育むために、できることはあるのだろうか。
「自分の興味関心、好奇心を大切にしていくのが基本です。よくある悪い例が、興味のあることがあったとしても『これは仕事には役立たないだろう』と、切り捨ててしまうこと。例えば本屋で面白そうな本を見つけても『これを読んで何の役に立つのだろう。そんな時間があったら資格の本を読んだ方がいい』と短期的な利益や明確な目的を優先して、自分の好奇心に蓋をしてしまう。これを続けると、目的ありきのトップダウン型の思考にとらわれてしまい、興味関心をもってボトムアップ型のモチベーションを育む機会を失ってしまうことに繋がります。
そもそも神経科学の世界では“Use it or Lose it(使われれば結びつき、使われなければ失う)”という言葉があります。使えば使うほど、神経細胞は強固に結びつくけれど、使わなくなれば失われるということです。目的ドリブンのトップダウン型モチベーションのみでは、パフォーマンスを最大化させる脳の状態を育むことはできません。反対を言えば、ボトムアップ型を育むことで、トップダウン型に対しても腹側被蓋野(VTA)が活性されドーパミンが放出される脳の状態をつくることができるのです」
部下へのNGワード「それ意味あるの?」
多忙な上司が部下によく言ってしまう言葉のひとつとして「それをやってなんの意味があるの?」「そんな企画は売れない。意味がない」というものがあるだろう。しかしこの言葉を部下が真に受けてしまえば、彼らは興味のあることよりも、意味のあることだけを追い求め、やがてモチベーションを失っていくのだ。
「無目的に行動することにも、実は意味がちゃんとあります。自分が意図していたものとは違う新たな情報に出合う確率を高めて、可能性を広げてくれますから。これをやれば報酬を得られるという、経験に基づいた判断も大事ですが、生物が進化していくためには、それだけでは不十分。ゴールや目的にとらわれてしまっては、機会を創出する可能性を失ってしまいますし、なによりドーパミンが出づらい脳になってしまいます」
では、部下に「それ、意味あるの?」と言いたくなってしまった瞬間、上司として、どう対応するのがいいのだろう。
「すぐに意味や目的を問うたりせずに、まずは面白がってみましょう。『もしかして、こういう可能性もあるのかな?』と自分のなかで妄想レベルでいいから、面白がれる要素を見出して可能性を広げていくように話を聞く。そして、実際に動いてみたうえで、意味や目的を一緒に作りあげていくという意識をもってもらう。相手のボトムアップ型モチベーションを止めないことが大事です」
そして上司自らが、ボトムアップ型モチベーションを高めることも重要だろう。そのために、青砥氏自身が行っていることがいくつかある。
「私の専門は脳ですが、意識的に専門外の分野の論文や資料を読むようにしています。あとは毎日Podcastを朝4時に収録しているんです。今はチャールズ・チャップリンさんを探究したり、歴史だったり、禅だったり、さまざまな分野から学んだことを話しています。誰かに聞いてほしいというよりは、自分のために毎日やっているんです。気になることをメモしておく、好奇心ノートみたいなものですね。それに他の人にもわかりやすく伝えられるかどうか、きちんとアウトプットできるかどうかで、知識の定着を確認している意味もあります。何より、好きなことを学び深めていくこと自体がとても楽しくて、ワクワクするんです」
「時間がない、忙しい」を理由に、好きだったことから遠ざかってしまったこともあるだろう。そしてそのうち、何事に対してもトキメクことができなくなっている自分に気づくはずだ。それこそが、ボトムアップ型のモチベーションを失いつつある脳を再認識するための好機。時には「意味のない」「興味関心のあること」を突き詰め、トップダウン型もボトムアップ型も両方活用できる脳を鍛えることが、本当の意味で、仕事のパフォーマンスを上げることにつながるのだ。
後編では、脳とストレスの関係を青砥氏に教えてもらう。