カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第27回は「ミトコンドリア」。細胞内に存在し、生命活動に必要なエネルギー(ATP)を産生する“工場”とも言われているが、近年、このミトコンドリアの研究が進み、老化に伴う全身の機能低下や病気に関わることがわかってきた。最先端の治療、創薬に挑む東北大学の阿部高明教授に将来の可能性を聞いた。■連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
“体のエネルギー工場”のミトコンドリア
堀江貴文(以下堀江) 阿部先生は東北大学で「ミトコンドリア先制医療」というプロジェクトを行っているんですよね。
阿部高明(以下阿部) はい。細胞内に存在し、生命活動に必要なエネルギーであるATPの95%を産生するミトコンドリアの簡便な診断法と治療薬の開発を行い、その機能を改善することで健康長寿を目指しています。
堀江 ミトコンドリアはどうやってエネルギーを作っているのですか?
阿部 いくつか方法があります。食べた糖を分解してピルビン酸に変える「解糖系」ではATPを2個産生し、次にピルビン酸が「TCA回路(サイクル)」(※1)を回して1個産生します。このTCA回路ではNADHと水素が作られ、NADHからは水素が外れて老化や寿命を制御するサーチュインの活性化を行うNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が作られます。
一方水素は「電子伝達系」に入ってATPが34個と大量に作るのに使われます。従来ミトコンドリアはソラマメのような形で描かれていましたが、実際は細長い形で伸びたり縮んだり活発に動いているのが正常です。
堀江 ミトコンドリアの機能が低下する原因は老化ですか?
阿部 はい。実はATPを作る際に酸素が消費され、その一部は細胞のダメージを起こす活性酸素に変換されます。ダメージを受けつつエネルギーを作っている状態です。長い年月この活性酸素に晒されると機能低下が起こりATP不足が生じて病気につながります。
堀江 それはエネルギー不足による病気ということですか。
阿部 はい。代表的な病気は「ミトコンドリア病」です。ATPの不足と活性酸素の酸化ダメージによる細胞死がおきて、脳卒中や心不全、歩行障害や聴力障害など高齢者に起きる病気が子供に発症する難病です。1歳未満で発症することが多く、進行が速く緊急性が高い病気ですが今まで治療薬はありませんでした。逆に言うと、ミトコンドリア病が治る薬は老化を調節できうるということになります。
堀江 ミトコンドリア機能異常による病気の診断はどうするのですか?
阿部 ミトコンドリアは構成するパーツが多いため、その診断は非常に難しく、病院では皮膚や筋肉を手術で採取して調べる“痛い”組織検査が必要でした。最近、小児科や循環器領域では血中の「GDF15」というマーカーが高値だと「ミトコンドリアの状態がよくない」ということがわかってきました。
堀江 AMED(エーメド ※2)の支援でミトコンドリア病治療薬「MA-5」も開発されていますね。
阿部 はい。腎機能が低下した患者さんは貧血になり、その主な原因は血液中に溜まる老廃物だったのですが、一部の物質(インドール酢酸)は僅かながら、貧血を改善しATPを増やすことをたまたま見つけました。インドール酢酸は植物ホルモンなのですが、実は我々の腸の中でも作られているんです。
そこに可能性を感じ、インドール酢酸の構造を化学的に変えてさまざまな化合物を作ってみると、貧血を改善しATPもよく増える薬「MA-5」が見つかったんです。ミトコンドリア病の患者さんの皮膚では100人中95人に効果が見られました。
堀江 ATPが増えた理由は?
阿部 ミトコンドリアには「クリステ」という巾着のような袋構造があってその中でATPを作っています。生まれつきや加齢でATPを作る“部品”が痛むとATP産生の原料となる水素ができにくくなりますが、MA-5はミトフィリンという物質と結合し巾着の口をギュッと締めるような形になることで水素の濃度が高くなり、ATP産生を助けミトコンドリアの動きもよくなるんです。
現在、健康人を対象とした臨床試験の第1段階を行っており、2023年度中に終了予定です。
ミトコンドリアの機能をコントロールすることが、アンチエイジングの鍵に
堀江 ミトコンドリア病の治療が可能になると、予防医療やアンチエイジングにも波及効果が得られそうですね。
阿部 そうですね。加齢によるミトコンドリアの機能低下や構造変化でATP産生が減少するとフレイル、難聴、腎臓病や糖尿病、代謝疾患、老化等を招くことはわかっていますから。そのほかにも着目していることがあります。
堀江 何ですか?
阿部 MA-5の発見から、腸内の菌体成分やその代謝物がミトコンドリアをコントロールしている。あるいは、ミトコンドリアが酸化ストレスを介して腸内細菌をコントロールしている。こういう関係性もあるのではと考えています。また唾液や尿などでミトコンドリアの状態を示すマーカーGDF15を調べる機械も作っています。
堀江 薬や予防のためのサプリメントを待ちつつ、40〜50代がミトコンドリアの機能維持のためにできることは何ですか?
阿部 まず避けるべきは喫煙と睡眠不足です。また高血圧、糖尿病なら治療する。さらに走ることですね。運動はATP産生を上げることがわかっていますから。
サプリメントに関してはそれらを飲むと健康になれるか、老化が抑制されたかという指標がないのが現状です。効果についてもっと深掘りしていかないと、ただ取り入れただけで効いたかどうかもわからないのでは、予防医療にならないと思います。
堀江 確かにそうですね。さまざまなわかりやすい基準を作っていかないと。
阿部 ミトコンドリア病であれば体外診断用医薬品としてGDF15を測定する検査法はありますが、病院での自費診療なので一般的ではありません。
また患者に対しての数値、基準値はありますが、発症にいたってない人のミトコンドリア機能がどの程度低下しているかを判断できる数値はまだわかっていません。MA-5は低分子化合物で薬として使うと、動物では聴力低下や筋力低下など老化に伴う諸症状を緩和します。
我々もさらに研究を加速させ臨床応用にもっていきたいと思っています。
※1 ミトコンドリアのマトリックスで行われる9段階からなる環状の代謝経路。
※2 国立研究開発法人日本医療研究開発機構の略称。医療分野の研究開発及びその環境整備の中核的な役割を担う機関。2015年設立。
堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。『不老不死の研究』『堀江貴文のChatGPT大全』(ともに幻冬舎)が発売中。
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■連載「金を使うならカラダに使え!」とは……
カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する連載。