2025年9月26日〜28日、ライダーカップが米国ニューヨーク・ベスページブラックで開催される。ローリー・マキロイを中心とする欧州、ギーガン・ブラッドリーが率いる米国。団体戦最高峰の熱狂と注目ポイントを解説するとともに、ゴルファーが憧れるマキロイのスイングも動画解説付きで紹介する。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。

ライダーカップはマスターズと並ぶ“もうひとつの最高峰”
2019年のマスターズでタイガー・ウッズが復活優勝を果たした瞬間は、今も鮮明に記憶に残っている。
荘厳なオーガスタで、パトロンたちが一打一打に息を呑み、拍手が波のように広がる光景は、静けさと熱狂が同居する奇跡のような空間だった。
一方、欧米ではライダーカップもそれに匹敵する舞台だ。
2016年に米国・ミネソタ州ヘイゼルティンで行われた大会では、スタート前から「USA!USA!」と大合唱が響き渡り、まるでサッカーワールドカップやスーパーボウルのような熱狂がゴルフ場を包んでいた。
その場に立つまで、ゴルフというスポーツがこれほどまでに観客を熱狂させ、選手たちをも奮い立たせるとは想像していなかった。
マスターズがゴルフトーナメントの最高峰であるなら、ライダーカップはゴルフの団体戦の最高峰である。静寂と格式に彩られるマスターズ、国威を背負った声援に包まれるライダーカップ。対照的な二つの舞台はいずれもゴルフの醍醐味を凝縮した存在だ。
2025年月9月26日~28日にかけてベスページブラックで開催されるライダーカップは、再び世界中のファンの心を揺さぶるに違いない。
ギーガン・ブラッドリー、39歳で背負うキャプテンの重責
2年に1度、米国と欧州のホームを交互に舞台として開催されるライダーカップは、両陣営からそれぞれ12人が選抜され、3日間にわたって熱戦が繰り広げられる。
誇りを懸けて戦う選手たちに、ファンも声をからして声援を送り、会場は一体となって盛り上がる。その姿を見て育った選手のなかには、代表入りをメジャー制覇と並ぶ目標に掲げる者も少なくなく、その価値は計り知れない。
その舞台に誰よりも強い想いを抱くのが、米国チームのキャプテンに就任したキーガン・ブラッドリーである。
2012年にルーキーとして出場したブラッドリーは、シングルスでローリー・マキロイに敗れたものの4勝1敗と鮮烈なデビューを飾った。
しかし、チームは欧州に敗北。2014年も出場したが、再び勝利には届かなかった。
その後は代表から外れ続け、2023年にはポイントランキング11位に入りながらもキャプテン推薦を得られずに選抜外に。
その際ブラッドリーはSNSで、2012年大会で配られた専用スーツケースの写真を添え、「2012年のライダーカップの最終日以降、一度も開けていない。米国代表に再び選ばれて勝つまでは開けないと誓っていた」と綴った。
アンカリング規制で苦しんだ時期も、この誓いが復活への支えとなり、2022年のZOZOチャンピオンシップで4年ぶりの優勝を果たした際には「ライダーカップに出たい」と涙したほどだ。
失意を吐露しつつも、最後には「今はチームを応援し、後方から支えたい」と切り替えた投稿は、彼のライダーカップへの並々ならぬ執念と潔さを物語っていた。
そして今回、ブラッドリーは39歳にしてキャプテンとしてチームを率いる立場となった。アーノルド・パーマー以来の若さでのキャプテン就任であり、「選ばれなかった男」が今度は「選ぶ立場」に立ったこと自体がドラマだ。
しかも、ポイントランキング11位と選手として十分な実力を示していたことから、パーマー以来62年ぶりの「プレーイングキャプテン」就任の可能性もあると注目された。しかし、最終的にはそれを自ら否定し、キャプテン業に専念する決断を下した。
「チームのために最高のキャプテンになりたい」――その言葉には、ライダーカップへの特別な思いと、主将としての責任感が凝縮されている。自身の出場よりもチームを優先する姿勢は、間違いなくアメリカ代表を奮い立たせることだろう。
直前の米欧トーナメントが示した各チームの状態
ライダーカップ直前に行われた米欧それぞれの大会は、チームの調子を測る絶好の舞台となった。
米国では「プロコア選手権」が開催され、代表候補が多数出場した。スコッティ・シェフラーが大会初出場で優勝を果たし、大黒柱としての存在感と、世界ランク1位にふさわしい安定感を改めて証明した。
ベン・グリフィンはシェフラーと優勝を争って2位に入り、一時はプロをあきらめて住宅ローン会社に勤務していたという異色の経歴を持つ苦労人として注目を集める。晴れ舞台でどのようなパフォーマンスを見せるのか期待される存在だ。
さらにJ.J.スポーンも6位に入り好調を維持。2025年シーズンの全米オープンで初のメジャー制覇を果たすまで、2022年に1勝したものの、世界ランキングは100位前後にとどまり、メジャー出場すら危うい立場にあった遅咲きの選手だ。
しかし努力を重ね、35歳にしてついに米国代表にたどり着いた。スターと苦労人が共存する層の厚さこそ、米国の強みといえる。
一方、欧州では「BMW PGA選手権」が行われ、代表メンバーが揃って出場した。
欧州選抜から漏れたアレックス・ノレンが通算-19でプレーオフを制し2度目の優勝を飾ったが、マシュー・フィッツパトリック、ビクトル・ホブラン、ティレル・ハットンがそろって5位タイに入るなど、チーム勢の健闘が光った。
欧州チーム全体の好調ぶりは、米国にとって大きな脅威となるだろう。
その中心に立つのは、もちろんローリー・マキロイだ。2025年シーズンはマスターズで悲願のキャリアグランドスラムを達成し、直近のアイルランドオープンでもプレーオフを制するなど絶好調。
さらに、ツアー選手権で念願のPGAツアー初優勝を果たしたトミー・フリートウッドは、ライダーカップならではの勝負強さを発揮してチームを鼓舞する存在となるだろう。
そこにジョン・ラームやジャスティン・ローズといった経験豊富な顔ぶれが加わり、盤石の布陣が整った。
難関コースとして知られるベスページブラックで繰り広げられる戦いは、熱狂的なニューヨーカーによる異様なまでの歓声と歌声、拍手とブーイングに包まれるはずだ。
2025年のライダーカップも、再び「これがゴルフなのか!?」と私たちを驚かせてくれるだろう。
マキロイのスイングを真似るヒント
欧州選抜の中心、ローリー・マキロイのスイングは、世界中のゴルファーの憧れだ。美しさと力強さを兼ね備え、容易には真似できないが、飛距離を生むエッセンスは取り入れることができる。
ポイントは地面反力の活用。
右サイドを踏み込むことで生まれる上向きの反力が、スピーディーなバックスイングを導く。ダウンスイングではスクワットのように骨盤を前傾させて沈みこみ、この動作によって再び上方向の反力が生じる。
そこから左サイドの伸び、いわゆる「抜重」が生まれ、肩の縦回転を加速させる。この「N字型」の地面反力の流れを意識することが、形だけを真似るのではなく、本質的なスイング再現につながるのだ。
アマチュアゴルファーは、まずクラブを持たずにシャドースイングでこの流れを体感することから始めてみてほしい。
ローリー・マキロイのスイングの動画解説はコチラ
◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。